平均インフレ目標政策(AIT)導入が投資家に意味することは?

新型コロナウイルス感染拡大の影響により、市場環境の先行き不透明感が強く漂う中、2020年8月27‐28日に開催された米カンザスシティ地区連銀が主催する国際経済シンポジウム(ジャクソンホール会議)は市場の注目を集めました。

各国中央銀行は、これまで新型コロナウイルスの感染拡大がもたらす市場・経済への影響を軽減させ、金融市場の安定性を維持するために、様々な政策を実施してきました。その中、ジャクソンホール会議における講演で、米連邦準備制度理事会(FRB)は、金融政策の新たな枠組みを公表しました。

一定期間はインフレ率が2%を上回ることを許容し、インフレ率の平均が2%程度を達成することを目標とする、平均インフレ目標政策(AIT)の導入という内容です。

AITとは? 

AITは、インフレ率が一時的にも2%を上回ることを許容するもので、パウエルFRB議長は、数式に縛られたものではなく、フレキシブルなアプローチと説明しています。

これは、過去20-30年間に亘り実施されてきた「正統な」政策に変化をもたらすことになります。これまで、中央銀行は固定されたインフレ目標を設定しおり、インフレ率がインフレ目標を上回った場合は利上げを実施し、下回った場合は利下げを実施することで対応し、インフレ率が目標を上回ることは原則として許容しませんでした。

元々、固定されたインフレ目標は、1990年代にニュージーランドで正式に導入されました。安定的なインフレは、経済拡大に最も適した水準と整合的であるという考え方に基づいています。数々の危機等を経て、1990年代にインフレ目標の導入に至りました。

また、英国では1992年に、英ポンドが急落したポンド危機を経て「インフレ・ターゲティング」 が導入されました。その後、イングランド銀行は、1998年にインフレ・ターゲット2.5%を達成するための金融政策運営について、政策金利の決定などの権限を与えられています。FRBについては、2012年に2%のインフレ目標 が導入されました。

AITに移行するとどれほどの変化が?

2007-2008年の世界金融危機以来、中央銀行は量的金融緩和などの非伝統的な金融政策を実施しており、金利はゼロ付近まで低下する国々もみられるなど、大幅に低下しました。

この間、世界経済は堅調な推移を辿り、米国の失業率は新型コロナウイルス感染が拡がる以前までの約2年間で約50年ぶりの低水準で推移し、米国経済は過去最長となる景気拡大となりました。この意味では、金融政策は、物価の安定、低い失業率、経済成長の維持を促進したといえます。

しかしながら、この経済成長および低い失業率を達成したにもかかわらず、インフレ率は目標を下回って推移してきました。インフレ率が低水準で推移した背景には、様々な要因があるとされますが、従来の金融政策の枠組みは、より高いインフレ率や経済成長を促すという点では、限界に達したという見方ができます。

パウエルFRB議長のスピーチでは、物価の安定は、良好に機能する経済にとっては好ましいと述べる一方で、過去最低水準のインフレ率およびインフレ期待のサイクルに対する懸念を示しました。

投資家のインフレ期待は、長期に亘り、低水準で推移していますが、中央銀行がインフレ目標を2%としていることを踏まえると、ある意味自然なことといえます

シュローダーのエコノミストの見解

シュローダーのチーフ・エコノミストであるキース・ウェイドは、以下のような見解を示しています。

  • AITの導入は予想されていたとはいえ、重要な変化といえます。従来の金融政策の枠組みはフレキシビリティに欠け、インフレ率は異様に長い間、低水準で推移してきたため、今回のAIT導入はその修正を企図したものといえます。
  • 世界金融危機以降、家計は債務の削減に努め、貸し手はより慎重な姿勢をとってきたため、低金利はそれほど有効ではなくなりました。
  • FRBによるAITの導入は、インフレ期待を押し上げ、労働者がより高い賃金を目指し、インフレ上昇につながる可能性もあります。ただし、現段階では労働者によるこのような行動がとられる可能性は低いと考えます。

債券市場への影響は?

AIT導入を受けた当初の市場の反応として、米国債について、より長期の国債利回りが短期国債の利回りの上昇幅を上回って上昇するベア・スティープニングがみられました。8月、長期的に経済成長率やインフレ率が上昇するという市場期待に伴い、超長期債を中心に金利が上昇しました。

債券ファンドマネジャーの見解

米国債券ポートフォリオ・マネジャ―であるリサ・ホーンビは以下の見解を示しています。

  • より長期の国債利回りの上昇が、短期国債利回りの上昇よりも続く(スティープニング)可能性は高いと考えます。
  • 以下4つのファクターに注視しています。 (1)国債発行の量(より長期の国債に偏る可能性) (2)需給ギャップ(新規の発行が、需要を上回る)  (3)FRBのAIT導入(FRBは、インフレ上昇を見越して利上げ実施は行わず、実際にインフレ上昇がみられるまで待つ)  (4)FRBは、イールドカーブ・コントロールを最後手段として残す

一方、キース・ウェイドは、以下のように述べています。

  • より長期の国債利回りの上昇圧力は、インフレ率が実際に上昇し始めた場合にのみ維持される可能性が高いと考えます。これには、緩和的な金融政策だけではなく、公的支出の増加を通した財政政策などの刺激が必要と考えます。
  • これまでとの違いは、経済が回復し、インフレ率が上昇するまでは経済が過熱することを許容され、緩和的な金融政策がより長期に亘り維持されることです。金利は、従来の金融政策の枠組み下における推移よりも、より長期間、より低水準で推移すると考えます。

また、リサ・ホーンビは以下のように指摘します。

  • 米10年国債の平均利回りは、過去10年間で2.2%となっており、この水準に戻るとするならば、足元での0.75%程度の水準を考慮すると、投資家は今後の動きに注意する必要があると考えます

 

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