投資環境レポート

自社株買いを懸念すべき6つの理由

2018年12月6日

ダンカン・ラモント

ダンカン・ラモント

ヘッド・オブ リサーチ&アナリティクス

近年、企業による自社株買いの実施は投資環境に変化をもたらしており、長期的にも影響を及ぼすことが見込まれることから、投資家は状況を把握しておく必要があると考えます。



著名な投資家として知られるウォーレン・バフェット氏は、同氏の投資会社バークシャー・ハサウェイが2018年7-9月期に約10億ドル規模の自社株買いを実施したことを明らかにしました。このような自社株買いの動きは近年多くの企業でみられており、投資環境を根本的に変化させているほか、長期的な影響も伴うと考えられます。自社株買いを通じて株主還元を積極化することは、設備投資や研究開発などに資金が充てられず、結果として企業の長期的な成長が抑制されるという可能性もあることから、投資家は注意を払う必要があります。

自社株買いとは、企業が公開市場にて自社の株式を買い戻すことであり、企業にとっては配当金と同様、株主還元を行う方法のひとつとなっています。株主は、株式を売却して現金を得るか、株式を保有し続けるかのいずれかを選択することができます。株式の保有を選択した場合、市場全体に流通する株式総数が減少することに伴い株主が保有する株式の保有割合が上昇することになります。

配当と自社株買いでは幾つか違いがありますが(例えば、課税面など)、活用の意味合いという面でも違いがあります。企業が配当金を減配した場合、市場では業績の先行きに対する懸念材料として捉えられる可能性があります。一方、企業が自社株買いを実施した場合には、市場において企業の先行きについて憶測を招くようなことにはつながりません。

 

1. 配当を上回る勢いで拡大する自社株買い

米国では以前、自社株買いが相場操縦等につながるとの懸念があったものの、1980年代に入り、特定の状況下ないしは一定の基準を満たした場合は自己株式の買付けを実施しても違法・違反とはならないとする規則が導入されたことをきっかけに、自社株買いが実施されるようになり、現在ではより多くの企業が株主還元の方法として自社株買いを配当以上に活用しています。

図表1は直近20年間の米国企業による自社株買いと配当に充てた費用の推移ですが、1998年当時は共に300億米ドル程度であったものの、2018年6月時点では自社株買い約2,000億米ドル、配当金約1,000億米ドルとほぼ倍の差が生じており、企業の間で自社株買いを活用している状況が示されています。

 



2. 積極的な株主還元は企業見通しの不透明感の表れ?

企業は、手元資金を内部留保として事業の将来的な成長のために充当するか、または自社株買いや配当として株主に還元するかのいずれかを選択することができます。

大規模な自社株買いを実施することで株主還元を行うとする企業判断の是非については意見が分かれるところであると考えます。

例えば、十分に魅力的であると判断できる状況が見いだせない場合、企業が自社株買いなどを通じて株主還元を行うことは、無駄な投資を行うことに比べ、より責任ある行動であるといえます。

しかしながら、投資機会が不足していることの裏返しとして大規模な株主還元が行われている状況自体、懸念すべき状況であるといえます。企業による自社株買いと配当を通じた株主還元が2009年当時は利益の約60%程度に留まっていたものの、近年ではほぼ100%にまで比率が高まっている状況は、憂慮すべき状況であるのかもしれません(図表2)。

米国経済が拡大を続け、投資を行うことに税制上の利点があるにもかかわらず、企業の間で依然として高い水準での株主還元が行われている現状は、注視すべきです。現在の状況は、企業が業績や景気の長期的な先行きに対して依然として悲観的な見方をしていることの表れなのかもしれません。

 

 

3. 長期的には弊害を伴う高い株主還元率

高い株主還元率は投資家にとっては魅力的に映るかもしれないものの、企業にとっては将来に向けた投資余力を減らしている、即ち、企業の長期的な持続可能成長率を削いでいることに他ならないのです。

