臨時レポート

英国EU離脱により高まるスタグフレーション懸念

2016年06月24日

アザド・ザンガナ

アザド・ザンガナ

シニア欧州エコノミスト兼ストラテジスト

EU離脱をめぐる国民投票結果を受けて

 

 直近数カ月間、市場の不確実性および変動性は増大し、結果的に本日の英国のEU離脱を織り込んできました。EU残留を強固に主張してきた英国のキャメロン首相は、辞任を表明し、今年の10月に新首相が任命されることになります。

 正式なEU離脱表明は、新首相の就任時に行われる予定であり、今後の金融市場の方向性や、短期、長期的なマクロ経済への影響が注目されます。足元の金融市場は、英国国民投票の結果を受けて大きく混乱しており、今後も暫くは変動性が高い相場が継続するものと予想します。

英国マクロ経済への示唆

 EU離脱に伴い、様々なショックや不確実性が予想され、今後2年間のEU離脱条件交渉期間中は、企業は設備投資や雇用計画を見直す可能性が高いと考えます。EU離脱に関する条項が最終決定された際には、英国に拠点を構える国際企業は、英国外への移転を検討し始める可能性もあります。

 このような企業活動の冷え込み、また、英ポンド安に伴う輸入物価の上昇が現実のものとなれば、景気減速下のインフレを引き起こし、国民の生活に影を落とすことになります。そして、さらなる需要低下を引き起こすことが懸念されます。この結果、英国の経済成長率は著しく低下(2017年末までにGDP成長率は0.9%程度低下)、インフレ率は急激に上昇(消費者物価は0.6%程度上昇)すると予想します。

英国中央銀行による金融緩和の可能性

 政策当局は経済収縮を避けるべく、事態の鎮静化を図るものと考えます。中央銀行による利下げや量的金融緩和、さらには財務省による、減税などの財政出動なども予想されます。

 EU離脱の条件交渉においては、様々なシナリオが想定されるため、中長期的な不確実性の払拭は非常に難しい状況です。離脱後の貿易や移住に関する様々な条件交渉の結果次第ではありますが、いかなるシナリオを想定した場合でも、長期的な英国の潜在成長率はEU残留時に比べると低い水準に落ち込むと言わざるを得ません。

 例えば、EUからの移住方針に関して制限が加わることになれば、労働市場は柔軟性を失うことになり、賃金やインフレ、金利などの経済サイクルは不安定になることが予想されます。さらには、景気後退局面は今より頻繁に訪れることが想定され、英国の資産は全般に期待収益が見通しにくくなり、資産価格が下落することも考えられます。

英国の政治への示唆

 キャメロン首相は、これまで強固にEU残留を主張していたため、辞任は避けられない状況でした。保守党はEU離脱後に備え、新首相を選任する必要があります。オズボーン英財務相も、同じような状況下、辞任に追い込まれることも考えられます。

 新首相選任に当たっての選挙活動中には、保守党内のEU残留派と離脱派での分裂リスクがあり、その混乱によってEU離脱のプロセスはさらに長引くことも考えられます。

英国外への波及

 英国のEU離脱に伴う悪影響が欧州全体へ波及していくことは、大きな懸念といえます。今週末に選挙を控えるスペインや、同じく来年に控えるフランスやドイツなど、英国に続き離脱の可能性を引き起こすことになりかねません。また、オランダやイタリアにおいても有力な政治家が国民投票を主張するなど、火種はくすぶっていることから、最悪のシナリオとしてはEUの将来が危ぶまれることもあり得ます。また、英国からのスコットランド独立も、議論が再燃しています。スコットランド国民党は、英国のEU離脱によって、再度、独立のための国民投票を行う準備が整ったとの認識を示しています。

 このような波及効果に対する懸念は、金融市場に新たなショックを与え、金利は長きにわたって低迷、今後さらなる緩和策が必要となる可能性を示唆しています。米連邦準備制度理事会(FRB)においては、英国のEU離脱懸念に配慮し6月の利上げを見送りましたが、年内は金利を据え置く可能性が高まっています。

結論

 英国のEU離脱が現実のものとなったことで、投資家は動揺し、リスク資産は大きく売られています。また、今後に関しても、前述の理由から不確実性は高く、経済に与える負の影響を完全に把握しきるまでには依然として年月を要するものとみられます。近い将来を考えると、英国においては低成長下のインフレ(スタグフレーション)が懸念されます。

 

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