インフォーカス(約6分)

サステナビリティ選好とその評価方法

第2 次金融商品市場指令( MiFID ⅡⅡ)のサステナビリティ評価の変更について

2022年8月9日
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著者

Anastasia Petraki
Investment Director, Sustainability

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2021年がサステナブルファイナンス開示規則(SFDR)の年であったとすれば、2022年は金融商品市場指令(MiFID)の年になります。EUのサステナブルファイナンス・アジェンダが進む中、次の変更として、2022年8月2日から、MiFID適合性評価において「サステナビリティ選好」が追加されます。

規制当局は、サステナビリティ選好について非常に専門的な定義を打ち出しています。投資アドバイザーは、主に企業によるサステナビリティ報告がまだ義務付けられていないことによるデータ・ギャップに悩まされる市場において、このサステナビリティ選好の評価を実施することが期待されています。この新しい変更の最終的な対象者である顧客自身がサステナビリティについて全くなじみがないことが、この評価の実施をより一層難しいものにしています。

このレポートでは、MiFIDの適合性評価における変更の主要な側面をいくつか示し、評価が実際にどのようなものになるかを考察しています。また、投資アドバイザーが直面する可能性のある多くの実務的な問題とその対処方法について取り上げます。

紆余曲折があるでしょうが、こうしたプロセスを何度か繰り返すことで、いずれは落ち着いていくものと思われます。

概要

MiFIDの新しいサステナビリティ選好の評価規則は、これまでにも述べてきたように、より大きなパズルの一部です。一言で言えば、これらの新規則は、EUのサステナブルファイナンス・アジェンダの推進を目的とした、ますます複雑化する規制の枠組みの一部です。このアジェンダの主な目標は、EU経済をネットゼロ経済にするための活動に向けた資金の流れを促進し、さらに加速させるようなサステナビリティに関する規制の枠組みを構築することです。これを達成するために、この枠組みには、企業から資産運用会社、またアセット・オーナーや投資アドバイザーに至る、投資のバリュー・チェーンに沿ったすべての人々に影響を与える規制が含まれています。

実際にこれはどのように機能するのでしょうか。まず、企業が自らの活動を報告し、市場参加者(資産運用会社、年金基金、保険会社など)がその情報を入手、それをもとに資金配分を行い、同時に、自社の事業においてサステナビリティにどのように取り組んでいるかを報告することとなります。これにより、様々な投資プロダクト間の比較可能性と競争が高まるはずです。

そして、投資アドバイザーは、どの資産運用会社、年金、保険会社がサステナビリティにより取り組んでいるか、どのプロダクトが環境的にサステナブルであるかを知ることができます。また、サステナビリティを重視する最終投資家に、それらのプロダクトを勧めることができます。最終的には、最終投資家は、すべての開示情報から、どのプロダクト提供者とそのプロダクトがサステナブルなのかを知ることができ、また、投資アドバイザーの勧めに従って、これらのプロダクトを購入することができるようになるのです。

資金の流れの観点からは、これは逆の方向に作用します。完全な透明性を確保することで、最終投資家(および必要に応じてそのアドバイザー)は、どのプロダクト提供者とどの商品が(MiFIDの定義と自らの選好に応じて)「サステナブル」であり、希望すれば、どのように自らの資金をそれらに投資できるかを容易に知ることができます。このことは、これらのプロダクトの投資先である企業そのものへの資金供給が増えることにつながります。

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投資アドバイザーの役割と新たなMiFIDのサステナビリティ選好評価

アドバイザーは投資のバリュー・チェーンにおいて非常に重要な役割を担っています。アドバイザーはゲート・キーパーであり、資産運用会社、年金基金および保険会社から開示される企業レベルおよびプロダクトレベルの情報の双方を理解する必要があります。

