日本株式運用におけるESGの視点と実践

長期投資のニューノーマル シリーズ②

2018年10月1日

著者

豊田 一弘
日本株式運用 総責任者

ESG投資に対する基本的な考え方を共有

「質の高いガバナンス体制を確立し、本業を通じて環境や社会に良い影響を与えるなど社会的責任を果たす取り組みを実践している企業は、長期的に企業価値の持続可能性が高い」― 。これはシュローダーの株式投資における、基本的な考え方である。こうしたESGの視点は、投資に伴う重大なリスクを排除するために、経営の質を判断する際の切り口としても有効だ。5年先、10年先も持続的に成長できる企業を長期保有で投資したいと考えているものの、業績予想から見えてくる未来は、せいぜい3年、長くても5年程度だろう。それより先の未来を予測するのはきわめて困難だ。

その先の長期の企業価値を判断するうえで、信用に足る材料は何だろうか。例えば、強固なビジネスモデルの有無。経営理念がどの程度システムとして会社組織に組み込まれているか。ステークホルダーマネジメントが持続的な形で企業経営に組み込まれているかどうか、などが挙げられる。これらはすべてESGの視点であり、それも長期投資にフィットする考え方といえる。だからこそシュローダーはESGを重視し、投資プロセスに組み込んでいるのだ。

日本株式運用でのESGの取り組み

日本株式運用におけるESGのアプローチとしては、①企業の適正株価算出におけるESG評価の取り込み、②議決権行使、③エンゲージメント対象となる企業の選定とその実践、の3つがある。シュローダーでは、まず業績予測を行い、3期先の1株当たりの利益(EPS)を算出する。さらに、市場平均PERに定性評価によるプレミアム、またはディスカウントを付与したマルチプルを掛けて適正株価を算出する。この定性評価においてESG項目が含まれている。例えばG(ガバナンス)では、取締役会の構成や総会議案の内容、S(社会)では従業員の士気や離職率、E(環境)では環境規制の対応といった検討ポイントがある。

積極的な議決権行使とエンゲージメントの実践は、日本版スチュワードシップ・コードに準拠した活動であり、株主の長期的利益を最大化する観点から、運用プロセスの一環として位置づけられている。エンゲージメントにより企業価値向上の可能性を有する企業を対象に選定し、継続的な対話を実践している。現在のエンゲージメントのテーマはガバナンスだ。これは企業経営の根幹であり、取締役会の構成や、資本政策、少数株主利益の保護などの話が中心になる。しかし、今後はE(環境)やS(社会)に課題が展開していくと考える。

日本企業のESG課題に運用者として対峙

日本企業の経営者は、自社が日本の中でどの位置にいるかを気にするケースが多いが、日本での順位よりも、世界の同業他社におけるポジションの方が重要である。また、不祥事が頻発する昨今、企業を調査する上で注視しているのは、内部統制が本当に機能しているかどうかだ。表面的にガバナンスが優れていると思われていた企業であっても、実際には内部統制が効いておらず不祥事が露呈すれば、最終的に企業価値は大きなダメージを受ける。ガバナンスや経営戦略、そしてその執行にこそ、経営陣の真価が問われる。我々運用者は、企業の真の姿にどれだけ迫れるかが試されている。

 

 

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豊田 一弘
日本株式運用 総責任者