パースペクティブ(約3分)

2023年市場の見通し(グローバル転換社債(CB))

CBはこれまで不安定な市場において効果的に下値抵抗力を提供してきました。

2022年12月29日
New York skyline

著者

マーティン・キューレ
転換社債インベストメント・ディレクター

  • CBは2022年上半期大きく下落
  • 今年の起債額は歴史的な低水準
  • 2023年もボラティリティの高い推移が予想されるが下落局面は防御が期待される。

過去1年間において、CBのコンベクシティ(株価上昇時の連動性が高く、株価下落時は連動性が低くなる状況を測る数値)は通常の水準から逸脱していました。2022年上半期、グローバルの株式市場では、インフレが一過性のものではないことをようやく認識した中央銀行による金融引き締めの動きが優勢となりました。

ロシアのウクライナ侵攻により、エネルギーおよび資源価格の上昇が激化し、株式市場は深刻なマイナス基調に転じました。そして金利の上昇により株式市場は大きく下落し、CBも平均水準以上の下落局面を迎えました。

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2022年後半については、弱気相場が2回到来し、短時間で急激に上昇しました。市場は過度に売られ、市場参加者は保有する資産のヘッジ目的でネットショートポジションを増やしていました。米連邦準備制度理事会(FRB)の政策変更、もしくは年末にかけて利上げの一時停止措置に対するわずかな期待だけでも、市場を力強く上昇させるのに十分な材料となりました。CBは、このような短期的な上昇相場において、株式市場の追い風を受けることが出来ました。

CBの投資ユニバースはグロースと呼ばれる成長企業の比重が大きくなっています。情報技術企業の比率が上位を占めるセクターですが、その他、通信や打撃を受けた消費セクター、プラットフォーム事業などが含まれています。

この投資ユニバースは、MSCI指数よりもナスダック指数の動向に大きく反応し、現在もその傾向が続いています。一方、CBをナスダック上場の成長株と比較すると、下値抵抗力がより顕著に示されます。

アクティビティの復活

2022年上半期におけるCBの新発債市場は静かとなりました。下半期には息を吹き返したものの、過去1年間の起債額は400億ドル程度となり、2022年の年間の起債額は過去最低水準を記録すると予想されます。CBの主要ベンチマークとなる指数を提供しているRefinitiv社によると、CB 全体のユニバースは現在5,000億ドル近くまで落ち込んでいます(2022年11月現在)。

当運用における投資対象銘柄では、株式市場が好調だった2020年と2021年に特性が株式型CBへ変化した銘柄が、株式市場の低下によりバランス型CBの投資ユニバースに再参入しました。これによって当運用の投資ユニバースが拡大し、株式市場の上昇追随性が強いCBへの投資機会を窺います。

足元では企業が借り換えを控えめにしていることは明るい兆しといえます。次に企業がCBを発行するタイミングとして考えられるのは、他の債券市場やクレジット市場の流動性の低下により引き起こされる可能性が高く、発行は限定的となると考えられます。それでも、工業、素材、エネルギーなどの循環セクターの企業が市場に出てくることが期待されます。米国企業は、金利上昇の環境下でも魅力的な条件を見つけてCBを発行することができるはずです。

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ベアマーケットラリー(弱気相場の中の力強い上界局面)におけるポジショニング

今年の市況についてもっとも特徴的な表現のひとつは 「FRBは経済情勢の気候変化を引き起こした」というものです。私たちはFRBによる過去において最も急激な利上げを目の当たりにしてきました。過去4回の会合で75ベーシスポイント(bps)の利上げは、950億ドルの量的引き締めと相まって、前例のない規模となりました。このため、既にFRBの引締めが厳しすぎるという議論も生まれました。

11月の利上げで「75bps」というペースは終了したようです。FRBは方向転換を行わないと考えられますが、2023年初頭に一時休止するまでの間、利上げ幅については縮小すると考えます。

急激な金利上昇は、米国株式市場に約30兆ドルの損失を引き起こしました。これは2008年のグローバル金融危機時よりも大きな損失です。米国の金融情勢は2008年以降で最も大きく悪化しており、グローバルの社債市場の勢いも2008年の低迷期よりも弱まっています。米国の住宅市場では、Case Shiller住宅価格指数もZillow家賃指数も既に下降しています。また、CBは2008年を彷彿とさせる水準で下落しました。