MiFIDによって、アドバイザーは顧客にプロダクトを推奨する前に適合性評価を行うことが義務付けられています。これには、顧客、顧客の投資に関する知識、財務状況、損失に耐える能力、投資目的等への理解などが含まれます。また、投資プロダクト、その投資目的、リスク、リターン、費用や手数料などに関する知識も含まれます。顧客の特性と投資目標に基づいて、アドバイザーはプロダクトを推奨できます。

MiFIDの適合性評価プロセスにおける変更点は、既存および新規顧客がサステナビリティ選好を有しているかについて、アドバイザーが追加的な検討を実施することが義務付けられたことです。

修正規則2によれば、顧客は、以下の3つの方法のうち1つまたは組み合わせてサステナビリティ選好を示すことができます。

–EUタクソノミーへのプロダクトの適合率

–SFDRが定義したサステナブル投資へのプロダクトの配分比率

–主要な悪影響(PAI)に対する定性・定量的検討

重要なことは、タクソノミーの最低適合率、サステナブル投資の最低比率およびPAIは顧客が決定するということです。投資可能なプロダクトの中に顧客のサステナビリティ選好に合致するものがない場合、そのプリファレンスが適合するように変わらない限り、プロダクトを販売することはできません。

規制には、サステナビリティ選好の評価が実際にどのように展開されるかについて具体的な記述はありません。2022年初め、欧州証券市場監督機構(ESMA)は、アドバイザーがこの変更を実施するのに役立つガイドライン案について協議を実施しました。最終的なガイドラインは、変更が施行された後の2022年秋になると思われます。

2:この変更は委託規則(EU)2017/565が改正され、サステナビリティ選好の定義は当該規則の第2章の新たな第7項に概要が示されています。

アドバイザーがサステナビリティ選好評価にArticle8および9を適用できない理由

恐らく明確な疑問の一つは、なぜ規制当局がサステナビリティ選好の定義にSFDRのArticle8および9に該当するプロダクトを参照せずに、この方法を選んだかということです。興味深いのは、規制当局がこの件についての協議プロセスの初期段階で、まさにこのアイデアが浮上したということです。そうならなかった理由は、おそらくArticle8と9の実際の内容に関係していると思われます。

市場はArticle8と9をプロダクトのラベルとして使用していますが、これらはラベルではありません。これらは、投資プロダクトがサステナビリティ特性を促進する(Article8)意味も、サステナブル投資目標を有する(Article9)意味も定義するものではないからです。これらは単にプロダクトが市場に対して開示すべき内容を定義しているだけです。従って、SFDRはラベリングというより、マッピングのようなものです。つまり、サステナブル投資を提案するのであれば、何をどのように行うのかを公表せよ、ということです。

従って、Article8と9がプロダクトの定義ではないのなら、MiFIDは他の何かを使う必要があります。前述の3つのオプションが、規制当局が使用を決定し、市場が実践しなければならないものとなります。

予想される実際の評価

理論を理解したところで、問題はこの評価が実際にどのようなものであるかということです。

ここで目安となるのはESMAのガイドライン案です。詳細をみると(そして最終的なガイドラインがこの提案されたものと全く異なるものにはならないと仮定するならば)、規制当局が想定しているのは、顧客に影響を与えないような中立的で公平なトーンでの議論であり、ほとんどの場合、「イエス」か「ノー」で答えられるような質問をすることでしょう。意思決定ツリーの例を補足1に示しています。

このガイドライン案によれば、アドバイザーが「サステナビリティ選好がありますか?」という質問に至る前に、2つのことを行う必要があります。

まず、アドバイザーは適合性テストの一環としてこれまで行ってきたことを継続する必要があります。これは、顧客の投資知識、経験、財務状況、損失に耐える能力、投資目的などを評価するために必要なすべての情報を収集することを意味します。ここまではいつも行っている業務です。

次に(ここからがやや新しいことですが)、アドバイザーは以下に挙げる多くの事項を顧客に説明しなければならなくなると思われます。

  • ESGとは何か、その構成要素(E、SおよびG)
  • サステナビリティ選好の概念、顧客がサステナビリティ選好を表す方法
  • サステナビリティを重視しているプロダクトと、そうでないプロダクトの違い

