市況
8月のグローバル債券市場は、主要国の国債利回りはまちまちとなりました。米国は、月初に発表された経済指標が雇用関連を中心に軟調だったことから米国経済の弱さが懸念され、株式市場が下落するなか、米国債利回りは大幅に低下して始まりました。その後は、米国経済に対する過度な懸念が収まり、資本市場は落ち着きを取り戻しました。安全資産需要が弱まったことは利回りの押し上げ要因となった一方、インフレ関連指標は緩やかな鈍化傾向が継続し、連邦準備制度理事会(FRB)による利下げが9月に開始するとの見方が利回りの低下要因となりました。欧州は、米国市場の影響から月初はドイツ国債利回りが低下しましたが、月後半は、ユーロ圏の経済活動の拡大ペースの加速を示す経済指標等を材料にドイツ国債利回りは上昇基調となり、前月末からほぼ変わらずの水準で月を終えました。英国は、コア消費者物価指数(CPI)およびサービス価格の上昇率等一部のインフレ指標は鈍化したものの、月下旬に短期債を中心に英国債利回りは上昇し、英国10年債利回りも前月末の水準を上回って月を終えました。
8月の国債市場では、米国10年債の利回りは4.06%から3.92%、ドイツ10年債の利回りは2.30%から2.29%に低下の一方、英国10年債の利回りは3.97%から4.02%に上昇となりました。クレジット市場については、グローバル投資適格社債の対国債超過リターンは0.07%、グローバル・ハイイールド債の対国債超過リターンは0.65%と国債をアウトパフォームしました。
パフォーマンス
8月のパフォーマンスは1.24%となりました。
米国および欧州を中心にデュレーションをロングとしたことが主なプラス寄与となりました。また、選別的なエマージング債券の保有や、月前半に機動的に構築、解消した豪州の対米国でのO/W (相対的な利回り上昇を見込むポジション)もプラスに寄与しました。
通貨戦略は、米ドルの対ユーロでのO/Wは小幅にプラスとなったものの、ブラジル・レアルの対チェコ・コルナでのO/Wがマイナスに寄与しました。
クレジット戦略は、当月は欧州投資適格社債の保有は小幅にマイナスとなったものの、米国投資適格社債の保有や、投資適格に比べて堅調となった米欧ハイイールド債の小幅な保有が主にプラスに寄与しました。
投資行動・投資方針
マクロ経済シナリオ分析では、ハードランディング・シナリオの実現可能性を引き上げました。この変更に伴いソフトランディング・シナリオの実現可能性を引き下げましたが、現段階ではソフトランディング・シナリオがベースケース・シナリオであることを改めて強調しておきたいと思います。今回の変更は主に2つの要因を反映しています。1点目は、製造業先行指標が足元軟化していることです。米国、欧州、中国等世界的にこの傾向が見られます。製造業は景気循環的なセクターであるため、運用チームではこのシグナルを重視しています。2点目としては、米国の労働市場にひっ迫緩和の兆しが見られたことです。8月初めの非農業部門雇用者数の伸びが市場予想を下回ったほか、新規失業保険申請件数が増加し、労働市場に対する消費者信頼感も悪化しています。経済成長見通しと米連邦準備制度理事会(FRB)の意思決定の双方において労働市場が極めて重要であることを考慮すると、ハードランディング・シナリオの実現可能性を高めるのが妥当であると考えます。ただし、労働市場の軟化は見られるものの、全体としては健全であり、ISM雇用指数等の先行指標も今後の悪化は大幅ではなく、小幅なものになると示唆しています。
なお、インフレが大幅に改善したことで、FRBは必要であれば、より迅速に利下げを実施する選択が可能になってきています。そして、インフレの大幅な改善と、労働市場に対する下振れリスクの組み合わせにより、FRBの政策決定には非対称性が生じていると運用チームは考えます。つまり、強めのデータが出てきた場合の「タカ派的」な反応に比べて、同程度に弱いデータに対しての「ハト派的」な反応はより大きくなるとみています。よって、金利の正常化プロセスは市場が予想するよりも早く、そして迅速に起こる可能性があります。
このような見通しに基づき、金利戦略では、グローバルのデュレーションに対して強気の見方を維持いたします。エマージング債券についても、米国の利下げタイミングが近づいてきていることはエマージング市場にとって好材料と考え、選別的な保有を継続いたします。クレジット戦略では、証券化商品等高クオリティながら同等の格付けの国債に比べて相対的に高い利回りを提供するセクターを引き続き選好します。社債については、年限が短めの欧州投資適格社債についての選好を継続いたします。米国投資適格社債のスプレッドは歴史的にタイトな水準になっており、保有を相対的に抑制いたします。
注記:ソフトランディングは、グローバル経済が緩やかに減速し、市場も緩やかな景気後退を織り込むシナリオを指します。このシナリオにおいて想定する主な市場の動きは、金利低下、米ドル小幅下落、スプレッド堅調となります。ハードランディングは、グローバル経済が急激に悪化し、市場のリスク許容度が急低下するシナリオを指します。このシナリオにおいて想定する主な市場の動きは、金利低下、米ドル上昇、スプレッド軟調となります。ノーランディングは、経済の堅調さが継続、インフレは鈍化も目標は上回り、利上げが長期化するシナリオを指します。このシナリオにおいて想定する主な市場の動きは、国債利回り上昇、クレジット・スプレッド小幅軟調となります。
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