このような類似点がある一方で、非流動性という重要な部分において違いが見られます。投資適格およびハイイールド債いずれにおいても、それぞれの信用スプレッドは極端な拡大はしていません。

これはスローモーションの自動車事故のように見えます。インフレ率の持続的な上昇により、中央銀行(運転手)が驚き、急ブレーキを強く踏みすぎました。そしてFRBはバックミラーを見ながらハンドルを切っている様な状況です。好調な労働市場も、インフレ率算出の一部を占める住宅や持ち家相当の家賃についても、タイムラグがある為遅行したデータです。よって結果は明らかに、景気後退に向かって衝突事故を起こすという事です。

このように市場は悲観的ではあるものの、弱気相場における上昇の可能性に備えてポジションを維持するのは良いことと言えます。資源価格は大幅に下落し、エネルギー価格については、エネルギー危機が危惧されている欧州でさえもガスの貯蔵量を満たした後に下落し、輸送コストは引き下げられ、コンピューター・チップの在庫は増加しました。これらはすべてインフレ率を押し下げますが、これはベース効果が作用する前の話です。

これは短期的にはプラスですが、現在の市場サイクルにおいては新たな強気相場の兆候は見られません。 過去の株式市場では景気後退期の約3分の2が経過した頃、底値を打ちますが、中央銀行が実状を受け入れるまでには景気後退期の最初の3分の1程度の期間を必要とします。米国の7-9月期の経済成長率はプラスに見えますが、足元はまだこの最初の3分の1の段階であると考えます。

一方、米国の貯蓄率はすでにわずか3.1%にまで低下しています。今後の景気後退期において、中央銀行は適切な支援策を講じる必要があります。米国市場では、利上げの一時停止と量的引き締めの終焉となる可能性があります。景気後退期の最後の3分の1では、株式市場は経済の明るい未来を織り込む可能性があります。しかし、現状はまだその段階にはおらず、近づいているわけでもありません。

2023 年、CBを選ぶ理由

欧州中央銀行 (ECB) はFRBより厳しい環境に置かれていることに注目することが重要です。インフレ・データが更新される度に、(ドイツの直近のインフレ率は10月に10%を超えたままでした)、ECBは本気でインフレと戦うか、ユーロ安を容認するリスクを冒すかのどちらかを決定しなければなりません。欧州において最も脆弱なのはイタリアと考えられます。イタリアの新政権が(英国のように)減税予算に言及した場合には、実際に実施するどころか、イタリア金融市場の暴落につながる可能性があります。イタリアが許容できる金利水準でイタリア国債を購入出来る国はECB以外存在しません。

CB市場全体に関しては、大部分は米国CBが占めており、グロース銘柄中心であることを考えると、市場環境に関しては引き続き前向きであり、CBへの投資を支持する3つの強力な議論があると考えています。

まず、アップサイド局面に対する追随性と、下値抵抗力を備えた従来のコンベクシティの水準に安定的かつ持続的な回復が必要であります。CBは2022年上半期以降、周期的に改善されており、弱気市場が到来した後の上昇局面に対して同様の上昇反応を期待できると考えます。株式エクスポージャーに関しては、内包されたオプション性は依然低い水準であるため、CBはより高い下値抵抗力を提供すると考えます。

第2に、CB市場の下落はその他市場よりもかなり早く始まり、原資産となる株式は大きく下落しました。全体的な影響としては、2001年のハイテクバブルの崩壊時と類似しています。ファンダメンタルズの観点からは、ほとんどの発行体の現金燃焼率はマイナスではなく、収益をあげています。そして、CBの投資ユニバースは米国企業が大部分を占めており、欧州の悲観的な状況と比較すると、当市場は魅力度が高いといえます。2023年には、優良な発行体によるCB市場における新規発行、株式市場におけるバリュー対グロースの復活、中央銀行の支援策強化などにより、さらに変化が起こる可能性があります。

最後に、CBは適正価格2%程度低い水準で取引されており、依然として割安とな水準にあります。これは一般的なリスク資産と同水準ですが、CBは売られ過ぎの状況にあると考えます。

 

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マーティン・キューレ
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