英国の欧州連合(EU)離脱を巡る現状

2018年12月13日

英国下院議会は11日に予定されていた離脱協定案の採決を中止 

 11月25日、英国のEU離脱(ブレグジット)に係わる諸条件を定めた離脱協定案が、EU臨時首脳会議において承認されました。この承認を受け、英国下院議会では12月4日から5日間に亘り協定案の内容について審議が行われてきましたが、メイ首相は10日、翌11日に予定されていた同協定案に対する下院での議会採決を延期すると発表しました。その後、12日には与党・保守党内部で同首相に対する不信任投票が行われましたが、信任票が不信任票を上回る結果となり、首相続投が決定しました。

 メイ首相は、13日から開催される欧州理事会においてEU首脳と協議を行うものとみられ、争点となっているアイルランド島の国境問題1 に関連してEUから何らかの保証を得たい考えです。下院での採決の時期について同首相は明言を避けていますが、来年1月21日までには実施される見通しです。

 現在の離脱協定案がどの程度修正される可能性があるのか、また修正後の協定案が承認されるのかについては依然として不透明な状況です。もし仮に否決となった場合、メイ首相は21日以内に今後の方針を示すことになりますが、主に3つのシナリオが考えられます - ①総選挙の実施、②EU残留を含む3つの選択肢からなる国民投票の実施、③合意なき離脱。

 シュローダーでは、前回2016年6月に実施された国民投票や昨年の総選挙での結果を踏まえると、メイ政権が新たな国民投票や選挙の実施に踏み切る可能性は低いとみています。また、EUとの新たな離脱交渉や、EU離脱の撤回2 といった選択肢も考えられますが、EU側は再交渉を行わない姿勢であり、また与・野党の反対も根強いことから現実的ではないと考えられます。消去法的に現時点では、貿易・関税や金融など様々な分野での合意がないまま2019年3月29日にEUを離脱する可能性(合意なき離脱)が高まっているとみています。

EU離脱判断の余波、今後の見通し

 EU離脱交渉に収束の兆しが見えない中、2016年6月の国民投票でEU離脱の意向が示されて以降、その影響は内需関連企業を中心に既に出始めています。具体的には、国内での事業展開を主とする企業と、海外収益を主とする企業の業績を比較した場合、前者は後者に劣後している状況にあります。この背景には、通貨ポンドの下落や、内需中心企業に対する厳しい見方といった要因が挙げられます。

  • 約2年半前の国民投票以降、通貨ポンドは米ドルに対して値を下げており(図1参照)、海外収益の価値を表面的に高めることにつながっています。合意なき離脱が現実となった場合、将来的に英ポンドが米ドルに対して更に値を下げ、1英ポンド=1.12米ドル程度(図1点線)まで下落する可能性も出てくると考えています。
  • 英国株式については、2018年中盤以降、軟調な展開となっています(図2参照)。この背景には、ブレグジット以降の約2年半、内需関連企業の業績が外需関連企業に比べて相対的に伸び悩んでいることなどが関係していると考えられます。また、銀行や不動産、一般消費財・サービスをはじめ、住宅建設や食品小売り、公益事業などの内需関連セクターでは、銘柄の多くが割安な水準に置かれている状況です。

  • 経済の先行きを示す先行指標(図3参照)*をみると、国民投票でEU離脱の意向が示された2016年6月を前後するタイミングで、景気の先行きに対する見方が厳しさを増しています。
  • 最近のマクロ経済指標は企業の設備投資や個人消費の急速な冷え込みを示しており、通貨ポンド安が物価上昇圧力をもたらすことも予想されます。

 英国とEUはお互いにとって主要な貿易相手国であるばかりでなく、企業活動においても相互に人や物の移動を伴う生産活動を行っているなど、互いにサプライチェーンの一部を構成しています。また、EU域内では加盟国間の関税が免除され、単一パスポート制度に基づいたEU域内での自由な金融サービス事業が可能となっています。

 英国のEU離脱は様々な分野において英国、EU双方に変化をもたらすことから、通商・貿易をはじめとする幅広い分野での英国・EU間の新たな枠組みの構築が不可欠です。構築の遅れは経済活動を阻害し、景気後退の可能性を高めることから、当事者間の交渉の進展が強く望まれます。

 


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