これらのポイントを明確にした上で、アドバイザーは顧客に対し、そのサステナビリティ選好について確認することになります。

興味深いのは、顧客が「ノー」と言っても、投資目的や財務状況などの観点から、その顧客に適していると見なされる場合、アドバイザーはサステナブル投資に重点を置いたプロダクトを引き続き推奨することができます。つまり、プロダクトのサステナビリティ要素に関して、「ネガティブ・ターゲット」というのは存在しないということです。このことは、政策担当者がいかに資本の再配分に力を入れているかを物語っています。

いずれにせよ、多くの場合において、回答は「イエス」と考えられ、より複雑な議論が始まることになります。

最初に評価する項目は(常にESMAのガイドライン案に従って)、利用可能な3つのオプションの内、どのオプションあるいはオプションの組み合わせを顧客が選好するか、ということです。

  • タクソノミー比率を使用する場合、次のステップは最低比率か許容範囲を明確にすること
  • サステナブル投資の比率を使用する場合、次のステップは最低比率と、E、S、Gのいずれに重点を置いているかを明確にすること
  • PAIを使用する場合、次のステップは、E、Sおよび/あるいはGのいずれに重点を置いているかを明確にすること

ガイドライン案では、顧客が3つのオプションの組み合わせを選択する場合、推奨される行動指針について、むしろ明確にはなっていません。恐らく最終的なガイドラインではこの点についてより具体的になると思われます。

もし顧客が示すサステナビリティ選好に合致するプロダクトがない場合、どうするのでしょうか。その場合、顧客が自らの選好を適応させようとするかどうかが問題です。もしイエスなら、同様の質疑応答を繰り返すことになり、ノーなら議論終了ということになります。

このように、すべてが新しくテクニカルであることから、最も可能性の高いシナリオは(少なくとも最初のうちは)、かなり反復的なプロセスになるということです。

サステナビリティ選好評価を促進するツール 

アドバイザーや販売会社がこの評価を行う際に自由に使えるツールが欧州ESGテンプレート(EET)です。

EETはFinDatEx(Financial Data Exchange Templates)によって作られています。これは欧州の金融サービスセクターの企業により形成されたワーキンググループです。その目的は、MiFIDⅡのようなEUの規制への対応に必要なデータ交換を促進するためのツールの開発と調整をサポートすることです。

EETはおよそ600のフィールドを持つエクセルファイルであり、全ての必要なデータを機械が読み込める形式で提供することになっています。

EETの使用は任意ですが、実際に、プロダクト提供者が自社プロダクトに関する3つのサステナビリティ選好オプションについて説明するための主要な手段となりえます。2023年に、特定の基準を用いたより詳細なSFDRの開示が可能になったとしても(詳細は次項参照)、その情報は特に利用し易くない文書形式で示され、機械で読み取りもできないものとなるでしょう。したがって、EETは、アドバイザーがサステナビリティ選好評価を実施する際の主要なツールであり続けると思われます。



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課題

前項では、かなりスムーズなプロセスを説明しました。しかし、現実はもっと複雑です。その過程において、市場が直面する多くの現実的な問題があると思われます。

この複雑さの根底には、EUのサステナブルファイナンスの枠組みにおける様々な規制の発効順序があります。図表3に示す各規制要件の適用時期の簡略化された時系列を見ると、次の4つのことに気づきます。

  • 新しいMiFIDのサステナビリティ選好評価の実施方法に関する最終ガイドラインは、この評価の要件が発効した後に入手可能となる予定(2022年第3四半期対2022年8月)
  • この評価に必要なプロダクトの詳細の多くは2023年1月から入手可能となりますが、Article8および9に基づくプロダクトに関する開示テンプレートが発効する時期でもある。これはいわゆる「SFDRレベル2テンプレート」と呼ばれるもので、Article8と9のすべての開示事項が特定の分野をカバーすることと、非常に具体的な方法での開示を要求するもの
  • タクソノミー規制は不完全のまま(詳細は後述)
  • 企業は必要な非財務データのみを報告し、タクソノミー規制は現在少数の企業にしか適用されず、企業サステナビリティ報告指令(CSRD)は2024年以前には施行されない3

