パースペクティブ(約3分)

日本株式

2021年1月8日
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著者

前田 建
日本株式ファンドマネジャー

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  • マクロ経済環境と企業業績についてはコロナ後の回復期待が高い中で、市場動向を占う上で新型コロナウイルスの感染状況やワクチン接種の進展などが注目されます。
  • 2020年後半の株価上昇を受けて市場全体としてバリュエーションは割安感がある水準とは言えないものの、市場の期待通り、あるいは期待を上回るペースで企業業績の回復が進めば、市場の上昇余地があると見ています。
  • 2020年は市場の二極化傾向が加速し、グロース株とバリュー株のバリュエーション格差は歴史的に極端な高水準にまで到達。景気回復、業績改善に伴い、本格的な格差縮小に転じると想定します。
  • 2021年は、コーポレートガバナンスコードの改訂があり、また東証の市場再編を控えてガバナンス改善がさらに進展すると期待され、その優勝劣敗が株価リターンを左右すると見ています。

クロ経済環境と企業業績の回復が継続するかはコロナ次第か

2020年は新型コロナウイルスの感染拡大と緊急事態宣言による経済活動の停止などを受けて、4-6月期の景気は急速かつ大きな減速を経験しましたが、7-9月期には回復基調に転じました。新型コロナウイルスの影響が残る中で回復力は強くはないものの、2019年10-12月期が消費税増税による影響が大きかったことから、前年比では堅調な推移となっています。個人消費の増加に加えて、生産動向も電子部品・デバイスや一般機械などが増産となり、輸出の回復も顕著です。しかしながら、こうした回復トレンドが2021年も継続するかは新型コロナウイルスの収束にかかっていると言えます。足元では首都圏に緊急事態宣言が出されるなど全国的に感染拡大が進んでおり、海外でも変異種によると思われる感染の爆発的な拡大が懸念されています。一方で、ワクチンの承認、接種が米国から英国、欧州でも進展しており、その浸透スピード、そしてそれによる感染の抑制が進むかが注目されます。日本においても、菅首相は2月中のワクチン接種開始を明言しており、その効果により感染拡大が収まれば、景気回復も加速すると期待されます。

新型コロナウイルスの市民生活への影響を踏まえると、財政的な手当ては政治的にも不可欠であり、景気対策の積み増しなど拡張的な財政政策は継続すると想定されています。金融政策についても緩和的な現政策が変更されることは想定されず、景気の落ち込みに対しては柔軟に緩和策が拡張される可能性もあります。

安ではないバリュエーション水準ながら、回復順調なら上昇余地

2020年の日本株式市場は新型コロナウイルスの感染拡大が懸念された2月、3月に大きく下落したのち、世界的に財政政策と金融政策の拡張による流動性供給とアフターコロナの回復期待が高まってリスクオンの市場環境となり、4月からの2020年度では12月までに30%もの上昇を記録しました(TOPIX配当込み)。その結果、TOPIXの市場PER(株価収益率、12か月予想)は18倍まで拡大しました。業績回復をある程度織り込んだ予想収益でみてもPERが18倍というのは歴史的にもレンジの上限にあります。とはいえ、市場では割高感から高値警戒感が強まるというよりは業績回復が進展することが想定されて、足元で新型コロナウイルスの感染拡大が懸念する中でも市場は底堅さを維持しています。ワクチン次第ではあるものの、2021年度の企業業績の回復が確認され、さらに次年度への利益成長が見えてくれば、市場の上昇余地が出てくると期待されます。リスク要因としては、新型コロナウイルスの収束が後ずれする可能性に加えて、足元で進行する円高による企業業績への影響、バイデン米新政権による経済政策の動向や米中衝突の可能性、また国内でも10月までには総選挙を控える菅政権の政治的安定性が揺らぐケースなどに注意が必要とみています。

場の二極化相場の反転期待と大きな超過収益機会

2020年の日本株式市場で顕著であった傾向の一つが二極化相場の更なる加速でした。大型株優位、グロース優位の相場動向は2018年、2019年と続いていたことから、2020年はその反転が予想されていましたが、新型コロナウイルスによる影響がその反転タイミングを遅らせたと言えます。突発的な要因により景気と企業業績が急停止をして、不透明感が強まる中では利益成長力が確かなグロース株が選好され、また業績回復期待が高まる中でも安心感からグロース株がバリュエーションを無視して買われる傾向が続きました。

