2019年市場見通し サステナビリティ

2018年12月21日

著者

ジェシカ・グランド
スチュワードシップ グローバル・ヘッド
  • 異常気象に伴う被害が増大するにつれて、事業特性によって企業の有形資産へのダメージやコストの増加といったリスクの大きいセクターが顕在化することが予想されます。
  • 世代間格差について、政府だけでなく企業も取り組む必要が出てくるでしょう。
  • 金利上昇局面において影響を受けやすい、負債の大きな企業には注意が必要でしょう。

 

今後数年間は、自然災害に伴う物理的な損失の増大や世代間格差の是正策としての増税、過剰債務を抱える企業が困難な状況下におかれること等が想定されます。

ESGは長期的な問題であることから、通常サステナビリティの専門家は市場見通しを作成しませんが、環境および社会の変化は加速しており、企業に対する逆風もかつてないほど強くなっています。2018年を振り返ると、世界的な気温上昇やポピュリズム政治の伸張と共にそのような例が多くありました。例えば、従来影響が少ないとされてきたテクノロジー企業についても、昨今は増税や規制強化といったリスクに直面したり、議会の公聴会に召喚される等、持続可能な経営を行わない企業にとっては逃げ道が無くなってきています。このような環境下、ESG要素を分析、考慮した投資を行うことがより重要となります。

環境:気候変動の物理的リスク

気候変動は確かに多くの人が考えるように長期的な問題であり、この分野の多くの分析はあまりに遠い将来のリスクを論じ、2030年までに取られるべきアクションについて話し合っていますが、これでは市場にとっては一生とも言うべき長い期間です。

一方で、気温上昇がもたらした異常気象によって物理的な損失がますます増大していること等、気候変動は既に今ここで起こっている問題でもあるのです。2019年はエルニーニョ現象の発生が予想されており、平年より温暖な気候となることで、世界中でより深刻な気象現象が発生する可能性があります。

異常気象が企業の有形資産やインフラに深刻なダメージを及ぼす可能性について、投資家は十分に分析できているとはいえません。シュローダーは、物理的なリスクを分析するフレームワークを策定し、グローバルで10,000を超える企業を分析しました。その結果、石油・ガスや公益事業、資源関連企業は、気候変動に伴う物理的リスクが最も高いセクターであり、逆にテクノロジーや家庭用品・パーソナル用品、ヘルスケアは最もリスクの低いセクターであることがわかりました。

気候変動を背景に自然災害は増加傾向にあり、今後もその傾向が続くと予想されています。2019年のエルニーニョ現象の可能性に限らず、その先に亘ってこのような物理的リスクを考慮することは投資家にとって重要なことであるといえます。

社会:若年層が抱える課題に企業が取り組む必要性

多くの人々が、ESGのSが最も分析が困難な要素であると考えています。シュローダーは、2014年に生活賃金の上昇、2015年に砂糖税の導入、2016年には保護主義がサプライチェーンへ及ぼす影響についてリサーチを実施しており、Sの分野におけるリサーチにも積極的に取り組んできました。

この分野で最も差し迫っている問題の一つに、世代間格差が挙げられます。先進国では高齢化が進み、医療や年金にかかる費用が急激に増加しています。また、資産価格の上昇に伴い住宅を持つことができない若年層が増加しており、“賃貸世代(Generation Rent)”という言葉が誕生しました。従来若年層は選挙の投票率が低かったことから、若年層向けの政策が少ない傾向にありました。しかし、2018年の米国の中間選挙では、18歳~29歳の投票率が2014年の前回選挙から大幅に上昇する等、近年は投票率が上昇傾向にあり、今後は政府に対する圧力も高まるものと想定されます。多くの国の財政状況を鑑みると、これらの問題を政府のみで解決することは困難であることから、年金の改善や若年層に対する住宅購入支援や職業訓練等、企業による支援も必要になると考えます。

シュローダーでは企業に対しても個人に対しても多くの分野で税負担が増大すると考えています。例えば炭素税は、本当に気候変動を抑制するのに効果的な水準まで達するとはいかなくとも、今後も増加するでしょう。その他にも、中長期的には環境や健康に対する便益のための課税拡大も無視できないでしょう。

ガバナンス:負債が問題になる可能性

2018年に行った様々な分析の結果驚いたこととして、企業の借入金について過去データを検証した際に、企業の財務レバレッジの高さに起因するリスクが株価に織り込まれていない状況であるということがわかりました。足元のクレジットおよび景気サイクルは、長期に亘って同じ局面が続いていることから、現在の企業経営陣のうち大半の人が、今とは異なる金利および経営環境において借り入れ水準の高さがどのような苦境をもたらすのかを経験していないことになります。

足元の低金利環境下では多くの企業が営業利益で利息の支払いを十分賄えており、債務の返済に苦労する企業は減少傾向にあります。しかし、今後は金利上昇が予想されており、債務の借り換えも含め、より多くの企業が困難に直面することが想定されます。

結論 

上記の問題は本来長期的なものですが、そのうちのいくつかは企業にとっては差し迫ったものとなっています。急激かつ大規模な環境および社会の変化に伴い、企業に対する圧力は高まっており、このことを踏まえると、ESGに関する分析を行い、将来予測を立てることは、投資家にとって非常に重要なことであるといえます。

 

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ジェシカ・グランド
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