SFDRのプロダクト開示テンプレートとPAI指標は、2023年後半に見直されることが既に分かっています。賢明な読者は、これらが2023年1月から適用されることにお気づきでしょうから、私たちが今知っているフォームは、短命な基準であることが判明する可能性があります。この見直しの結果は予想が困難です。ただ、欧州委員会が欧州監督当局(ESAs)に準備作業を依頼したことは明らかになっています。

図表1が示唆するように、企業が最初に報告し、次に資産運用会社が報告し、そしてアドバイザーが完全な情報を得るのではなく、その逆になります。まず、資産運用会社はSFDRに従って報告します。次に、アドバイザーは、MiFIDⅡに従ってサステナビリティ選好を評価する必要があります。その後、SFDR(レベル2テンプレート)を少し使用します。そして最後に、すべての基礎となる規制、企業による報告となります。

2022年1月以降、資産運用会社は、自社プロダクトが不完全なEUタクソノミーに適合していることを、存在しない企業のタクソノミー適合データを使って数字で示さなければならなくなったのです。そして、2022年8月からのMiFIDのサステナビリティ選好評価では、アドバイザーは資産運用会社が報告する情報を使って顧客の選好を評価することになっていますが、これは不完全かあるいは完全に欠如しているデータに基づくものになります。

3:2022年6月時点の状況ですが、CSRDは3回に分かれて適用されます。: (a)2024/1/1 既にNFRDの対象企業; (b) 2025/1/1 現在NFRDの対象ではない企業; (c) 2026/1/1 上場中小企業、小規模で複雑でない金融機関および専属保険会社

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タクソノミー規制の理解

思い出していただきたいのは、タクソノミーは、EUのサステナブルファイナンス・アジェンダの基礎になるものだということです。これは、特定の方法で何かを行うことを要求するという意味での規制ではありません。むしろ、どの活動が環境的にサステナブルであるかを市場が認識するための分類システムになります。このように、SFDRやCSRDにおけるタクソノミーとの整合性をどのように開示するか、EUグリーンボンドの資金を何に使用できるかなど、他の規制の参考となるものです。

環境的にサステナブルとみなされるには、経済活動は以下のことを行う必要があります。

  • 6つの環境目標のうち少なくとも1つに貢献(図表4参照)
  • その他の環境目標に著しい害を与えないこと
  • 非常に広範囲かつ詳細なスクリーニング基準に適合していること
  • 国際人権規約、国連ビジネスと人権に関する指導原則、およびOECD多国籍企業ガイドラインなど、最低限の社会的セーフガードを遵守すること
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重要な結果4は次の通りです:

  • タクソノミー整合性の推計値の差の平均は、同一の企業に対して22%であり、例えば、ある企業に対し、あるプロバイダーは整合性10%と報告する一方、別のプロバイダーは32%と報告している。
  • 1社のプロバイダーのみが、タクソノミーの適格性と整合性を区別していたが、複数のケースで整合性の推定値に適格性(MiFIDの評価としては使用されるべきではないもの)を反映していた可能性がある

思い出していただきたいのは、整合性を評価するためには、まずその活動が適格であること、つまり、タクソノミーの対象であることが必要です。対象となる活動であれば、前項に挙げられた要件(目標への寄与、目標に反する重大な行為のないこと、技術的審査基準および最低限の社会的セーフガードの遵守)に従っているかどうかを評価する必要があります。そして、これによって整合性が決定されるのです。

