日本株運用者の視点

介護業界の人材難と経営の課題

2019年10月15日

小林 あゆみ

小林 あゆみ

日本株式 小型株チーム ファンドマネジャー兼アナリスト

5年前、同コラムにて、介護報酬改定の業界へのインパクトについて書きました。その後、2015年、2018年の改定を経て、団塊の世代が後期高齢者となる2025年に向け、介護の機能を地域で担う「地域包括ケアシステム」への枠組み作りは、政府主導で着実に進んでいます。しかしながら、その中で優位性が高まると想定していた大手介護サービス企業の業績は、当初の想定を下回っています。介護報酬のカットが想定以上となったことに加え、サービスの要となる人材の確保が加速的に厳しくなっていることも大きな要因です。団塊ジュニアが現役世代から外れ、介護認定者がピークを迎えると予想される2040年を次のターゲットとして、政府は、業界の人手不足への対応策に着手しています。

第一に、介護職の待遇改善です。10月の消費税引き上げを財源に、経験・技能をもつ介護職員の年収を、全産業平均を目途とした440万円のレベルに引き上げることをモデルにした「介護職員等特定処遇改善加算」が創設されました。介護職員以外の職種にも配分が可能です。また、介護職員の重労働を軽減することを目的に、シーツ交換や清掃など介護の周辺業務を担当する「介護助手」が導入されてきています。介護助手は介護保険の枠外の職種ですが、地域医療介護総合保確保基金を活用する事業という形で広がっています。介護助手を導入した施設では、職員の離職率が改善するという結果が出ているようです。健康な高齢者の社会参加としての、介護施設でのボランティアによる動員も期待されています。加えて、外国人労働者を受け入れる体制も整ってきました。今年の4月の改正出入国法の施行により、特定技能を有する外国人の修就労が可能になり、介護職については初年度5千人、5年間で6万人の受け入れが想定されています。さらに、これらの施策による人員数の確保だけでなく、介護職の労働生産性の改善にも取り組む必要があります。複雑化する介護サービスの窓口となるケアマネージャー職については、AIによる最適メニューの提案などのサポート、介護現場での負荷低減のための介助ロボット投入や見守り機能のシステム化など、介護業界で特に遅れているIT化が、幅広い産業との連携の中で強化されることが期待されています。継続的なこれらの取り組みによって、ある程度人手不足は解消されると想定されます。しかし介護事業者の抱える経営課題は減ることはなさそうです。

介護報酬は、総額を抑えられる一方で、付加価値の高いサービスにより傾斜加点される流れの中、人材については、より技能の高い職員の採用、教育訓練、コンプライアンス対応など関連コストが嵩むと予想されます。また、人材以外の面でも、経営の安定化のため、介護報酬に頼らない周辺ビジネスの新規立ち上げの必要性、加えて地域包括ケアシステムの中での病院との連携など、業界の変化を見据えた長期展望が、戦略立案上ますます重要性を増していきます。このような厳しい流れの中、生き残り、成長できる会社を、経営者との長期目線でのディスカッションを通じて、投資対象として見定めていきたいと考えています。

 

  本コラムでは日本株式運用チームのファンドマネジャーやアナリストが毎月入れ替わりで、市場や業界での注目点、気になった話題などをご紹介します。

 

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