パースペクティブ(約3分)

2023年市場の見通し(アジア(除く日本)株式)

アジア株式市場の2022年のリターンは低迷しましたが、2023年は株価の下押し圧力が緩和されるでしょうか。

2022年12月8日
Chinese lucky cats

著者

トビー・ハドソン
アジア(除く日本)株式ヘッド
ロビン・パーブルック
アジア(除く日本)株式オルタナティブ・インベストメンツ共同ヘッド

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2022年のアジア株式市場のパフォーマンスは、中国市場が下落を主導し、低調な結果に終わりました。

世界的に金利が上昇し、中国がゼロ・コロナ政策を継続する中、2023年のアジア株式市場の短期的な見通しは残念ながらあまり良くないとみています。加えて、中国政府の政策の行方や、米中間の地政学的緊張の継続をにらみ、市場参加者は神経質な動きを続けています。

しかし、悪いニュースばかりではありません。

多くの地域で足元の株価バリュエーションが割安な水準となる中、アジア株式に対する市場センチメントは既に悪化していたので、経済状況に改善が見られれば、中期的に反発する可能性があると考えています。

厳しい状況は世界的に同じ

世界のマクロ経済環境は依然として厳しい状況となっています。欧米の主要中央銀行は、過去1年から1年半の期間に強まったインフレ圧力を抑制するために、積極的な政策金利の引き上げを余儀なくされています。米国では、連邦準備制度理事会(FRB)が極めて積極的なペースで利上げを継続する中、住宅市場が急速に冷え込み、労働市場についても減速傾向が見られるため、景気後退に陥る可能性があります。また欧州では、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻による混乱や、エネルギー・コストの高騰が生活費の押し上げ圧力となり、深刻な負担増を招いています。

超低インフレとゼロ金利に近い状態が長期に亘って続いた後に、この急激な転換が起こったことにより、世界中の消費者、企業、政府、市場参加者は大きな課題に直面し、また市場のボラティリティは高まりました。

アジアの輸出は圧迫される

世界経済の成長鈍化と耐久消費財の需要減速は、既にアジアの輸出、特に情報技術セクターの製品に大きな影響を及ぼしています。

今後数四半期に亘って続くと予想される半導体需要の急激な落ち込みを、株式市場は織り込み、急速に動き出しました。これが、輸出関連産業の比率が高い韓国や台湾の株式市場にとって大きな打撃となっています。

アジア地域では最大の、そして世界では第2位の経済大国である中国における問題は、内的な要因が強いものであると見ています。新型コロナの感染拡大防止策の規制と、ダイナミック・ゼロ・コロナ政策へのコミットメントは、内需の大きな減退要因であり、ほぼ全ての業界、特に消費関連業界に対して影響を及ぼしてきました。

一方、不動産開発業界に対しては、高いレバレッジ(負債比率)からの転換を図るべく、政府がレバレッジを抑制する規制を強化したため、中国の不動産市場は深刻な流動性危機に陥っています。購入者は住宅を買い控え、ディベロッパーはキャッシュをため込む、という動きが進んだ結果、販売量は減少し、新規の建築着工も停滞しています。近年の経済成長の20%以上を不動産建設が牽引してきたため、このような不動産市場の低迷により、経済活動や企業の業績が一段と落ち込んでいます。これらの課題を考慮すると、中国の経済成長に対する見通しは非常に悪化していると考えています。

米中間の地政学的緊張の高まり

米中間の地政学的緊張の高まりから、アジア株式市場のリスクプレミアムも高まっています。米国は中国への技術の輸出規制を強化し、中国を「戦略的競争相手」としてより明確に位置付けました。

一方中国では、習近平氏が国家主席として3期目を続投することが決まりました。中央政治局常務委員会(PSC)は7名で構成され、最も重要な意思決定を行います。新たに政治局常務委員に選ばれた4名(李強氏、蔡奇氏、丁薛祥氏、李希氏)は総書記と仕事上、もしくは個人的に関係が深く、メンバーは習主席に忠実な人物で固められました。中国共産党の政治局委員24名についても同様の傾向となり、習主席とつながりがあるとされるメンバーが多く選出されました。

中国共産党第20回全国代表大会後のこれらの発表を受けて、海外の投資家は中国に対して慎重な見方を強めました。習主席がこれまで表明してきた政策目標を反映し、中国本土では市場原理や民間セクターの活力の余地が少なくなり、国家権力が介入する政策スタンスが一段と強まることが懸念されています。

こういった地政学的緊張は、今後、世界の2大経済大国の「デカップリング」がより顕著になるリスク要因であり、更には中国株式市場への資金流入にマイナスの影響を及ぼす可能性があると考えられます。

中国のゼロ・コロナ政策に懸念が残る

2023年のアジア株式市場の見通しを左右する2つの重要な懸念要因があると考えています。第一の懸念要因は、新型コロナの感染再拡大に対する中国政府の対応です。株式市場は過去1年半の期間に低迷したため、中国政府によるゼロ・コロナ政策の緩和を、市場は非常にポジティブに受け止め、企業利益と株価バリュエーションを押し上げる可能性があります。

中国のゼロ・コロナ政策の緩和は1回限りではなく、むしろ段階的に実施されると考えています。段階的な緩和でも現在の落ち込んだ市場心理を改善し、経済成長を押し上げるのに十分な効果が期待できます。更に香港市場についても下支えし、また緊密な貿易関係を通じてアジアの他の国々の経済成長にも波及効果があると予想しています。

第2の懸念要因は、欧米のインフレ圧力を抑えるために必要とされる今後の利上げの程度、その後の米国と欧州連合(EU)の景気減速の進捗、そしてそれがソフト・ランディングかハード・ランディングか、であると考えています。また、金利サイクルのピークは米ドル安につながる可能性が高く、それがアジア経済の流動性を高め、株式市場のバリュエーションを支えることになります。米国のインフレ率と長期金利のピークアウトが早ければ早いほど、世界の株式市場にとって好材料になると予想されます。

当運用チームが株式市場で選好する分野

短期的な課題はあるものの、韓国や台湾のハイテク銘柄など、アジアの主要輸出セクターの世界的なリーダーである企業は、長期的に持続する成長要因を有すると評価し、選好しています。

香港株式市場においても、足元の景気低迷を乗り越えることのできる価値と強固な事業を有する企業があると見ています。香港、シンガポール、東南アジアの金融銘柄も金利上昇の恩恵を受け、魅力的な株価バリュエーションと配当利回りの水準となっています。

インド株式市場についてもまた、信用供与の普及率の低さと経済の大幅な「キャッチアップ」の可能性から、長期的かつ魅力的な投資機会を提供していると見ています。しかしながら、ここ2-3年は、株価リターンが非常に堅調に推移したため、株価バリュエーションは拡大しています。オーストラリア株式市場については、よりディフェンシブな特性を備え、魅力的な投資機会が多くあると見ています。

当運用チームでは、中国の政治的リスクと構造的成長率の鈍化について引き続き留意しています。具体的には、コロナ規制の緩和後に魅力的なリスク・リターンを得られる分野の銘柄や、政府の戦略的優先事項と密接に連携している企業に注目していきたいと考えています。

 

 

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トビー・ハドソン
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アジア(除く日本)株式オルタナティブ・インベストメンツ共同ヘッド

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