欧州経済の勢いは持続可能なのでしょうか?そして、金融政策引き締めは欧州市場への投資にどのような影響を及ぼすでしょうか?シュローダー・インベストメント・コンファレンス2018は、欧州経済の堅調さが継続する一方で、株式市場の変動性が一気に高まった状況の中で開催されました。
2018年2月8-9日にロンドンで開催されたシュローダー・インベストメント・コンファレンス2018では、約130名の投資家が世界各国から参加しました。参加者へのアンケートが実施されたほか、下記3名のパネリストが欧州経済の見通し、金融政策、そして株式市場への示唆について議論を交わしました。
ヨハナ・カークランド:マルチアセット運用グローバル・ヘッド
マーティン・スカンバーグ:欧州株式ファンドマネジャー
ジェームス・シム:欧州株式ファンドマネジャー
まず、コンファレンスの参加者に対して3つの質問が行われました。参加者への3つの質問①2018年の欧州市場において、最大のリスク要因は何であると考えますか? 最も多かった答えは「金融政策の正常化(ユーロ圏またはその他の国々)」(54%)となり、政治 (33%)やユーロ高 (13%)へ懸念を示す回答者の割合は相対的に低くなりました。 ②2018年に選好する資産クラスは何ですか? 「欧州株式」、「欧州クレジット」、「グローバル・マルチアセット」、「それ以外」という選択肢のもと、58%の回答者が欧州株式を選択する結果となりました。 ③足元のボラティリティの高まりをどのように捉えますか? 50%以上の回答者が「安値で買うことができる好機」と回答したほか、「無視できるノイズ」 という回答も多く見られ、「長期にわたる下落局面の始まり」と回答した人は少数にとどまりました。 |
―― 欧州経済の見通し:欧州経済は回復基調を辿り、先行指標も堅調さを維持する中、経済は経済指標が示す通り本当にバラ色なのか、また、堅調さは今後いつまで継続するのか ――
Q1. 欧州経済の堅調さは継続するか?
カークランド:経済環境は現在も良好であり、欧州経済の回復は今後も継続すると考えます。一方で、欧州ソブリン危機はしばらく目立たない状態が続いていますが終焉したわけではありません。債券のスプレッド(国債に対する利回り格差)は中央銀行が行う金融政策によって抑えられてきましたが、今後どこかのタイミングで拡大する可能性があると考えられます。様々な観点からみて、この堅調な経済環境は、当局が抱える課題への対応をさらに困難なものにしています。
スカンバーグ:現在、欧州で見られる景気拡大は持続可能であると考えます。これまでの景気回復において民間投資の寄与は大きくありませんでしたが、企業が投資に対して前向きな姿勢を示し始めました。設備投資によって、現在の景気拡大の期間が引き伸ばされるとみています。
シム:設備投資の増加は、収入の改善に繋がることが期待されますが、コストが上昇し、収益率を圧迫する可能性もあることには注意が必要です。また、インフレ率の上昇は初期段階では恩恵もありますが、インフレを抑制するために利上げが実施され、これが景気後退に陥るきっかけになり得ます。
その他に注目すべき要素としては、ここ数年間に実施された構造改革が挙げられます。例えばスペインでは多くの企業がこれまで行ってきた構造改革の効果に対して前向きな見方を持っています。欧州は、貿易大国であるドイツの存在もあり、大きな純輸出地域となっています。一方で、内需はいまだに盛り上がりに欠けていますが、国内消費が今後の経済成長の原動力となる可能性があります。
―― 2017年の株式市場上昇を受けて、バリュエーション(割高・割安の評価)については ――
Q2. 欧州株式は割高か?
