プロの視点

サステナブル投資を支えるデータサイエンス


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データサイエンスによって、ESG(環境・社会・ガバナンス)ファクターのレンズを通した投資分析の精度がますます高まっています。

シュローダーは2014年に「データ・インサイト・ユニット」(DIU)と呼ばれる部門を立ち上げました。以降、データサイエンスの視点がシュローダー独自の運用向けツールキットに組み込まれ、オルタナティブデータなどの非伝統的データが投資ツールの開発やファンドマネジャーに対するリサーチサービスの提供に活用されています。

永久凍土の融解の追跡から取締役会の構成者分析に至るまで、データから導き出したサステナビリティに関わる知見がさまざまな用途で力を発揮しています。

 

データサイエンスが債券投資家に教えてくれること

DIUは、2019年からシュローダーの米国地方債チーム、北米サステナビリティエキスパートとともに、地方自治体レベルのデータの分析に取り組んでいます。この三者の協働から生まれたのが「Schroders Municipal US Sustainability Explorer (MUSE)」です。

米国では各州に数千の地方債券発行体が存在し、ファンダメンタルズの観点からもサステナビリティの観点からもそれぞれに特徴があります。

このシュローダー独自の投資ツール、MUSEを使えば、アナリストがESGファクターに紐付く数十のデータポイントにアクセスでき、それを基に米国内の3,000を超える郡の総合サステナビリティスコアが算出できます。

このツールの独自性は、各郡を構成する各自治体を支える人口についてフォーワードルッキングな見方ができる点にあります。

例えば、図表1は米国内各郡のMUSEサステナビリティランキングです。緑は上位、赤は下位を意味します。

北米インテグレーテッド・リサーチ責任者のデービッド・ナットソンは次のように話しています。「新型コロナウイルスの感染拡大によってクレジット分析はますます難しくなっています。経済活動の制限による長期的なマイナス影響は、この先のどこかの時点で州や地方自治体が難しい課題に直面することを意味します。このリサーチモデルを活用することによって、医療アクセスをはじめとする発行体の機能維持能力に影響し得る要因を踏まえた発行体比較が可能になりました。」

 

企業の取締役会構成者データからわかること

長期投資のアクティブ運用においては、企業のガバナンスも重要な注目ポイントです。

投資家にとって取締役会の構成者、在任期間、経歴はすぐにわかる情報ですが、シュローダーには各業界の類似企業をピアグループとしてグルーピングできるツールがあります。

女性比率やその企業の取締役会以外で受けているその他の責務など、幅広い測定項目から競合他社比較を行うことが重要です。

取締役同士の過去の協力関係やその期間を知ることもできます。過去の関係性はその取締役会にとってプラスの特性であり、さらに連携が深まることが期待できますが、その一方で企業ガバナンスにマイナス影響を与えるいわゆる集団思考の温床になる場合もあり、注意を要するシグナルともいえます。

また、この種のデータ分析は見落とされがちなインサイトの発掘につながる可能性もあります。例えば、まったくの異業種出身者または畑違いの経歴の持ち主が取締役会に新たに加わった場合、それは新規セクターへのシフトまたは新サービスの提供が検討されている兆しかもしれません。

私たちはこの分析手法を英国のある大手銀行に応用しました。その結果としてまとめた図表2は、取締役会に関するいくつかのデータ測定項目をピアグループ(FTSE 350に含まれる国内銀行)の集計に照らして比較したものです。このように視覚化することによって特定の銀行と競合銀行との比較が容易になります。

例えば、この銀行は競合銀行との比較において、下記のようなことが体系的かつ視覚的に捉えることができます。

  • 取締役会の規模が平均を上回る。人数がピアグループの1.2倍
  • 直近の任命からの在任期間スコアが高いことから、取締役会の安定性が比較的高い
  • 女性比率がピアグループと比較して低い
  • 取締役としての活動時間がピアグループと比較して若干短い
  • 現会長の在任期間がピアグループと比較してかなり短い

 

データが可能にする積極的なエンゲージメント活動

アクティブ運用の資産運用会社として、私たちは投資先企業に日常的に接触していますが、これはサステナブル投資に欠かせない活動です。データサイエンスが深い質問や情報提供依頼につながった事例を2つご紹介します。

