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2018年、株式投資家は、株式市場のリスクについての再認識を強いられました。長期にわたるプラスの収益、かつボラティリティの低い期間を経て、投資家の関心は再びマクロ環境及び政治リスクに集まりました。具体的には以下のような点が挙げられるでしょう。
- 米国金利は上昇しており、債券投資家にとって悪い影響をもたらす可能性が高まっています。2018年が債券市場にとって、1970年代中盤以来、最も悪い年のうちの1つとなったことは、過度に驚くことではありません。
- 米国金利の上昇は米ドル高を助長し、巨額の米ドル建て債務を有するエマージング諸国や企業の財務健全性に対して懸念が高まりました。この傾向は2019年も続くと考えられます。
- 米国トランプ政権の保護主義的議案や課税の引き上げに関する話題は、現在ではもはや市場の常連となり、今後も「ノイズ」としてしつこく投資家心理に影響を与え続けると考えられます。しかし、米中両経済が互いに貿易摩擦の悪影響を受けるため、結果としてこの緊張関係が過度にエスカレートする可能性は低いと考えます。
- 低調なイタリア経済や同国の脆弱な銀行セクターの動向、同国2019年予算案に関する政府の稚拙な対欧州連合(EU)交渉戦略およびEUの弱腰な交渉姿勢等によって、再びユーロ単一通貨システムの構造的欠陥に焦点があてられることとなりました。一方で、ユーロ債市場の構造変更や債務相互負担等の抜本的な制度改革、あるいは単一通貨ユーロの崩壊等の潜在リスクシナリオについては、2019年内に起こる可能性は低いでしょう。ただし、このようなリスクは市場ボラティリティを高めるもう1つの要因となり得るでしょう。
- エマージング市場減速の懸念が、世界経済全体の成長を減速させるでしょう。
これらの潜在リスクは全て共通点があります。つまり、これらは未知のものではなく既知のものであり、数年とはいわないまでもここ数か月において投資家が認識していたリスクであるということです。
2019年に変化を迎えるものとは?
米国株式市場において、1年に2回にわたって10%の下落が見られたのは1960年以降初めてのことであり、2018年は特別な年となりました。この市場環境が2019年も繰り返される可能性は低いと考えますが、市場のボラティリティが高い環境が続く可能性は高いとみています。
世界の主要中央銀行は、従来継続していた量的緩和政策から段階的に金融正常化プロセスに移行しています。米国連邦準備制度理事会(FRB)は2015年終わりごろから8回の利上げを行いました。これは債券投資家の投資需要に対する重しとなるでしょう。加えて、米国企業による自社株買いは減速するとみています。2018年、税制改革という刺激策によって、米国企業は本国に巨額の資金還流を行いましたが、2019年はこの勢いは減速するでしょう。これらの転換は、債券や株式投資家の動きを止め、需給バランスに大きな変化をもたらす可能性があります。
市場環境が変化する中、CB市場は引き続き以下の点によって特徴づけられると考えます。
- 突発的で変動しやすい株式市場の調整局面に対するプロテクション(防御):
2018年、CBは再び安定的な動きとなりました。グローバル株式市場(MSCIワールド・インデックス)のボラリティティは10%まで上昇しましたが、これに比べ、転換社債(トムソン・ロイター・グローバル・フォーカス・コンバーティブル・ボンド・インデックス)のボラティリティは5%に抑制されています(いずれも月次リターンを用いて算出)。またCB市場は、下値抵抗力によって下落幅が抑制され、2018年2月の株式下落時には株価下落幅の57%、10月については59%にとどまりました。このようなCB市場の特徴は、2019年についてもほぼ同様に継続すると考えます。 - クレジット市場の低迷時やデフォルトに対するプロテクション(防御):
長期にわたる低金利・ゼロ金利が市場に非効率性、人工的に低いデフォルト率、企業のゾンビ化をもたらし、結果財務基盤が弱い企業の存続が可能となっていたということが、今後より認識されることとなるでしょう。また、低金利時代にETFを通じてクレジット市場へ巨額の資金流入が発生し、且つ投資適格未満の格付けを有する企業に資金流入が集中したと考えられることから、投資家が抱える潜在的なデフォルト・リスクは高まったと考えられます。企業が借換コストの上昇に直面すれば、格下げされる可能性があり、売り圧力と流動性の低下を引き起こす悪循環に陥るきっかけとなるでしょう。CBについてはデフォルト・リスクが無いわけではありませんが、CB市場は、投資適格の格付けを付与された財務面で堅固な企業によって構成されています。
一般的に、上述に挙げたようなCBプロテクション(防御)可能度合いは以下に挙げる要因によって変化します。つまり、株式市場に対するCB市場の感応度、ボンド・フロア(CBが有する債券としての価値)までの価格幅、クレジット・リスクもしくは企業がデフォルトするリスク、そしてCB自体のバリュエーションによります。
現在、CB市場は過去と比較して、防御的な特性を強く有しています。市場全体の株式市場の変化に対するCB市場の感応度は36%と低位、債券の価値を示すボンド・フロアは88%と高位です。発行体がデフォルトすることなく、償還日に償還金の払い出しをすると仮定すれば、これらの特性値を投資資本の防御的特長として捉えることができ、保有証券の理論上の最大下落幅を想定することが可能です。CB市場(トムソン・ロイター・グローバル・フォーカス・インデックス)全体の平均格付けはBBB+と安定的であり、困難な市場環境においても相対的に安定的な推移をする可能性が高いことを示しています。また、より重要なことは、現在のCB市場全体ではバリュエーション面で適正水準にあるということが挙げられます。国別では、米国は割高で欧州はバリュエーション妙味の顕著な低下が見られますが、日本及びアジア地域は引き続き割安な水準にあると言えます。
CB市場のバリュエーション
最後に、2018年夏に新発債市場における新規発行が積極的に行われて以来、市場構造に変化が起きたと考えます。従前の市場では、目新しく魅力的なビジネスモデルを有する発行体が不在であった一方、直近は大きな企業成長余地を有する様々な発行体から、上述のような当資産クラスの特徴を有するCBの発行が見られます。セクター別では、引き続きITセクター、特にクラウド・ビジネスやアプリケーション・サービス、決済代行サービス業の発行体によるCB市場への参加が目立ちます。2018年10月の株式市場調整によって、利回りがプラスに転じる銘柄が増えており、CB自体の更なる投資妙味が発生しています。
シュローダー・CB運用チームでは、現在のCB市場のファンダメンタルズを鑑み、2019年の投資家の当資産クラスに対する検討事項が、CB市場への資産アロケーションをするか否かではなく、CBへの資産アロケーションをどれほど実施するかに移ることを願っています。
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