誰もが水素について話している理由とは
2020年、水素とそれなりに関連する銘柄の株価は軒並み好調を博しました。この熱狂の背景には何があるのでしょうか?単なるバブル状態なのでしょうか?

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熱狂の背景に何が
再生可能エネルギーは発電の脱炭素化を可能にし、将来的にその実現を後押しするものです。そして、再生可能エネルギーと燃料電池は自動車セクターの脱炭素化を可能にし、将来的にその実現を後押しするものです。これらの技術は航空、輸送、商用車、製鉄、肥料分野においてはそれほど有望視されていませんが、水素は、これらの重要産業において脱炭素化に向けて必要不可欠であり、少なくとも最有力手段の一つになる様相を呈しています。
水素は燃焼機関やボイラーで燃焼させて輸送機関や暖房設備に用いられるほか、燃料電池に充電して輸送機関や暖房設備に、はたまた鉄鉱石を製鉄する際の還元剤としても使用されます。夏季の有り余る太陽エネルギーから水素を生成し、冬季まで貯蔵して必要時に電力に戻す蓄電媒体としても機能します。いずれの方法も、既存のエネルギー源と比較して二酸化炭素排出量の大幅な低減または実質ゼロに寄与します。
今後どれほどの水素が必要とされるか?
水素は、石油精製時のアンモニア生成や窒素肥料の生産といったいくつかの大規模な工業プロセスですでに活用されていますが、暖房や工業、輸送、エネルギー貯蔵などの新しいエンドマーケットでその潜在能力を最大限発揮しようとするならば、現在の水準の7~10倍規模の生産・消費量が必要になります。各種企業とエネルギー事業者で構成されたコンソーシアム、Hydrogen Council(水素協議会)が作成した下図には、これらの利用法が実用化された場合に想定される市場拡大が示されています。

水素製造から二酸化炭素は発生しないのか?
発生します。既存の水素製造法の95%は汚染度が高く、天然ガスを用いた方法では水素製造1kgあたり二酸化炭素10kg、石炭のガス化では水素製造1kgあたり二酸化炭素20kgが発生します。しかし水を電気分解する方法であれば二酸化炭素は発生せず、その際に使用する電力が再生可能エネルギーであれば、水素は基本的に二酸化炭素フリーで製造可能です。
製造方法別コスト
現時点で再生可能水素は化石燃料水素に比べてかなりのコスト高ですが、この状況は今後変化し、2030年までには再生可能水素が最も安価な製造法に転じるはずです。そうなれば、それ以外の製造法を続ける理由はなくなります。電気自動車(EV)、あるいは再生可能エネルギー自体の5~10年前の状況と非常によく似ています。
下図は、天然ガス由来のブルー水素のガス価格別コストを再生可能水素と比較したものです。2030年時点でも、安価な天然ガス+地中貯留法がやはり太陽光エネルギー由来の水素製造よりも若干コスト安ですが、その差はわずかです。これよりも速いスピードでの再生可能水素の低コスト化を予測する見方もあります。

グリーン水素市場の成長性は?
グリーン水素市場の成長は、炭素回収・貯留技術が実現可能な解決策の一つであるという天然ガス業界の主張に政策立案者が納得するかどうか次第です。理論上、天然ガスから水素を製造し、その過程で生じる二酸化炭素を地中貯留する方法が再生可能エネルギーを使った水素との比較においてコスト優位性を維持する可能性はありますが、現時点でこの製造法を大規模に行っている事業者はなく、数百億トン規模の二酸化炭素の地中貯留にはさまざまな法的、環境的問題が伴います。
再生可能エネルギー由来水素の製造は、スケールメリットと再生可能エネルギーコストの低下傾向を追い風に劇的な低コスト化が見込まれ、よって今後10年内にグリーン水素が化石燃料由来水素を凌駕する可能性はかなり高いと考えられます。現在の水素市場におけるグリーン水素の割合がわずか1%であることを踏まえると、その潜在能力は極めて大きいと言えるでしょう。2050年に現在の8倍に拡大した水素市場のシェア100%を獲得するというベストシナリオの場合、グリーン水素の製造量は現在の800倍にも及びます。
水素へのエネルギー転換に対する政策支援
EU(欧州連合)は現在、ゼロエミッション経済へのシフトに向けた計画実行プロセスの先頭を走り、産業、輸送、暖房の脱炭素化を支えるに足る強靱な水素産業を構築する必要性をすでに認識しています。2020年7月には域内の水素戦略を発表し、2030年までに少なくとも40GWの再生可能水素電解槽を設置し、1,000万トンの再生可能水素を製造するという目標を掲げています。試算によると、電解槽の設置・増強のために2030年までに240~420億ユーロの資本投資が必要です。1
1: https://www.pv-magazine.com/2020/06/16/hydrogen-storage-in- salt-caverns/
水素へのエネルギー転換が投資に与える影響
当然のことながら、さまざまな投資への影響が発生します。エネルギー会社や産業技術会社にはグリーン水素製造施設の建設と運営についてビジネスチャンスが期待できるほか、水素電解槽に供給するために新たに数百ギガワットの再生可能エネルギー発電能力を構築する必要もあり、これらの新しい再生可能エネルギー量は風力・太陽光発電事業者の現在の市場予測にはまだ織り込まれていません。
その一方でおそらく最もシンプルに予測できるビジネスチャンスあるいは投資機会は、今後の電解槽の増設によって装置市場のシェアを伸ばせる企業の成長です。水素電解装置の現在の売上規模は極めて小さく、2020年時点ではおよそ2億5,000万ドル程度にとどまっています。
すべての関連産業を世界的に脱炭素化するために必要なレベルまでグリーン水素の供給能力を高めるには、建設ピーク時には水電解装置の年間売上規模を250億ドル程度まで拡大する必要があります。このことを念頭に置くと、大手水電解装置メーカーは世界にほんの数社しかないという事実は、この業界に注目が集まる十分な理由となるでしょう。ある程度の新規参入は予想されますが、それほど単純な技術ではなく、すでに実績のあるメーカーが開発者やエネルギー事業者との提携を急速に進め、顧客関係を構築しています。その結果、スケールメリットが生まれ、さらなるコストダウンが期待されます。
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