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【全4回連載②】株式市場の存在意義とは?

2018年9月14日

ダンカン・ラモント

ダンカン・ラモント

ヘッド・オブ リサーチ&アナリティクス

株式市場は、企業が財務成長を目的に資金を調達する場として機能してきました。しかし、欧米では上場企業数の減少がみられるなど、従来株式市場が果たしていた役割に変化が起こっていることを示唆しています。他の資金調達先へのアクセスが容易になったことに加え、株式公開に掛かる費用やその他の負担が要因として挙げられます。しかしながら、すべての役割が消失したわけではなく、株式市場は、一部の地域では現在も発展しており、また、新規株式公開が減少する地域においても、従来とは異なる形で経済的役割を果たし続けています。

前回は、米国および英国において上場企業数が減少している一方で、負債やプライベート・エクイティ市場を通じた資金調達を選択する企業が増加している事象につき考察しました。第2回となる本レポートでは上場企業数が減少を辿る背景にある、公開株式市場が抱える問題点や負担について述べます。

費用と規制が負担となる公開株式市場


株式公開に掛かる費用やその他の負担は大きくなりつつあります。追加的な費用は株式公開前、公開時、そして公開後も継続して負担する必要があります(図表5)。米国においてIPOに掛かる費用の中央値は、資金調達額の規模にもよりますが、資金調達額の9-11%となっており、上場維持に掛かる費用は数百万ドルに上ります⁸。これらの費用が正当化されるためには、株式公開がもたらす恩恵がこれらの費用を上回る必要がありますが、より容易で安価な他の資金調達先にアクセスすることが可能な現在、株式公開がもたらす恩恵は低減しつつあります。



過去の企業スキャンダル(米エンロン社の不正会計事件など)を受けて、上場企業に対する規制は厳格化しており、この事実もまた公開株式市場にとっては向かい風となっています。例えば、米国の証券取引委員会に毎年提出する年次報告書の単語数の中央値は1996年には約23,000語でしたが、2014年には約50,000語と2倍以上に増加しています(図表 6)⁹。なお、単語数は漸増しており、サーベンス・オクスリー法¹⁰(SOX法)などの一つの規制のみに因るものではないと言えます。そして現在では、500ページに及ぶ年次報告書も残念ながら珍しいものではなく、コンプライアンスが遵守されているか確認するために雇われている弁護士以外、全てを読む人はおそらくほとんどいないでしょう。英国も同様の傾向を辿っており、例えば、英国の大手銀行4行の年次報告書は1990年には100ページ以下でしたが、最近では300-600ページに及んでいます¹¹。


企業による開示書類は「より長く、冗長で、読みにくいうえ、不明瞭で定型文的な表現になりつつある」¹²という認識が広がっています。米財務省は規制に関する調査を行い、「情報開示の増加や規制の厳格化などによる負担は、公開株式市場ではなくプライベート市場での資金調達を行うという企業の判断の一因となる可能性がある」¹³としています。

8 OECD Business and Finance Outlook 2017
9 The Evolution of 10-K Textual Disclosure: Evidence from Latent Dirichlet Allocation、Travis Dyer、 Mark H. Lang and Lorien Stice-Lawrence、SSRN 2741682、2016年3月
10 上場企業会計改革および投資家保護法、2002年7月成立。
11 https://www.bis.org/review/r160520b.pdf
12  脚注9参照
13 https://www.treasury.gov/press-center/press-releases/Documents/A-FinancialSystem-Capital-Markets-FINAL-FINAL.pdf

企業にとっては、これらの情報作成に掛かる費用もまた増加しています。財務やコンプライアンスの追加的な人員を雇う必要が出てくることから、小企業は大企業に比べて負担が相対的に重くなると考えられます。欧州委員会は公開を目指す小企業への規制による障壁について見直しを行っています¹⁴。
 

この厳格化する規制が企業にとって負担となっていると判断できる材料の一つに、規制がより緩い市場の人気の高まりが挙げられます。英国ロンドン証券取引所の新興企業向け市場Alternative Investment Market(AIM)の企業数は、1990年代後半では300社程度でしたが、現在はおよそ1000社にまで増加しています(これでも世界金融危機以前のピーク時に比べると大幅に減少しています)。AIMとその先駆けであるUnlisted Securities Market(USM)を分析に含めた場合、1970年代以降の英国の上場企業数の減少は大分穏やかなものとなります(図表7)。メイン市場の失われた勢いを取り戻すためにロンドン証券取引所が行った取り組みに、「スタンダード上場」の導入があります。「スタンダード上場」は、欧州連合(EU)が定める基準の最低条件を満たす一方、「プレミアム上場」は、EU基準より厳しい英国の規制やコーポレート・ガバナンスに関する基準を満たす必要があります。

しかしこれまでのところ、この戦略は相対的に成功しているとは言い難いでしょう。「スタンダード」という名称は、特に「プレミアム」と比べると「二番手」という印象を与えるほか、さらに英国における主要株式指数であるFTSEラッセル指数には、スタンダード上場企業は組み入れられないことが、スタンダード上場の需要にマイナスに働いています。
 

 

米国証券取引委員会(SEC)もまた、規制負担がIPOの需要に与える影響を認識しています。2012年に成立したJumpstart Our Business Startups(JOBS法)は、新興成長企業に該当する企業に対して、上場に必要な条件の緩和を制定しており、多岐にわたる情報開示や会計基準要求をすべて満たすまでにIPO後5年間の猶予を与えています。2012年以降、米国IPOの85%は、この規定を活用しています。この規制緩和が行われなかった場合、株式公開に至らない企業数がどれ程の数になっていたか推測することはできませんが、これらの規制緩和が企業の株式公開の後押しとなっていることは明白であると言えるでしょう。

規制は投資家からの信頼を高める一方で、過度の規制は企業を株式公開という選択肢から遠ざけ、非公開を維持する流れを加速させかねません。米国のように規制緩和がIPOの促進につながっているという事象が確認されていることを鑑みると、政策決定者や規制当局は規制によって生じる費用と恩恵の総括的な分析・評価を実施し、公開株式市場の再活性化に結び付ける必要があると考えます。
 

14  http://www.europarl.europa.eu/legislative-train/theme-deeper-and-fairer-internalmarket-with-a-strengthened-industrial-base-financial-services/file-review-ofregulatory-barriers-for-sme-access-to-public-markets

 

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