景気回復はV字型?W字型?L字型?
今後の世界経済の回復軌道については、現時点でV字型の回復をする可能性が高いと考えるものの、新型コロナウイルスを巡る状況が長期化した場合、W字型の景気シナリオとなるリスクが存在する可能性があることも考慮しておく必要があると考えます。

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足下における世界経済は、政府による新型コロナウイルス感染拡大防止措置の影響で、経済活動が停滞している状況にあります。シュローダーのエコノミクスチームでは、2020年の世界の経済成長見通しを-2.9%としており、世界金融危機の影響を受けた2009年の-0.5%を下回ると考えています。
但し、世界金融危機時とは異なり、相対的に早期に景気が回復する可能性もあると考えます。世界金融危機では、米国経済が危機発生以前の水準に回復するまでに2008年から3年間以上を要し、歴史的に見ても景気が回復するまでに最も時間を要しました。
当時は、中央銀行が過去最低水準まで金利を引き下げたにもかかわらず、銀行や家計は債務の圧縮をしなければならない状況でした。この債務圧縮プロセスが長期にわたり、家計については収入に対する債務比率の低下が現在も続いています。このように、世界金融危機がもたらした影響は甚大なものでした。
一方、今回については現時点において基本的にはV字回復、つまり米国経済は2020年下期には回復軌道に入る可能性が高いと考えています。但しこの背景として、新型コロナウイルスの感染拡大が一巡し、感染拡大防止措置が徐々に緩和されることが前提となっており、ビジネスの再開、人々の仕事復帰など、停滞していた経済活動が再開することが挙げられます。
当然、新型コロナウイルスの感染拡大防止措置により永久的な影響を受ける分野もあると考えることから、経済が全方位的に一斉に復活するとは考えていませんが、現在のように金融政策と財政政策双方からの支援が実施されている環境下では、人々の仕事への復帰は、経済成長を大きく加速させると考えます。
他方、基本見通しのV字回復シナリオに対する最大のリスクは、新型コロナウイルス感染が2020年下期に再拡大し、10-12月期に再び感染拡大防止措置が実施されることです。インペリアル・カレッジ・ロンドンによる分析では、感染拡大防止措置に関して以下のように述べられています。
「感染拡大防止措置の主な課題は、ワクチンが開発されるまで、継続されなければならないということです。そして、感染拡大防止措置が緩和された場合、感染はすぐさま再拡大する可能性があることを認識しなければなりません。」
感染が再拡大した場合、感染拡大防止措置が再び実施される可能性があり、措置の実施と解除が繰り返される可能性があります。経済的には、感染拡大防止措置の再実施により経済活動の再停滞が見込まれることから、W字型の景気シナリオが考えられます。
このように2020年10-12月期に再び景気が後退し、2021年1-3月期に再回復を辿るシナリオを「新型コロナウイルスを巡る状況の長期化 」シナリオとして捉えています。一般的にはワクチンの開発に12-18か月を要すると言われており、その通りとなった場合、経済活動の本格的な再開が可能となるのは、遅くて2021年7-9月期になる可能性もあると考えています。
その場合、米国GDPの推移はW字型を辿り、基本シナリオのV字型や世界金融危機時のL字型とも異なったものとなります。他国でも同様の措置が取られると考えられることから、世界のGDP推移についても同様にW字型を辿る可能性があると考えられます。

上図から読み取れるように、基本シナリオでは2021年末までには、景況感は回復し支出拡大も見込まれ、底堅い経済成長に戻ると考えています。また、借り入れや設備投資の回復が最優先される期間となることから、緩和的な金融政策が維持されると見込まれます。財政政策についても、予算が組まれる時期には経済は低迷した状況にあることが見込まれ、拡張的な財政政策が維持されると考えます。
しかしながら、「新型コロナウイルスを巡る状況の長期化」シナリオでは、生産面でのボラティリティがより高いことから、収入への影響はより大きく、より多数の失業者が出ると予想されます。また、学校の再休校のため、子供を持つ労働者などには過大な負担となり、労働供給は大幅に低下することが見込まれます。
企業については、2020年の2度に亘る経済活動の停滞により、2019年対比で2020年の企業収益は40%程度低下が見込まれます。(基本シナリオについては15%程度の低下を見込む)回復はより力強いものとなることが見込まれるものの、デフォルトや倒産のリスクはより高くなり、どの企業が生き残り、回復することができるかが問題となります。
中央銀行や政府は、より深刻な影響に対処しなければならず、各国は基本シナリオよりも多額の債務を負うことが見込まれます。英国の予算責任局の試算によると、GDP1%の下落につき英国政府の債務は0.7%(対GDP比)上昇すると示唆されており、この試算に基づくと、債務残高は5.4%(対GDP比)上昇、金額ベースでは1,250億ポンド程度の上昇になると考えられます。
このように、希望的にもV字型の景気回復を基本的には見込むものの、同時にW字型の景気シナリオも考慮しつつ、今後の状況の変化を精査する必要があると考えます。
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