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本当に日本企業はESGにおいて遅れているのか?


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サステナビリティ分野においては、欧州企業が世界をリードしており、他地域の企業は後塵を拝していると思われがちですが、本当にそうでしょうか。

例えば、日本がESG(環境、社会、ガバナンス)において優れた企業が多い国であることは見落とされているように見受けられます。

シュローダーのグローバルバリュー・ポートフォリオマネジャーであるリアム・ナンは次の通り述べています。「日本がサステナビリティ課題において遅れをとっているというのは作り話のようなものです。実際は、多くの日本企業がステークホルダー・マネジメントへの取組みにおいて先進的な取り組みをとってきたと考えています。」

社会に対するベネフィットの創出

ESGにおける企業の強みと弱みを評価する際に、多くの投資家が様々なステークホルダーへの対応に焦点を当てます。つまり、環境のみならず、従業員やサプライヤー、顧客、コミュニティ、株主への対応を考慮しているということです。

シュローダーの日本株・ファンドマネジャーである竹爪正樹は、「ESG投資の社会分野(S)における日本の強みは、サステナブル投資への昨今の潮流よりずっと以前から根付いているものです。」と述べています。

さらに、「コミュニティへの強い取り組みは、サステナビリティにおいて日本企業がもつ優位性であると言えるでしょう。大企業であっても“本拠地”を持ち、そのお膝元地域においてサプライヤーやコミュニティと強いつながりを持つ傾向があります。このことは間違いなく素晴らしいことですが、我々は株主として、単に地域のみに焦点を当てるのではなく、より広範でグローバルな視点でサステナビリティを考慮するよう、企業に対して促していく重要な役割があります。」と加えています。

この例は、ある企業の製品に見られます。臨床検査サービスを提供するH.U.グループホールディングスを例に挙げてみましょう。バリュー株式・サステナブルインベスト・リードであるロバータ・バーは、「H.U.グループホールディングスによる迅速な新型コロナウイルス検査キットの製造は、日本のパンデミック対策に不可欠でした。」と述べています。

また、情報共有も一部の企業が社会的責任を理解していることを示す方法です。2020年9月、NTTは、KDDIと社会貢献連携協定を締結しました。このについて、リアム・ナンは次の通り述べています。「この協定により、大規模な自然災害が発生した際に、両社の資産を相互活用することができるようになりました。自然災害の多い地域で、障害がないコミュニケーションサービスを提供することに大きな社会的価値があることは明白です。」

緊急時だけではないESGへの取り組み

日本企業は緊急時にのみ社会への貢献を考慮しているというわけではありません。顧客や環境に社会的利益をもたらすと同時に、事業活動においても利益を得られるような取組みを行っている企業もあります。

ロバータ・バーは「NTTはこの点でも良い例です。同社は、十分なサービスを受けていない人々に対して電気通信へのアクセスを向上させるために、同業他社と比較して優れたイニシアチブをもっています。例えば、日本で高齢化が進む中、高齢者によるインターネット利用を支援するためのプログラムが長年にわたり確立されています。」と述べています。

また、より環境に配慮している例として、パナソニックホールディングスが挙げられます。リアム・ナンは次の通り述べています。「パナソニックホールディングスは、産業エネルギーの効率性を向上させ、炭素排出量を削減するために必要不可欠だと考えられる複数の領域において、重要なプレイヤーであり、投資家です。」

「恐らく、パナソニックホールディングスの取り組みの中で最も目を引く例は、電気自動車ソリューション改善への投資です。議論の標的となっている金属への依存を減らすために、コバルトフリー電池の開発に取り組みなどが含まれます。」

コバルトは、電気自動車用バッテリーやスマートフォン、ノートパソコンなどに使用されているレアメタルで、銅やニッケルを採掘する際に生じる副産物です。

従業員との関係が強み

日本は海外と比べて、雇用主と従業員の間に強い関係があると言われています。特に、日本の「終身雇用」は海外においても話題になります。

竹爪は次の通り述べています。「トヨタ自動車のような大企業では、若い社員に対して社員寮を提供するのが一般的です。会社からすると、企業文化を定着させ企業への『忠誠心』を育むために実施しているのでしょう。」

「また、従業員にとっても、転居にかかる高額な費用を一部削減できるほか、様々な同僚と知り合う機会が得られるなど、多くのメリットがあります。」

「一方で、異なる意味合いも含まれています。そのうちの一つは、雇用の安定性が向上し、雇用主と従業員の間の『忠誠心』が高まることで、効果的に昇給要求を抑制している可能性があるということです。」

環境への評価は様々

環境や有害排出ガスの削減ということになると、その現状はより複雑です。竹爪は、「東日本大震災とそれに伴う福島第一原子力発電所事故により日本の全ての原子炉が停止し、その後10年以上にわたって日本ではエネルギー安全保障が懸念されています。その結果、日本の輸入化石燃料への依存度は非常に高いままです。」と述べています。

しかし、一部の企業が排出量削減と気候目標を実現する必要性を真剣に考慮している兆しがあります。

グローバル・バリューポートフォリオマネジャーであるサイモン・アドラーは、次の通り述べています。「最近、ある日本の資本財企業にエンゲージしました。その企業は、2℃目標に沿った排出量削減目標を掲げていましたが、それでは野心的ではないと感じていました。幸いなことに、現在その企業は1.5℃目標実現を目指しています。」

株主重視の姿勢が強化

そのほかのステークホルダーへの注力という点で、ここ数年間で、明確に株主重視の姿勢がより強まりました。

竹爪は次の通り述べています。「コーポレート・ガバナンス改革により、経営者は配当や自社株買い等を通して株主還元をより重要視するようになってきています。」「一般的に、米国や欧州の競合他社と比較して日本企業の財務状況は健全であり、株主還元を重視するこの傾向は今後も続くでしょう。」

以下の図は、日本企業による配当と自社株買いが2022年度通期で過去最高を更新する可能性を示しています。

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サイモン・アドラーは次の通り述べています。「株主還元に向上が見られた企業の具体的な例は電通グループです。同社は本社オフィスを売却し、売却額の一部を株主に還元しています。」

ロバータ・バーは次の通り述べています。「資本政策が改善した他の例として、ゲーム事業およびEコマース事業を展開するDeNAが挙げられます。」「同社は保有していた任天堂社の株式の一部を売却し、株主還元に使用することができる現金が増加しました。

多くの日本企業は、株式の持合いにより、一部の企業価値が棄損されています。持ち合い解消が進めば、企業価値向上につながります。そして、これはエンゲージメントが企業価値向上につながる典型例であると考えています。」

取締役会の多様性には改善余地

最後に、日本企業の取締役会において多様性が欠けていることは言及する必要があります。あらゆる組織において、様々な見解や意見は、よりよい意思決定を下すために必要不可欠です。

ロバータ・バーは「日本企業の取締役は、年長の日本人男性が大半を占める傾向があり、外国人取締役はほとんど見られません。弊社が企業に要求していることは、女性が取締役レベルになるために必要な経験を得るために、どのようなパイプラインや支援を実施しているのかということです。」と述べています。

竹爪は「良い兆候として、取締役会における多様性の推進を含むコーポレート・ガバナンスは、今や政治的課題ではなく、規制の問題となってきています。」と述べています。

日本版コーポレート・ガバナンス・コードとスチュワードシップ・コードの導入は、故安倍晋三元首相によって推進されました。しかし、取締役の構成および機能の強化、取締役会の多様化、そして情報開示の改善が焦点となっているその後のコード改訂は、政治家ではなく規制当局によって促されています。

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