プライベート・エクイティ市場が直面する4つのリスクと、それらが示唆する新規投資先とは?
プライベート・エクイティ市場は、いくつかのリスクに直面していますが、いくつかの観点で、逆境から投資の好機が生まれると考えられます。

2020年と2021年の大半は、様々な点でプライベート・エクイティ市場にとって記録的な年となりました。活況な資産市場、安価な借入コスト、緩和的な金融・財政政策、活況なIPO市場、優れたストーリーを持つ投資機会に対する投資家の飽くなき需要、これらすべてがその役割を果たしました。新型コロナ危機の時代に恩恵を受けたアセットクラスは、プライベート・エクイティに限らず、「あらゆる資産クラスがブーム」とも言われました。
しかし、コロナ禍において相場をけん引してきたこれらの要因は、激しく巻き戻され、逆境へと転じています。
インフレ率は多くの先進国で、この数十年間に見られなかったような、2桁の水準に向かって上昇しています。金利は上昇し、IPO市場はほぼ閉ざされ、グロース株とテクノロジー株は大幅に下落しています。
プライベート・エクイティ市場は、このようないくつかのリスクに直面していますが、いくつかの観点で、逆境から投資の好機が生まれると考えています。
リスク1:景気後退リスクの高まり
各中央銀行は、インフレ対策として金利を十分に引き上げつつ、景気後退を引き起こさないように、「ソフトランディング」を試みようとしています。しかしながら当社のエコノミストが直近出したレポート、「Economic and Strategy Viewpoint - Q2 2022」で論じているように、これを達成するのは難しいでしょう。特にウクライナ戦争を背景に、商品価格の上昇によってインフレが引き起こされているためです。これに対し、イングランド銀行のアンドリュー・ベイリー総裁は、無力感を感じていることを認めています。
しかし、景気後退は、プライベート・エクイティに対しては、予期されるよりも良い恩恵をもたらしてきています。ファンドは、資金を一度に投入するのではなく、数年をかけて資金を投入するため、「時間分散」の恩恵を受けます。即ち、景気後退期に調達した資金は、不況の進行とともに下落した価値で資産を取得することができ、回復期にバリュエーションが上昇した時点で、エグジットを実施することができます。
1980年以降のデータによると、景気後退期に資金調達がされたプライベート・エクイティ・ファンドの平均IRR(内部収益率) は年率14%を超えていました。これは、景気後退期前の数年間に調達されたファンドよりも良好な結果です。

リスク2:スタグフレーション
通常の景気後退よりも深刻なシナリオは、スタグフレーションのリスクであり、高インフレと同時に成長が鈍化する現象のことです。スタグフレーションは上場株式市場にとって、最悪の環境です。
しかし、すべてのセクターが等しく影響を受けるわけではありません。歴史的に見ると、上場株式市場の中で最も苦しんだのは情報技術セクターであり、次いで通信サービス、資本財の順でした。対照的に、生活必需品やヘルスケアセクターへの投資には非常に良いタイミングとなりました。プライベート・エクイティ市場でも類似のことが言えるでしょう。
情報技術はプライベート・エクイティに大きく関連するセクターです。過去の株式市場の経験をふまえると、スタグフレーションが深刻化した場合、時間の分散によってある程度ポートフォリオは保護されますが、多くの戦略で厳しい状況に陥る可能性があります。
一方で、消費者やヘルスケア関連の戦略に投資している投資家は、苦戦するどころか、戦略のパフォーマンスに嬉しい驚きを覚えるかもしれません。

