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“嵐の雲”が空を覆い始め、債券投資家は金融危機以降慣れ親しんできた安息の地を離れなければならない時が近づいています。
過去10年間を振り返ると、2008年の世界金融危機の後、債券市場のボラティリティ*は急激に低下し、その後歴史的な低水準で安定的な推移をしてきました。
このような環境が継続してきた背景には、先進国の中央銀行による金融緩和政策があります。米国では、2008年に政策金利を事実上のゼロ金利とし、欧州では欧州中央銀行(ECB)が2014年に、日本では2016年にマイナス金利が導入されました。また、大規模な資産買い入れを行う量的緩和政策が長期に亘って実施されました。中央銀行による債券購入と市場への流動性供給は、非常に強力な経済支援材料となり、グローバル債券市場を下支えしてきました。このような非伝統的な金融緩和政策が長期間続いたことから、政治的若しくは経済的なショックが発生した場合でも、市場による警戒の芽はすぐに摘まれ、通常の金融環境であれば市場の警戒に伴って生じるボラティリティの上昇が長期間起こらなかったことも不思議ではありません。
しかしながら、金融正常化が進む2019年の投資環境を占うにあたっては、過去の長い歴史の中で構築されたマクロ経済と金融市場の関係性を改めて理解する必要がありそうです。
直近どのような変化が起きたのか?
1.世界金融危機後、労働市場で問題だった失業率の高止まりは、今や人手不足の状態になりつつあります。米国の失業率は約50年ぶりの低水準に達しているほか、日本の有効求人倍率は約44年ぶりの高水準付近で推移、また、ブレグジット(英国の欧州連合離脱)の不透明感が続く英国でさえも、失業率は1975年以来の低水準となっています。
2.一部の中央銀行が継続した量的緩和政策はその役目を終え、現在は政策金利を引き上げる必要がある、との見方を強めています。中央銀行はデフレーションリスクが低下し、量的緩和を終了しても問題ないとの姿勢を積極的に示しています。景気回復が相対的に遅れていた欧州でも、ECBが2018年末での債券買入プログラムの終了を決定しています。
3.現在、政府は財布のひもを緩め財政出動の加速に舵を切っています。トランプ米大統領の大規模減税という大盤振る舞いは多くの注目を集めたほか、英国は2019年度の予算案において歳出増加計画を示し、英財務相が緊縮財政の時代がようやく終わりに近づいていると述べるなど、有権者にとって優しい施策がグローバルに目立ってきています。ポピュリズムの台頭若しくは財政収支の改善と、その背景は異なりますが、財政政策はグローバル経済にとって追い風となっています。
4.保護主義の台頭が目立っています。トランプ米大統領は “アメリカ・ファースト”(米国第一主義)を掲げています。米政権による中国からの輸入製品に対する追加関税を課すとの発表は、アジア地域の景況感に影響を与えており、アジア地域やその他複数のエマージング国にとって2018年は厳しい年となっています。グローバル貿易に対する見通しは依然不透明で、トランプ米大統領の中国および貿易に対する姿勢が今後のグローバル経済や金融市場の方向性を決める重要な鍵となるでしょう。
ここから向かう先は?
長年に亘る非伝統的な金融緩和政策が終わりを告げ、中央銀行の保有資産が緩やかながら縮小に向かう環境においては、一定程度市場に動揺が起こることは当然と言えるでしょう。金融市場はこのような環境の変化に対応していく必要があり、足元では、金融緩和の恩恵を受けて価格が高騰してきた株式を中心にリスク資産が調整しています。このような中、2019年の投資環境は、好材料、悪材料、中立の要素が入り混じるまだら模様となるでしょう。
好材料:米国経済は多くの市場関係者の予想よりも底堅く、景気拡大局面は継続すると見ています。シュローダー・グローバル・マルチセクター・チームの分析では、米国の生産性(労働時間あたりに創出される付加価値の程度)は今後上昇すると見込んでいます。このような環境下では金利上昇が見込まれ、同時に経済成長も力強いものになると考えます。また、生産性改善は米国以外の地域でも広がりを見せる可能性があります。
中立:国内の経済活動はグローバルの各地域において順調に推移し、消費活動には過熱感が見られず、その他の指標でも、通常景気拡大局面の後期に見られるような過熱感は確認されていません。具体的には、雇用や賃金の伸びなどの指標も適正範囲にあるほか、インフレに関しても、徐々に上昇しているものの、危険信号となるような勢いは見られません。現在の環境下であれば、中央銀行は経済活動を抑制することなく、金融正常化を進めることができると考えられます。
悪材料:資産価格は、過去5-10年間でみられたような速度と一貫性を持って上昇することは期待できないと考えます。金融政策が正常化に向かうなかでは、中央銀行による下支えがない前提での価格付けが行われる必要があり、一部資産にとっては一定程度の調整がなされる可能性があります。
市場ボラティリティについては、今後上昇していくと見込んでいます。債券市場におけるボラティリティ上昇は、金利上昇方向へのバイアスが強いことが企業の債務負担が上昇につながり、社債のデフォルト率上昇をもたらす可能性があります。また、金融緩和によって軽視されていた様々なリスク・プレミアムに対するより厳密な分析が再開されることを意味すると予想します。これは、債券投資家のバラ色の投資生活の終焉を意味し、特に負債が記録的水準にまで高まった発行体に対する警戒感は高まるでしょう。
全ての資産価格が悲惨な状況に陥るとは見込んでいないものの、現物証券の買い持ちを続けて資産価格の上昇を捉えるような戦略が活躍する日は終わったとみています。一方で、アクティブ運用は、債券に留まらず様々な資産クラスにおいて、活躍の機会が豊富に訪れると予想します。
* 価格の変動性を表します。当資料中では米国債先物の期間1カ月のオプションのノーマライズド・インプライド・ボラティリティをイールドカーブ(2年、5年、10年、30年物の限月)で加重した指数であるメリルリンチ・オプション・ボラティリティ・エスティメイト(MOVE)指数を参照しています。
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