スカンバーグ:確かにバリュエーションは改善してきました。ただし、グローバル株式の上昇相場は10年近くに亘っていますが、欧州は米国の景気循環より約4年間遅行しているため、現在の株価は決して悪くない水準と考えます。景気循環の影響を調整した株価収益率(CAPE)をみると、欧州はまだ長期平均を下回る水準となっており、今後平均に向かっての改善が期待されます。欧州株式は他の地域と比較して、現在でも割安ともいえる水準にあると考えます。欧州企業の収益率は、2006年のピーク時を30%程度下回る企業も存在し、改善の余地が残っています。
カークランド:割高な国債と比較して、株式のバリュエーションは割安な水準にあると言えるでしょう。しかしながら、国債の利回りがついに上昇し、価格が調整を始めました。もし、この動きが持続すれば、株式市場の割安感は薄れることになるかもしれません。とは言え、日本で見られたような景気後退に陥っているわけではなく、景気循環が正常に機能していることを意味すると考えると、必ずしもマイナス要因と捉える必要はありません。
2018年における投資において留意すべきポイントは次の3つが挙げられます。1)貪欲になりすぎないこと、2)分散すること、3)2-3年後に訪れるであろう困難な投資環境に備えること
シム:バリュエーションは、株式市場全体としては適正水準にあると言えるでしょう。しかし、数年間に亘るマイナス金利政策や量的金融緩和により、超低金利から恩恵を受けた企業やセクターと、そうでない企業やセクターが存在し、それらの格差は拡大しています。このような環境下で、一部の企業は利益よりもマーケットシェア拡大を重視して成長をしてきました。
しかしながら、インフレ率が上昇すると、投資家が求める株式リスクへの対価の期待値が上昇することになり、例えばより高い配当利回りが求められるようになります。現在利益率が低い企業は、増配のために商品価格の引き上げが必要となる場合もあるでしょう。このような状況は、企業成長を困難なものにし、現在のバリュエーションに対して疑問が浮かび上がってくる可能性があります。
我々は、情報技術セクター銘柄の一部でみられる、このような成長株を避けて投資しています。対照的に、昔ながらの英国の小売株は割安であるとみています。
―― 金融政策の引き締めが、特に債券市場にもたらす影響は、多くの投資家にとって懸念材料となっているが ――
Q3. 量的緩和政策の縮小は欧州市場にどのような影響を与えるか?
カークランド:欧州中央銀行(ECB)は、金融政策を急激に変更することなく、非常に緩やかなペースで正常化に向かうと考えています。また、ドラギECB総裁は、イタリア国債等欧州周辺国の対ドイツ国債に対するスプレッドが一定水準に維持されることが重要だと考えているとみています。
政策金利がプラス圏に戻ることは、成長株にとっては向かい風となります。このため、先ほど申し上げた通り、貪欲になりすぎないことが重要になるのです。成長株はこれまで堅調に推移をしてきましたが、今後はこれまでと同様なリターンを期待するべきではないでしょう。
また、ドイツ国債の利回り低下が、米国債等の他の国債の利回りを押し下げる要因となってきたとみています。ドイツ国債の利回り低下圧力が取り除かれることにより、グローバルで債券の利回り水準が見直されることになる可能性があると考えています。
―― 世界貿易および通貨:米国の保護主義に対する懸念は、今のところ現実のものとなっていませんが、米ドル安は欧州輸出企業の先行きに対する懸念材料となりつつあるが ――
Q4.通貨戦争が起こるリスクは?
カークランド:長期に亘る低成長環境の下、自国通貨の最も弱い国が市場シェアを獲得するという状況が続いてきました。しかし、世界的に景気の回復・拡大がみられる現在の環境では、そのような状況にはならないとみています。一般的に通貨は経済ファンダメンタルズに左右されるものであり、ECBがユーロ高をけん制する必要はないと考えています。通貨というよりは、むしろ金利上昇が大きな課題であると考えています。
シム:需要サイドについては、現在内需が低迷している国の国内消費が今後拡大する可能性があります。例えば、ドイツは長い間、他国から消費を拡大させるよう求められてきました。
スカンバーグ:この要因の一つとして、ドイツの高い競争力が挙げられます。欧州全体の平均で、生産性は年間約3%上昇します。例えばフランスでは、生産性向上が賃金上昇につながる傾向がありますが、ドイツでは、このような傾向はみられませんでした。しかし、現在ドイツの雇用主は強い賃上げ圧力にさらされており、例えば、金属産業労組(IGメタル)は、6%の賃上げと週28時間労働の導入を求めました。高い競争力を有するドイツにおいても、生産性の向上を賃金上昇につなげ、国内消費の拡大を喚起することが重要になっています。
―― 今後1-3年間で投資先として選好するセクターや資産クラスは ――
Q5.有望な投資先は?
スカンバーグ:素材セクター、例えば化学や紙・包装産業には多くの投資機会が存在しているとみています。投入費用の上昇は価格決定力を持つセクターや企業にとってはプラスになると考えます。また、同セクターは割安であるとみており、消費関連セクターの中で魅力的だとみています。更には、中国企業は、環境対策を強化する政府の方針の影響により、コスト上昇の課題に直面しています。欧州の素材企業はコスト面やイノベーションという両方の点から優位な立場にあるとの見方をしています。
カークランド:エマージング市場、特にエマージング株式を選好します。バリュエーション水準がより妥当であるほか、最近の先進国の不安定な政治状況と比べ、相対的にエマージング市場では以前よりも政治リスクが低下しているとみています。
シム:現在の低金利は持続可能であるとは言えません。消費者や一部の企業は低金利環境に非常に苦しんでいるほか、高騰した住宅価格などを落ち着かせるために金利上昇が必要であるとみています。従って、消費セクタ―のバリュー株を選好します。
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