リスク3:IPO市場の閉鎖
2022年第1四半期の米国IPOの調達額は100億ドルであり、直近のIPOブームがピークに達した昨年同時期を92%下回りました。6月9日時点で、第2四半期に調達された資金はわずか30億ドルとさらに落ち込み、ほとんどゼロに近くなっています。2022年は、久しぶりにIPOの取引額が最悪の年となりそうです。
IPO市場は、ベンチャー・キャピタル投資の重要なエグジットルートであるため、IPO市場の落ち込みは問題となります。また、リスク回避志向の高まりは、多くの企業のM&A意欲にも影響を与える可能性があります。しかし、こうしたエグジット機会の閉鎖は、一部のジェネラルパートナー(GP)やリミテッドパートナー(LP)にとっては新たな取引機会を生み出すでしょう。

GP主導の取引とは、あるプライベート・エクイティのジェネラルパートナー/ファンドマネージャーが、一つまたは複数のポートフォリオ企業を、同じGPによって設立された別のビークルに売却するもので、今後さらに拡大していくものと思われます。GP主導取引の増加はすでに見られていたトレンドですが、IPO市場の閉鎖とM&Aによるエグジット機会の減少が、この傾向を加速させる可能性があります。

GP主導のセカンダリー取引には、主に2つの利点があります。第1に、売却することで、プライベート・エクイティビークルのLP投資家がエグジットを達成し、それに伴う現金分配を受けとることができます。第2に、GPがファンドの投資期間の終了時に、強制的にエグジットを余儀なくさせられるのではなく、さらなるアップサイドがあると思われる企業のエクスポージャーを継続保有できることです。
リスク4:過剰な資金調達の弊害
近年、あらゆるプライベート・アセットが投資家の関心を集めていますが、プライベート・エクイティ業界の一部では、資金調達が過剰に行われている分野があります。
過剰な資金調達は、取引競争の激化、取引価格の上昇を招き、最終的には誰しもが予想するように、リターンの低下につながります。
その典型的な例が、レイト・ステージのベンチャー、グロース分野です。シュローダー・キャピタルのファンドレイジング・インジケーター(FRI)は、何年も前からこの分野における資金調達の過熱感を指摘してきました。

この資金流入は、IPO前の資金調達段階での企業の評価額の中央値を、過去5年間で9倍に上昇させ、またユニコーン企業の数を急増させました。しかし、ここ数年間の過剰な流動性によって評価が引き上げられたすべての他の資産クラスと同様に、これらの大半の企業では、将来はより厳しいものになると思われます。これらの企業を支援するプライベート・エクイティ・ファンドのパフォーマンスも、より厳しい局面を迎えることになるでしょう。

しかし、レイト・ステージ以外のプライベート・エクイティの資金調達では、それほど過熱感はありませんでした。アーリー・ステージのベンチャー・キャピタルでは、はるかにバリュエーションが抑えられています。これを確認する方法の1つとして、レイト・ステージのベンチャー・キャピタル投資と比較した、アーリー・ステージのベンチャー・キャピタル投資の評価額の相対的な変化があげられます。アーリー・ステージ(シード/シリーズAラウンド)のベンチャー企業の評価額の中央値は、2016年から2021年の間に、「わずか」2倍になっただけです。これは、過剰流動性に後押しされたレイト・ステージ(シリーズF以降)ラウンドの9倍の拡大には程遠いものです。この事実は、アーリー・ステージのベンチャー・キャピタル投資において、より回復力があるパフォーマンスにつながるはずです。
また、バイアウトの分野では、小型バイアウトのバリュエーションは、大型バイアウトに比べ、より安定しており、バリュエーションに起因する価格下落のリスクは、大型バイアウトよりも小型バイアウトの方が低いといえるでしょう。

逆境の中に見られるチャンス
プライベート・エクイティも、現在あらゆる金融資産に影響を及ぼしている要因から免れることはできません。しかしながら、プライベート・エクイティ業界でもレイト・ステージのベンチャー・キャピタル投資は、より困難な状況に直面する可能性が高い一方で、プライベート・エクイティ業界でも生活必需品やヘルスケアセクター、アーリー・ステージのベンチャー・キャピタルや小型バイアウトといった一部の領域ではより回復力が高く、投資の好機となる可能性があると思われます。
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