日本株運用者の視点

プレビュー取材の消滅

2016年08月15日

小林 あゆみ

小林 あゆみ

日本株式 小型株チーム ファンドマネジャー兼アナリスト

昨年12月、外資系証券日本法人が、同社のアナリストが非公表の企業の四半期決算数値を入手し、限られた顧客に情報を伝達し売買を勧誘したということで、法人関係情報の管理体制の不備に対し金融庁から行政処分を受けました。短期的な株価パフォーマンスに直結する企業業績について、できる限り直前に企業を取材することで、発表予定数値の感触を得ようとする“プレビュー取材”が慣習化し、業績の着地見込みという早耳情報の提供が、証券会社のアナリストのサービスとなりつつありました。

これは、企業のファンダメンタルズの分析をいわゆるモザイクセオリーによって行い、銘柄としての推奨レポートの発行という形で公平に顧客に提供するという、本来あるべきアナリスト業務から乖離した動きであり、業界として是正が求められるところであります。この件に関して日本証券業協会では、「協会員のアナリストによる発行体への取材等及び情報伝達行為に関するガイドライン(案)」を7月に公表しています。同案が今後正式に発行された場合、“プレビュー取材”は基本的には不可となります。いわゆる法人関係情報である公表前の決算数値そのものは無論のこと、業績以外の定量的な性質のものであっても、業績が容易に把握できる情報に関しては、重要情報として法人関係情報に準ずる取扱いをすることを、同ガイドラインでは既定しています。どのような情報が重要情報となりうるかに関してはケースバイケースで判断することになると思われますが、主要な事業セグメントの売上の進捗度合いなどの数値が該当すると推察します。この自主規制を受けて、証券会社のサービスには今後変化が出てくると予想されます。同ガイドラインでは、上記の重要情報に該当しない情報の発信に関しても、基本的にはレポートの発行の形でなされるべきとされており、早耳情報を電話で個別に投資家に伝達するようなサービスが消滅し、代わりに、より長い期間の業績予想に基づいたリサーチレポートがボリュームを増していくと考えられます。

また、日本証券業協会のガイドラインは証券会社、いわゆるセルサイドのアナリストが対象になりますが、弊社を含めたバイサイドにおいても、コンプライアンスリスクを避けるため自主規制を置く会社も出てきました。短期業績のサプライズを超過収益の源泉とする足の速い投資アプローチでは、セルサイドからの情報の減少も重なり、よりアルファが取り難くなる一方で、中長期的な視点で企業分析をじっくり行う当社のようなスタイルの資産運用会社にとっては、相対的には優位な環境となるのではと考えます。取材をされる側の企業においても、単なる足元の業績状況の伝達から、より本質的な長期企業戦略などの内容でのディスカッションの機会が増え、ガバナンスの改善、ひいては企業価値の向上という観点からも、望ましい方向に進んでいくものと考えます。

 

本コラムでは、日本株式運用チームのファンドマネジャー、アナリストが毎月入れ替わりで市場や業界での注目点、気になった話題などをご紹介します。

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