更に独自の分析によると、データ・プロバイダー間での同一企業に対するタクソノミー整合性の推計に大きな差異があることが指摘されています。

実際、これによって、プロセス全体にまた一つの課題が追加されました。それはどのプロバイダーを選ぶかということです。

アドバイザーの役割

まず、アドバイザーはこれらのすべてを顧客に説明する必要があると思われます。なぜなら、例えデータが完全であったとしても、顧客はタクソノミーやタクソノミー整合性の意味について熟知しているとは考えにくいからです。

そして、アドバイザーは、報告されたタクソノミー整合性の数値の背後にあるメソドロジーを理解する必要があります。それらは企業のデータに基づいているのか、それとも推定値なのか、推定値である場合、これらは資産運用会社が社内で行ったものなのか、それとも第三者のプロバイダーが提供したものなのか、そのメソドロジーはどのようなものなのか、などについてです。

別の重要なポイントは、特に顧客の期待値をコントロールする上で、アドバイザーがセクター、発行体におけるタクソノミー整合性の現実的な水準を理解しておくことです。6つの環境目標のうち、2つしか明確になっていない状況で、EUにおける経済活動で「グリーン」なものとみなされているのはわずか(1~5%と推計)です。

最後に、アドバイザーは、(Club AMPEREの調査で証明されたように)一部の市場では適格性と整合性が同一のものとして扱われていますが、これは正しいものではないということを認識しておくべきです。整合性を計算するためには、まず活動が適格である必要があります。ある活動が整合していれば、それは適格であることを意味しますが、ある活動が適格であれば、必ずしも整合している必要はないのです。つまり、整合性は常に適格性より低い数値になります。

4: 結果はご要望があれば入手可能です。この再調査は2022年第3四半期に公表予定です。

オプション2:SFDRによる「サステナブル投資(SI)」に占める割合

現状

2つ目のオプションは、他の一つの規制、SFDRのみに依拠しているため、やや複雑さが少ないものです。SFDRの第2条17項にサステナブル投資は次の通り定義されています。:

「‘サステナブル投資’とは、例えばエネルギー、再生可能エネルギー、原材料、水および土地の利用、廃棄物生産や温室効果ガス排出、あるいは生物多様性と循環型経済への影響によって測定される環境的目標に貢献する経済活動、または、不平等の解消への取り組みに寄与する投資、または社会的結束、社会的統合および労使関係の発展への投資、人的資本や経済的・社会的弱者への投資など社会的目標に貢献する経済活動への投資を意味します。これらの投資がいずれの目標に著しく反するものではなく、投資先企業は、特に安定した経営体制、従業員との関係、報酬および税務コンプライアンスなどについて良好なガバナンス慣行を有していること。」

一見すると、この定義は具体的で、サステナブル投資とは次の3つのことを指しているように思われます。

–環境および社会的目標への寄与

  • これらの目標に著しい害を与えないこと
  • 投資先企業が良好なガバナンスを実践していること

しかし、この定義の背景には解釈の余地があるため、理論よりも実際の運用がより複雑になるケースもあります。例えば、何をもって「貢献」とするのか、「著しい損害」とは何か、どう判断するのか5、良好なガバナンスを評価するためにどのような尺度を用いるべきか、などです。

ある意味、これらの質問に対して様々な答え方があることを暗黙のうちに認めているのです。そして、SFDRは常に、投資アプローチを決定するのではなく、情報を開示することを目的としています。

これは、市場での柔軟性を確保するために有用なことですが、資産運用会社がこれらすべてに対して異なるアプローチを用いる可能性があり、したがって、「サステナブル投資」の背後にあるものは、完全に比較できるものではない可能性があることを意味します。最終的に、このことは、アドバイザーがサステナビリティ選好の評価で使用することになるサステナブル投資に占める割合の比較に影響を与えることになります。

アドバイザーの役割

サステナブル投資の定義には解釈の余地があるため、アドバイザーは、各資産運用会社によってどのような定義がなされているかを理解する必要があるかもしれません。これによって、報告されている比率がより比較しやすくなるわけではありませんが、少なくともアドバイザーが実際に比較しているものについて、より良い説明を与えられると思われます。

