著者
私は仕事柄、海外投資家に日本株式市場の見通しをお話する機会があり、最近はコロナショックから菅政権の誕生までニュースフローには欠かさない状況が続いています。一方で、ボトムアップの長期投資を志向する私どもが市場の見通しを話す上で常に意識しているのは、ファンダメンタルズであり、企業業績とバリュエーションに集約されます。そして、重要な質問となるのは日本株は割安なのか割高なのか、です。
足元の日本株式市場は、バリュエーションの判断が難しいと言えます。それは新型コロナウイルスの影響を受けて企業業績がこれまでに無い速度で大きく落ち込み、これから底打ちの確認、急回復を見込んでいる状況にあり、その振れ幅の大きさ、予想にばらつきがあるからです。今期予想の業績で見たPER(株価収益率)はかなり高い水準にありますが、だからといって割高とは言えないのではないかと考えています。
シュローダーでは、定期的に世界の株式市場を見渡して、どこの市場が割安か、というレポートを配信しています。9月末を基準として、いくつかのバリュエーション指標を見比べてみると、興味深い結果となっています。過去15年の中央値(Median)との比較で割安か割高かを判断していますが、米国、英国、大陸欧州、エマージング市場、そして日本の全ての市場で予想PER、実績PERは割高となります。日本の数字で言うと、中央値の14倍に対して、予想PERは18倍となっています。過去15年、日本市場の予想PERは11倍から16倍のレンジで動いており、18倍はやはり割高のように見えます。しかしながら、過去10年平均の企業業績を用いて計算する、CAPE(いわゆるシラーPER)では、実は日本市場はまだ割安な水準にあります。また、短期的な業績の動きに影響されにくい企業の純資産をベースにしたPBR(株価純資産倍率)では、1.3倍と過去15年の中央値と同じ水準にあります。さらに配当利回りを見ると、過去15年の中央値である1.9%に対して2.3%と高い水準にあります。ただ、これはバリュエーション判断よりは、日本企業の株主還元が強化されつつあるという点で、市場の投資魅力につながると言えます。
日本企業の業績がこれから回復を見せることが前提にはなりますが、バリュエーション面では割高とはいえない、フェアな水準にある、というのが妥当な見方ではないかと考えています。
それでは投資家にとっての日本株式市場の投資魅力はどこにあるのでしょうか。業績の回復期を超えた利益成長によるアップサイドはあるとは言えます。それ以上に注目すべきは、企業業績とバリュエーション面で市場内に大きな偏りがあり、足元ではそれが加速していることです。それはグロース株とバリュー株の極端に大きなリターン格差、そして歴史的な高水準となったバリュエーション格差につながっています。しかしながら、歴史的な割安水準にあるバリュー株を買えばリターンが上がるという単純な話ではありません。企業業績の不透明感は残りますし、グロース株の高成長が続けば、高いバリュエーションも正当化される可能性もあります。結局は、個別企業で業績の見通しとバリュエーションとのバランスを見ていく必要があり、そうしたボトムアップの投資判断が、市場の大きな偏りをリターンにつなげていくことにとって重要であると考えています。
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