小型株も2月、3月のリスクオフ局面では大きく売られたのち、市場の反発局面でも流動性のある大型グロース株に出遅れました。大型株、値嵩株が中心の日経平均株価指数の上昇によるNT倍率が15倍を超えたのも極端な二極化相場を象徴しています。こうした市場の歪みは、どこかのタイミングでは解消されるとみており、グローバルの株式市場では2020年11月から、日本株式市場では2020年12月に入ってようやくバリュー株の反転上昇が見られるようになりました。特に自動車など景気敏感株の反発が顕著となりましたが、さらにこの回帰傾向が続くかどうかは景気と企業業績の回復度合いにかかっていると言えます。また、米国ではじわりと金利が上昇しており、金利環境の正常化が進めば金融株の復活にも期待が持てます。2021年はこれまでの流動性主導、モメンタム主導の極端で一方向な市場動向が正常化に向かうと想定され、ボトムアップのアクティブ運用にとっては、こうした歪みが解消される局面では大きな超過収益の機会が見い出すことができると考えています。

ーポレートガバナンス改革の更なる進展と企業間格差の拡大

日本株式市場特有のプラス要素としてこの数年、ガバナンス改善とそれに伴う株主リターンの向上を挙げてきました。日本企業の動き、経営陣の対応は全体的に必ずしも満足のいくスピード感ではないものの、ガバナンスの改善、株主還元方針の強化や明確化、さらには親子上場の解消、政策保有株の売却など、個別には市場に評価されるケースも多くなってきています。2021年はコーポレートガバナンスコードの改訂が予定されており、そこでは社外取締役を3分の1以上にするなど、より強固にガバナンス体制の強化が求められる見込みです。さらに親子上場や政策保有株の問題にも踏み込むことが期待されています。加えて、東証の市場構造改革を受けた市場区分の変更が本格的に動き出す見込みです。東証上場市場はプライム、スタンダード、グロースと分けられ、プライム市場には更なるガバナンス強化に向け厳しい基準が設定されると見られています。新しい市場区分への移行は2022年4月が予定されており、それに向けて上場企業の取り組みが2021年に本格化することが期待されます。2020年は新型コロナウイルスの影響で業績の落ち込みから配当増や自社株買いなどの動きが一時的に中断しましたが、企業業績の回復を受けた株主還元の強化が投資家に評価されるとみています。このようなガバナンス体制や株主還元に対する経営陣の姿勢は企業によって温度差があり、企業間格差はさらに拡大することが想定されます。そして、市場の評価も大きく割れる可能性が高く、株価リターンにも影響が大きくなるとみられます。ここでも、ボトムアップのアクティブ運用の真価が問われると考えています。

ESG投資と脱炭素化、DXの展

最後に、ESG投資の世界的な拡大は日本株式市場においても大きな流れとなっていると言えます。一方で、ESGをテーマ的に扱って、株価がファンダメンタルズを無視して過度に押し上げられるケースなどには注意が必要です。ESGをブームではない視点で、企業価値を映すレンズの一つとして見れば、長期投資を志向するアクティブ運用としてその有用性は高いと考えています。企業経営においてもSDGsを踏まえた企業価値向上、利益成長の戦略が打ち出されるケースなど、気候変動や不祥事などのリスク回避だけでなく成長力を後押しする視点としてもESGが重要になっていくと思われます。企業の情報開示や新たなESG分析のデータ蓄積、手法やツールの開発などが進んでいる中で、企業リサーチの強化、アクティブ運用の高度化につなげていくことが運用会社には求められていると言えます。そして、菅政権が進める脱炭素化、DX(デジタルトランスフォーメーション)は企業にとっては経営環境の構造的な変化につながる動きであり、特に脱炭素化、気候変動問題はESG投資において重要な視点の一つです。この数年、日本株を敬遠してきた海外投資家にとっては、ガバナンス改善に次いで、日本株式市場に対する見方を好転させるきっかけになるとも期待されます。

 

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