また、アドバイザーは、資産クラス、地域、およびセクターにおける相違や、それぞれの合理的な比率を検討する必要があるかもしれません。ESMAのガイドライン案では、サステナブル投資において異なる比率をグループ化するための「バケット」を使用する可能性について言及しています。このようなバケットとその水準は、資産クラスによって異なるものと思われます。

タクソノミー整合性と似ていますが、顧客がサステナブル投資の概念や少なくともSFDRがそれを定義している内容については熟知していない可能性が極めて高いと思われます。それ故、アドバイザーはこの点についても説明する必要があります。

5:タクソノミー規制とは反対に、SFDRは「サステナブル投資」において環境および社会的目標に著しい害を与える行為の評価方法を具体的に示していません。

オプション3:PAIsの検討

主要な悪影響(PAIs)は、SFDRの中でもよりエキゾチックな響きを持つ概念です。簡単に言えば、PAIは、ポートフォリオにおける投資が環境や社会に与えるあらゆる悪影響を把握するものです。これらの影響を測定するために、EUの規制当局は、カーボンフットプリントや取締役会の多様性のような、多くの市場関係者にとってなじみがあると思われる変数のリストを作成しました。また、水への影響を測定する「水の排出量」や、エネルギー効率の悪い不動産への投資など、よりニッチで、すぐに頭に思い浮かばない変数もあります。

SFDRは合計18の必須指標と46の任意指標を挙げており、過去の情報も同様に要求しています。全指標の完全なリストは、SFDR委任規則の付属文書1に記載されています。補足2には、必須PAI指標の詳細を記載しており、その概要は図表5に示されています。

興味深い点は、2023年1月に施行される第8条と第9条(契約前開示)のレベル2テンプレートに、「この金融商品は、サステナブル要素における主要な悪影響を考慮しているか」を尋ねる項目があることです。これに応じて、第11条(定期的開示)のレベル2テンプレートには、「この金融商品は、サステナブル要素に対する主要な悪影響をどのように考慮したか」という項目が含まれています。しかし、契約前のテンプレートも定期的なテンプレートも、PAI指標のリストを要求していません。少なくとも、企業レベルの第4条(企業がPAIを考慮する場合)と同じようには要求していないのです。つまり、プロダクトレベルでのPAI指標報告を事実上の要件としているのは、実はMiFIDなのです。

現状

このことは、MiFIDのサステナビリティ選好評価におけるPAIsの有用性にとってどのような意味があるのでしょうか?

前にお示しした通り、詳細なプロダクトレベルの開示は2023年1月以前には入手できず、企業レベルのPAI報告はCSRDが発効するまで必須とはならないでしょう。

PAI指標の中には企業、特にこれまでレポーティングに関して規制の対象になってきた大手上場企業によって報告がなされているものがあり、このことは朗報といえます。多くのPAI指標について、既に非常に大量のデータが存在するということです。

一つアドバイザーが認識しておくべきことは、PAIの報告には閾値が設定されていないことです。所与のPAI指標について、どのレベルから著しい害とされることになるのかも示されていません。

これは、おそらくSFDRとMiFIDのより有益な側面の1つです。このような閾値は、地域の状況、セクター、その他の保有銘柄の特性に依存すると思われます。例えば、取締役会の女性比率の基準(達成可能なもの)は、国や業種によって異なります。そのため、指標を設定された閾値と比較した相対値として見るのではなく、絶対値として捉え、プロダクト間で比較することが考えられています。

アドバイザーの役割

サステナビリティ選好を示す他の2つのオプション同様、顧客はおそらくPAI指標を熟知していません。それ故、アドバイザーは、PAIの概念、変数、捉えようとするもの、そしてそれらの意味するものを説明する必要があるでしょう。

