欧州情勢アップデート

欧州経済が抱える2つの課題と今後の展望

2019年8月9日

欧州が直面する課題①:貿易摩擦に端を発する先行き不透明感

2019年前半のユーロ圏経済は、前年同期比ベースでみた場合、1-3月期+1.1%、4-6月期+1.2% と、緩やかな成長が続いています。しかし前期比ベースでみた場合、1-3月期は、労働環境の改善(賃金上昇、失業率低下)や、欧州連合(EU)からの離脱に絡む英国への一時的な輸出拡大などを背景に、+0.4%(前期比)となり、外需の低迷から成長が鈍化した2018年後半から回復の兆しをみせましたが、4-6月期に入り +0.2%(前期比、速報値ベース)と減速に転じています。この背景には主に、2018年以降激しさを増している米中貿易摩擦問題と、各国による関税引き上げ等の世界貿易に与える影響懸念が挙げられます。

企業動向をみた場合、サービス業は底堅く推移しています。一方、製造業については、米中貿易摩擦に端を発する世界的な先行き不透明感から、景気判断の分かれ目とされる50(50を上回る状態が続くと景気拡大、50を下回る状態が継続すると景気減速)を下回る状況が2018年終盤以降続いています。

政策面では、世界貿易をとりまく情勢(米中貿易摩擦を巡る米中間の関税引上げなど、保護主義的な動き)から世界景気の先行きに対する不確実性が増し、また欧州では英国のEU離脱をめぐり英国政府とEUとの間の合意が依然として見いだせない環境下、ユーロ圏の金融当局は金融緩和に動く姿勢をより鮮明にしています。例えば、ユーロ圏の景気後退リスクは依然として低いとしながらも、欧州中央銀行(ECB)は、既に2020年中盤まで政策金利の現行水準据え置き(ないしは引き下げ)の意向を示しています。一部には、ECBが9月に政策金利の引き下げに踏み切るとの見方も出ています。

欧州が直面する課題②:英国のEU離脱をめぐる不透明感

2016年6月23日に実施された国民投票において英国がEUから離脱する意向が示されて以降、ユーロはポンドに対して上昇(ユーロ高・ポンド安)を続けています。直近では、ジョンソン氏の首相就任以降、「合意なき離脱」の可能性がより現実味を帯びる中、ユーロはポンドに対してさらに上昇基調を強めています。

7月24日、新しい英国首相に就任したボリス・ジョンソン元外相は、10月31日にEUから離脱する意向を改めて示しました。また同氏は、合意なき離脱は望んでいないとするものの、EU側からの妥協が得られない場合には合意なき離脱に向けた準備を進めるとの見解を示しました。一方、英国のEU離脱に絡みEUで首席交渉官を務めるミシェル・バルニエ氏は25日、ジョンソン首相のEU離脱政策は受け入れられないとの見解を既に示しています。

10月末の離脱期限に向けて想定されるシナリオ

① 離脱期限の再延期

メイ前首相がEUとの間で合意した現行の離脱協定案が英国議会で承認される可能性は、既に英国下院において度々否決されていることからも推察されるように、極めて低いと考えています。一方、議会での勢力分布をみますと、政権与党である保守党は、イギリス・北アイルランドの地域政党である民主統一党(DUP)の協力を得てかろうじて過半数を維持している状況にあります。DUPが北アイルランドと英国本土の分断につながるような離脱協定案については支持しない意向を示している状況は、ジョンソン首相にとっての制約条件の一つになることが考えられます。現行案への支持が過半数に至らず、また「合意なき離脱」に対する反対も根強い状況下、ジョンソン首相はEUに対して離脱期限の再延長を要請する可能性が最も現実的であるとみています。

② 総選挙の実施

英国国内で離脱に向けた進展が図られない場合、総選挙という可能性も考えられますが、2大勢力である保守党と労働党、EUからの離脱を目指すブレグジット党、EU残留支持派の支持を集める自由民主党の4政党がそれぞれ20%前後の支持を集め多極化する現在の政治環境にあっては、議会での多数派形成には困難も予想されます。

まとめ

ユーロ圏経済についてみますと、米中貿易摩擦をはじめとする外的要因の影響から域内経済に弱含みがみられ、英国との間では離脱交渉が難航し政治的に先行き不透明感が残っているものの、労働市場の改善や良好な個人消費、またECBが必要に応じて今後金融緩和などの実施に踏み切る姿勢を示すようになったことは、域内経済の下支え要因となっています。米中間の問題解決には一定の時間を要することが想定されるものの、通商・貿易をめぐる課題が一つ一つ解決に向かうにつれて、ユーロ圏経済も力強さを取り戻すものと考えています。


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