1.非現実的な事業拡大を目論むスーパーマーケットチェーン

そのスーパーマーケットチェーンは、IPOの一環として年間1,000店のペースで新規出店し、向こう5年で店舗網を倍の規模にする計画を公表していました。極めて野心的な戦略と考えられ、IPO段階の銘柄に適正金額を支払うという意味でも、この目標が果たして現実的なものであるのかを知りたいというのが投資家側の意見でした。

そこで私たちは地理空間的データサイエンスを基に同社の既存店舗および競合店舗の所在地を、人口密集地域を中心に地図上に示しました。これによって出店需要があるのか、それともすでに過密状態にあるのかを評価できます。

一例として、図表3にはトルコ国内の状況が示されています。それぞれの丸はそのエリア内の店舗数を示し、丸が大きいほど店舗数が多いことを意味します。丸の色はエリア内全店舗に占める自社店舗の割合を示します(濃い緑になるほど自社店舗、濃い紫になるほど他社店舗の割合が高い)。この地図を見れば出店を拡大した場合に共食い現象が起きる可能性のあるエリア、競合店舗がすでに多いエリア、出店の検討余地があるエリアを見極めやすくなります。

この分析に基づく私たちの試算によると、向こう5年で現実的に新規出店可能な数は最大で3,000店程度であり、これは経営陣の主張よりも2,000店少ない数字です。そこで経営陣に対してこちらの数字を示し、目標値をどのようにはじきだしたのかを確認しました。

こうした分析によって経営陣とより深い対話ができるだけでなく、それ以外の事業活動要素を明らかにするきっかけにもなります。

2. 永久凍土の融解リスクに直面するロシアの油田・ガス田・金鉱山

シベリアでの石油・ガス生産に影響する気象の傾向や地理的変化を、特に永久凍土の融解の観点から分析するためのツールを開発しました。

永久凍土が溶けることによって地中のバクテリアやウイルスが放出されるなどの影響が予想され、二酸化炭素やメタンなどのガスが大気圏に放出されれば、気候変動が加速します。永久凍土の融解は、永久凍土地域で事業活動を行う企業にとって深刻な気候変動による物理的リスクです。例えば土壌が変化すればインフラに影響が及び、洪水の発生リスクも高まります。

開発したツールでは、ロシア国内の主要企業と油田・ガス田・金鉱山、それらの所在地の地表温度変化をカバーしており、リスクを抱えた企業に対してより確かなデータを踏まえたエンゲージメント活動を行うことができます

図表4を見ると、例えば1番目の企業が運営するTambeyskoye地域の鉱床では2020年の1年間に気温が氷点下を下回った日の割合はわずか44.4%で、2019年の74.3%と比較して大幅に低下しています。

投資家側はこの知識を基に永久凍土の融解によってどのようなリスクが及ぶのか、その企業の見解を確かめることができます。

エマージング株式アナリスト、ジェームズ・ファーガソンは次のように話しています。「DIUのダッシュボードからは、自分たちではなかなか真似できないデータインサイトを得ることができ、各地点の永久凍土の融解ペースを追跡したり、環境変化のリスクが想定される企業を特定したりなどに役立っています。今回の分析を踏まえてリスクのある地域内で操業する6社とエンゲージメントを実施し、気候変動の物理的リスクに対する考えを確認しました。」

 

まとめ:ESG 意識の高まりとともに活用が広がるデータサイエンス

投資家である顧客に持続可能なリターンを提供するという意味で、サステナビリティリスクに伴い想定される影響を数値化する重要性は増しています。ESGに関する測定項目は多岐にわたり、膨大なESG関連データが蓄積されています。その結果、投資家はより深いインサイトを手に入れることができます。

シュローダーでは、運用プロセスにおいて、伝統的データと呼ばれる財務諸表や経営陣によるプレゼンテーション、プレスリリースといった定量データを役立てるのはもちろん、一昔前にはなかった新しいデータの活用も重要視しています。より高度な手法を駆使し、セクター分析やエビデンスまたはリサーチポイントの提供に活かすことによって、投資家から企業への質の高い積極的な問いかけ、働きかけを支えます。

 

重要なお知らせ:
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