また、アドバイザーは、顧客がPAIという用語に馴染みがなくても、PAIに反映されるような形でサステナビリティ選好を表明しうる可能性に留意しておくべきです。例えば、ある顧客は、化石燃料企業への投資はしたくないと言うかもしれません。これは、PAIの「化石燃料セクターで活動する企業へのエクスポージャー」と直接的に言い換えることができます。

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更に、プロダクトが考慮するPAIに焦点が当てられると思われますが、同様に重要なのは、プロダクトが考慮していないPAIです。アドバイザーはこの考慮の論拠を理解する必要があるでしょう。なぜなら、SFDRのテンプレートは2023年1月より発効となりますが、アドバイザーは、MiFIDのサステナビリティ選好評価の最初の数か月間、プロダクト開発者に直接的にエンゲージメントをする必要があるかもしれないからです。

データの入手可能性と指標全般のレポーティングへの理解もまた、報告された情報の堅牢性は実際のところどうなのかという感触を得るために重要となるでしょう。

さらにアドバイザーが準備すべき他の側面もあります。報告されるデータとその範囲が改善されたとき、報告されるPAI指標のレベルは、ポートフォリオ構成が基本的に変わることがなくても毎年変化すると思われます。アドバイザーは、拡大していくデータの範囲とポートフォリオの変化によって、PAIの報告がどの程度変化するかを理解し、それを顧客に説明する必要が出てきます。特に既存顧客に対してはそうすべきでしょう。

今後の展開について

MiFIDの変更において重要なことは、「サステナビリティ選好」が非常に技術的に定義されており、ほぼ間違いなくプロダクト設計に直接影響を与えることができることです。

3つのサステナビリティ選好のオプションはプロダクトを選別する基準として有用であると考える人もいるかもしれません。しかし、現実には、これら3つのオプションすべてを用いても、投資プロダクトとそのサステナブル投資に対するアプローチについて、完全に説明することはできません。単独で見れば、これらからはプロダクトの不完全な姿しか捉えることができず、プロダクトの投資目的、プロセス、推進しようとしているサステナビリティ特性、あるいは追及しているサステナブル目標(もしあれば)を捉えることができないと思われます。

前述したように、データと情報の入手には課題があります。しかし、MiFIDの変更の実施に伴う、データの独立性などのより大きな課題は、以下の4つをいかに一つにまとめるか、ということです。

  • サステナビリティ選好を定義している非常に規範的な法的要件と技術的な用語
  • 顧客の期待値と顧客が示すであろう非技術的表現
  • 市場の現実と入手可能なプロダクト範囲
  • どのような投資プロダクトをどう提供しようとするのか

アドバイザーは顧客との間で、プロセスとディスカッションを繰り返すことになると思われます。一連の既存プロダクトの特徴を理解し、複雑なコンセプトを説明すること、および顧客の期待値を管理することが不可欠です。

新しいサステナビリティ選好の評価の実施は最初から完璧なものではなく、これを進める過程において、市場はより多くを学ぶことになるという認識が市場全体にあります。期待されているのは、ベストエフォートで新しいルールを実施することです。このことは、ESMAの提案するガイドラインに多少反映されており、「should」の代わりに「could」という言葉が繰り返し使用されています。これは、プロセスに幾らかの柔軟性を持たせるためと思われます。

次の大きな変更は2023年のSFDRレベル2テンプレートの発効時になるでしょう。これにより、プロダクトがサステナブル投資にどう取り組んでいるのかを理解するのに必要な内容が一部加えられることになります。企業報告に関するさらなる規制の実施が予定され、既存の規制も既に見直し作業に入っており、今後の道のりはまだ長いものになるでしょう。

次の大きな問題は、顧客がどのように自らのサステナビリティ選好を表現し、それが規制の定義とどの程度近いのか、そしてプロダクト設計の特定の側面に対する好みがこのプロセスからわかるかどうか、です。

サステナビリティの規制については、まだまだ続きます。



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