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- 2020年の世界経済見通しは2.6%へ上方修正
- 堅調な米国労働市場に加え、米国の低金利環境も支援材料
- 欧州政府の財政拡大による景気刺激策は限定的と見込む一方、米中貿易協議の進展は、欧州およびエマージング諸国にとって好材料
世界経済の低成長がしばらく続いてきましたが、2020年は堅調な推移が見込まれ、史上最長の景気拡大期はさらに延長されると考えます。2019年は世界経済減速の米国経済への悪影響が懸念されたものの、米中貿易摩擦懸念の緩和や米国の低金利が米国経済を下支えしました。2020年の世界経済成長見通しについては、2.4%から2.6%に上方修正しました。
米中貿易協議における「第一段階合意」は世界貿易や設備投資を促進し、米国に加え欧州および日本にとって支援材料となると考えます。また、中国の経済見通しについても上方修正を行っています。香港やアルゼンチンなど、個別に懸念材料を抱える地域も存在する一方で、エマージング諸国経済は全体として上昇していくとみています。
米中貿易協議の進展は欧州にとって好材料
米中貿易協議の進展は、輸出主導の経済である欧州にとって好材料といえます。多くの欧州諸国の内需は相対的に堅調である一方、外部環境が欧州経済の下押しとなっていたことから、貿易の回復は2020年の欧州経済を下支えすると見込んでおり、ユーロ圏の経済成長見通しを0.9%から1.2%に上方修正しました。
欧州中央銀行(ECB)のラガルド総裁は、ドラギ前総裁の緩和路線を引き継いでおり、2020年にはあと1回の利下げの実施を見込んでいます。また、ラガルド総裁は経済成長の促進を企図した減税やインフラへの支出などの財政拡大の必要性を強調しています。
この点においては、シュローダーのエコノミクス・チームとしてはやや懐疑的な見方をしています。ドイツやオランダなどの財政拡大余地が最も大きい国々は財政拡大に対しては消極的な傾向があり、数十年先を見据え、主に人口の高齢化に伴う社会保障関連費用に対する懸念を持っていることから、これらの国々の政府が積極的な経済政策を実施する可能性は高くないと考えます。
一方で、英国では二大政党が共に緊縮財政の終了を公約していることから、財政拡張の可能性が高いと考えています。英国の経済指標は、在庫積み増し等の「ブレグジット準備キャンペーン」の影響により歪められているなかでも、家計消費がけん引して英国経済は大きな打撃をうけることなく推移してきましたが、今後も低水準での推移が見込まれます。また、2020年についてはイングランド銀行(BOE)は金融政策を据え置くと考えています。
エマージング諸国経済の見通しは改善
多くのエマージング諸国では経済成長の勢いが加速しつつあり、貿易の回復や、インフレ率の落ち着きを受けて中央銀行による利下げ余地が引き続き存在していることが支援材料になるとみています。また国による政策が重要な役割を果たすことが見込まれます。
例えば、ブラジルでは、年金改革法が成立したことから、景況感の上昇、経済活動の活性化などが見込まれます。一方、インドでは、銀行の不良債権問題など多くの問題を抱えており、これらの問題に対応するための政策の実施が期待されます。ロシアでは、経済の安定化が重視されていますが、経済成長は低位での推移が見込まれます。
また、2020年は中国にとって重要な年と言えます。2010年に中国政府は、2020年までに国内総生産(GDP)および1人当たり国民所得を倍増する目標を打ち出しており、この目標を達成するには最低でも6%程度以上の経済成長率を維持することが必要となるため、さらに経済成長を支援する政策が打ち出される可能性もあります。
エマージング諸国経済におけるリスクとしては米中通商問題や地政学リスクが挙げられます。米露関係は緊張状態が継続しており、今後米国のロシアに対する制裁が強化される可能性もあります。
米国の低金利環境も支援材料
米中貿易摩擦懸念の後退に加え、低金利環境も支援材料となります。政策金利や国債利回り、米ドルの水準から判断する金融環境は過去10年間で最も緩和的な水準にあります。このような環境下では家計や企業による借入の増加や、流動性の拡大が見込まれ、米国の住宅市場では既にローン申込数や住宅着工件数の上昇がみられています。
世界経済見通しは引き上げたものの、世界のインフレ率は相対的に安定的な見通しとしています。米国コアインフレ率は、2019年は2.5%程度となることを見込んでおり、米連邦準備制度理事会(FRB)の2%の物価目標を上回りますが、FRBは長期的な物価目標達成のために物価目標を上回った水準での一時的な推移を許容すると考えます。また、原油価格がインフレ率を上昇させるリスクも低いとみています。インフレ水準や経済成長の低位での推移を考慮してFRBは2020年4月に利下げを実施すると予想しています。
経済成長およびインフレリスク
足元では経済成長とインフレのリスクのバランスが取れており、インフレ加速のリスクは高くないと基本シナリオでは想定しています。ただし、米国労働市場のひっ迫が賃金上昇につながるリスクは依然として残っています。賃金上昇は消費にとってはプラス要因ですが、FRBはインフレ上昇圧力に対応するために金融政策を引き締め方向に変更する可能性もあります。
また、賃金上昇に加えて、低金利環境を背景に家計が借入を行って支出を増やし、米国の消費者が世界経済成長をけん引することも考えられます。こうした場合にもインフレは上昇すると考えられますが、市場はまだインフレ上昇を織り込んでいないとみられます。
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