長期的な持続可能成長率とは、追加的な資本や借入れの増強なしに企業が実現しうる最大限の成長率を意味し、内部留保率(1-配当性向)と自己資本利益率(ROE)を掛け合わせたものとなります。

図表3は米国企業を対象に、1975年以降の平均的なROEの水準を前提とした、様々な株主還元率での長期的な持続可能成長率を示しています。例えば、企業が利益の約20%を株主還元に充てている場合、長期的な持続可能成長率は11%程度ということになります。一方、株主還元が長期間に亘りほぼ100%という状況においては、長期的な持続可能成長率がほぼ0%に低下するということを示しており、懸念すべき結果を示しています。

 

 

 

4. 近年、株式市場で最も存在感の大きい買手は企業

近年、株式購入の主体は企業が主となっており、主に自社株買いと合併・買収(M&A)を通じた取得となっています。

ここ10年間前後の株式取得の状況をみた場合、株式市場の上昇基調にあっても投資家の多くが株式を選好しなかったという状況は問題であり、世界的な金融危機の傷跡がいかに深いものであるかを示しているといえます。近年では年金基金など機関投資家の多くはリスク削減等の理由から株式への資産配分を減らしており、債券やオルタナティブ資産を選好する傾向がみられます。

ここ数年間の堅調な米国株式市場の背景には株式取得主体としての企業の存在が大きく、今後、企業による株式の取得が減少した場合の市場への影響が注目されます。

現状、企業の手元資金は依然として高水準にあることから短期的には自社株買いを継続することが可能とみられますが、高い株主還元を長期に亘り維持することは持続可能ではなく、自社株買いが近年特に活発に行われている米国を中心に株式市場の動向を注視することが重要です。

 

 

 

5. 低金利環境が自社株買いの追い風に。金利上昇に伴い状況は反転するのか?

自社株買いが活発化した要因の一つに低金利が挙げられます。低金利の環境下、企業は社債を通じて資金を調達し、その資金を基に自社株買いを実施してきました。アップル社はこの典型例であり、ここ数年間に亘り社債を通じて調達した数十億米ドル規模の資金を自社株買いに充当してきました。今後、金利上昇に伴い資金調達コストが上昇した場合、株式市場にはどのような影響が及ぶのか注目されます。

 

 

6. 自社株買いを実施している企業の場合、業績の解釈には注意が必要

自社株買いは市場に流通する発行済株式数の減少につながるため、利益成長が伴わない場合でも、一株当たり利益(EPS)成長率を押し上げる効果があります。例えば発行済株式数が5株、利益が100ドルであると仮定すると、そのEPSは20ドル(100ドル/5株)となります。1年後、利益は横ばいの100ドルを維持しつつも自社株買いの実施により市場に流通する株数が1株減少したとします。その結果、EPSは25ドル(100ドル/4株)へと上昇し25%のEPS成長率は実際の利益成長を伴わずして創出されたことになります。

上記は例にすぎませんが、実際に行われている自社株買いも同様の効果をもたらしています。S&P500を構成する企業の70%以上が2017年7-9月期から2018年7-9月期にかけて自社株買いを通じて市場に流通する株式数を減少させましたが、およそ20[(の企業が4) was not found]以上のEPS成長を実現しています。例えば、アップル社は2018年10月末時点で4年前に比べて発行済株式数を約20%減少させ、EPS成長を実現しています。

企業が自社株買いを実施し結果としてEPS成長を実現しようとする背景の一つに役員報酬が挙げられます。役員報酬の多くは、EPS成長率や株価の値動きと連動しており、自社株買いを通じたEPSの押し上げは取締役が受け取る報酬を引き上げることになります。仮に役員報酬の仕組みや状況が適切に監視・管理されない場合、問題をはらむ報酬制度は企業の長期的な成長を犠牲にして役員個人の短期的な利益を優先させることになりかねないというリスクをはらんでいるといえます。

 

 

 

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