日本株運用者の視点

長期投資:日本企業の“サステナビリティ”

2016年08月23日

ネイサン・ギブス

ネイサン・ギブス

クライアント・ポートフォリオ・マネジャー(ロンドン勤務)

成長と発展に向けて、長期的な視点を重視し始めた日本企業

企業の“サステナビリティ”

投資の観点で、「サステナビリティ(持続的成長)」は様々なとらえ方があります。近年、サステナビリティ投資をESG(環境・社会・ガバナンス)の投資原則と融合した形で使うことが一般的となってきました。企業は従業員、株主、規制当局、地域社会・環境など、様々なステークホルダー(利害関係者)と関係しており、こうしたステークホルダーへの姿勢が、企業の持続的成長をみる指標の一つであると、広く認識され始めています。

一般的に日本企業は、ESG投資の概念が生まれるよりも前から、終身雇用や地域貢献を理念として「社会」との関係づくりを意識してきたと考えます。一方、日本企業の「ガバナンス(企業統治)」は、他の先進国に比べて大きく遅れをとっています。ここ数年間に起きたオリンパスや東芝の不正会計問題では、経営陣が現状維持のために粉飾決算を行ったことが明らかになりました。「いかなる犠牲を払っても企業の存続」を優先しようとする企業文化が蔓延していたことを表しています。これらの不正会計問題によって、取締役会におけるガバナンスの改善の必要性が浮き彫りとなりました。しかし、それだけでは不十分で、社内と株主の双方に対する企業姿勢の根本的な改革が不可欠と言えます。

日本企業における経営およびガバナンス構造は、日本文化に沿う形で数世紀を経てつくられました。ただし、グローバルな視点では、ダイナミズムに欠けており、経営陣の決定に本格的に異議を唱えることは制限されているようにみられています。

また、情報技術の進歩によって、これまで成功してきたビジネスモデルも急速に劣化する可能性が高まっています。確固たる企業が築き上げてきた競争優位も、革新的なビジネスモデルの新興企業に奪われやすくなっています。さらに、企業のブランド価値を毀損してしまうといった不祥事も、これまで以上に起きやすくなっています。

その結果、企業には経営の透明性と企業価値の向上に向けた取り組みを進化させることが、以前にも増して求められています。企業を取り巻く環境は大きく変化しており、過去の経験だけにとらわれていると、企業の将来性は危ういと言えるでしょう。

資産運用会社にとっては、投資判断においても、企業の存続のみならず、中長期的な成長の持続可能性についても評価する必要性が高まっています。

投資先企業とのエンゲージメント

「エンゲージメント」とは目的をもった建設的な対話を意味しており、企業経営者にとっては自らの姿勢や考え方を投資家に説明することが求められています。これには、企業と投資家の双方の権利と責任を明確にする、法律や規制の枠組みが必要となります。先進国の中でも日本は、これまでそのような法的な枠組みを設けていませんでした。その結果、資本配分の効率的なメカニズムといった、株式市場が本来果たすべき役割を、十分に満たすことができなかったと言えるでしょう。

安倍政権によって導入されたスチュワードシップ・コードとコーポレートガバナンス・コードは、企業行動を変えるという意味で、日本が正しい方向へ向かう大きな前進であります。また、これらの導入によって、投資家と企業のエンゲージメントの原則がより明確になっていくことが期待されます。さらに、一部のいわゆるアクティビスト投資家との経験から、エンゲージメントに慎重になっていた経営陣の後押しにもなると言えます。

エンゲージメントは、企業と投資家の間で、資本や利益の活用に関するより建設的な対話に繋がることを目的としており、サステナビリティの原則と密接に関わっています。また、ESGの評価が高い企業ほど、業績と資本調達能力が相対的に高いということも、複数の学術的な報告が示しています。現在、マイナス金利政策により日本企業にとって資本調達は困難ではなくなっていますが、短期的な金融環境の要因と構造的な課題を混同しないことが重要です。

コーポレートガバナンスに関する枠組みを強化すれば、社外取締役の人数など、特定の要素に対する定量評価への投資家の信頼も高まると考えます。一方、定量評価と同時に、例えば社外取締役の独立性が本当に確保されているか、社外取締役がフィデュ―シャリー・デューティ―(受託者責任)をどの程度理解しているか、企業は社外取締役が責任を十分に果たすために適切な環境を提供しているか、などの定性評価が極めて重要になると考えます。

こうした定性面での課題や企業活動の幅広い評価が、今後、日本企業の個別調査において、より大きな割合を占めていくことは明らかです。一方で、こうした調査を第三者機関のデータや定量評価だけに頼ることは不可能です。ガバナンスの改善は、各企業の取り組みの違いをより適切に分析することを可能にし、株式市場にポジティブな影響をもたらすと考えます。さらに、積極的な経営姿勢とエンゲージメントの取り組みも、投資評価において重要な要素になっていくと言えるでしょう。

サステナブル投資

企業の“サステナビリティ”を重視するサステナブル投資においては、長期的な視点が不可欠であり、将来にわたって持続的に成長する企業を見極める必要があります。コーポレートガバナンスの改善は日本株式市場にとってもプラス要因であり、こうした投資機会をとらえるには、長期的な視点を持った個別企業の調査が一層重要となってくると考えます。

 

本資料は、情報提供を目的として、シュローダー・インベストメント・マネージメント・リミテッドが作成した資料をシュローダー・インベストメント・マネジメント株式会社が抄訳・編集したものであり、如何なる有価証券の売買の申し込み、その他勧誘を目的とするものではありません。本資料は法令に基づく開示書類ではありません。なお、本資料は、作成時点における弊社が信頼できると判断した情報に基づき構成されておりますが、内容の正確性あるいは完全性については、これを保証するものではありません。また、将来の投資成果を示唆あるいは保証するものではありません。本資料中のコメントはシュローダー独自のものであり、必ずしも一般的なものであるとは限りません。また、本資料中のシュローダーのコメントは、当該コメントを提供した本人もしくは当該運用チーム等のコメントであり、他のシュローダーの資料等に含まれるコメントと必ずしも一致しません。本資料で示した見通しおよび分析結果等は、作成時点の考えに基づくものであり、市場環境やその他の状況等によって将来、予告なく変更する場合があります。本資料中シュローダー/Schroders とは、シュローダー plcおよびシュローダー・グループに属する同社の子会社および関連会社等を意味します。

トピック