バリュー株優位の本当の要因は何か
金利上昇、インフレ、景気回復見通しの要件があればバリュー株優位になるという説明は、必ずしも正しいとは言えないかもしれません。これらの要件があるかどうかにかかわらず、バリュー株優位が継続する可能性があります。

著者
バリュー(割安)株のリターンがグロース(成長)株のリターンに劣後する展開が長期間続いたということが、過去10年位の間に言われてきました。そしてその要因は債券利回りの低下や低インフレ、また景気減速にあると多くの人が説明してきました。
ところが足元でバリュー株とグロース株の形勢が逆転しています。債券利回りの上昇と景気回復への楽観的な見通しを手掛かりに、バリュー株は返り咲いたのです。
例えば米国株式では、ファイザー社が新型コロナウイルスのワクチン開発の成功を発表した2020年11月9日以来、2021年4月14日までの期間で、バリュー株がグロース株を約12%上回るパフォーマンスとなりました。
つまり金利上昇と景気回復見通しという背景が鮮明になった局面で、グロース株が売られバリュー株が買われるローテーションが起こるという通説の通りとなったのです。
確かにこの説明は正しいのかもしれませんが、市場の過去データはバリュー株のリターンと金利などの経済変数の間に相関が必ずしも成り立つわけではないということを示しています。つまり金利の変化が一貫してバリュー株優位もしくは劣後につながっているわけではないのです。
バリュー株とグロース株のバリュエーションの差は拡大しており、バリュー株の割安度が強まっていたため、今後数年間はバリュー株がアウトパフォームする可能性が高いとみています。
しかしながらバリュー株の反発が金利の動向、インフレ、景気回復見通しの要件次第で実現する、という説明は言い過ぎであるかもしれません。

デュレーションについての議論
一般的にグロース株はキャッシュフローが遠い将来にも実現されると予想されることから、債券利回りが低下すれば、バリュー株より株価は大きな恩恵を受けると言われています。
つまりグロース株の方がキャッシュフローの平均回収期間である「デュレーション」が長くなり、そのために将来のキャッシュフローを現在価値に割り引く割引率の変化に対して感応度が大きくなります。
リスク・フリーの実質金利(インフレ調整後)は、現在価値に割り引く際の割引率を構成する要素の1つです。もしその他の全ての要素を同じと仮定すると、実質債券利回りが低下した環境において、グロース株の株価へのプラス効果の方がバリュー株へのプラス効果より大きくなります。
グロース株対比のバリュー株のリターンは、過去数年間については実質債券利回りの変化とプラスの相関がありましたが、長期間でみるとプラスの相関が一貫して成り立っているとは言えません。
例えば、過去3年間については、MSCI USA グロース・インデックス対比のMSCI USAバリュー・インデックスのリターンと、米国インフレ連動債(TIPS)10年の利回り変化との相関が+0.55となっています。
一方で過去50年間については平均相関が+0.07となっており、以下のグラフで示されている通り、プラスとマイナスの間を行ったり来たりしています。

過去3年間の相関の状況は、典型的な例というより、異常値だったとみています。1990年代以降では、その他の3年累積リターンは相関がそれほど高くありません。
これは、実質利回りが上昇すればバリュー株のリターンが自動的にグロース株のリターンを上回るとは言えない、ということを示しています。逆もまた然りです。
ただし2010年代は、長期平均と比較するとプラス寄りの相関を示しており、これは低利回りの環境によるものとする意見もあります。
一方で1980年代もプラス寄りの相関を示していたのですが、その期間は低利回りの環境ではなかったため、低利回りと高い相関があるという議論は下火になりました。
それではこれらの要素以外に、バリュー株のリターンと相関があるものとして何があるでしょうか。まず第一に、実質金利の変化は、将来のキャッシュ・フローに影響を及ぼすインフレ期待や景気回復期待の影響を受けます。
また、キャッシュフローの計算で使ったリスク・プレミアムは、現在価値を算出するための割引率を構成するリスクフリー・レートに上乗せされる要素ですが、このリスク・プレミアムにも変化があるかもしれません。
これらの要素による効果がお互いに相殺し合っているため、グロース株対比のバリュー株のリターンに対する金利動向の影響を解きほぐすことが難しくなっているのです。
バリュー株のリターンと相関があるのは金利の動くスピード
その他にバリュー株のリターンと相関があるファクターとして、金利の動くスピードがあります。バリュー株のリターンは金利の緩やかな上昇には反応していないと見られる一方、金利の急激かつ突然の変化によって大きな影響を受けています。(以下のグラフをご参照ください。)
例えば、実質利回りが1か月間で2標準偏差より大きい水準で上昇した場合(足元の環境で示すと0.25%以上の上昇となった場合)、バリュー株の1か月のリターンは平均してアウトパフォームしています。一方で、実質利回りが1標準偏差かそれより小さい標準偏差で上昇した場合、バリュー株の相対リターンは平均して横ばいとなっています。
その一方で、実質利回りが低下した場合は総じて、バリュー株と比較してグロース株のリターンに大きなプラス効果となっており、利回り変化の大きさに影響は受けていません。

また、バリュー株のパフォーマンスは、名目米国債の利回りからインフレ連動国債の利回り(実質金利)を引いた差によって算出される期待インフレ率の小さな変化とは、総じて相関がありません。
実際には世間一般に信じられている通説とは対照的に、バリュー株のリターンは期待インフレ率が1標準偏差かそれ以上の大きさで上昇した期間ではグロース株のリターンをアンダーパフォームする傾向にあります。
それはなぜなら、名目利回りに変化がないと仮定するなら、期待インフレ率の増加は実質利回りの低下を意味し、将来の利益を現在価値に割り引く期間であるデュレーションが長いグロース株の株価バリュエーションの拡大につながっているためです。
バリュー株は必ずしも景気敏感ではない
その他に、バリュー株のリターンと債券利回りとの不安定な相関を説明する可能性があるものとして、バリュー株の景気敏感(シクリカル)の特性が挙げられます。ただし、長期間ではバリュー株が景気敏感のエクスポージャーを一貫して相対的に大きく持っているとは言えません。
シクリカル・セクターは総じて経済成長が加速し、利回りが上昇したときにアウトパフォームする傾向があり、他方でディフェンシブ・セクターは経済成長が減速し、利回りが低下した時にアウトパフォームする傾向があります。
バリュー株は2009年から2017年の期間はシクリカル・セクターをオーバーウェイトとしており、その後2017年から2020年の期間はシクリカル・セクターがアンダーウェイト、ディフェンシブ・セクターがオーバーウェイトの状態でした。
以下のグラフは、バリュー株がシクリカル・セクターをオーバーウェイトする期間とアンダーウェイトする期間を循環することによって、平均してグロース株と同じようなシクリカルの特性を持っていることを示しています。投資家は、バリュー株のシクリカル性を永続するものと想定すべきではなく、したがって債券利回りとの相関が高いと想定すべきではないのです。
足元ではシクリカル寄りの傾向がありますが、過去データはこの偏りが将来薄れることを示唆しています。

業績下げ止まりへの期待がバリュー株の反転と相関する
ある経済指標は、EPS(1株当たり利益)成長の底入れ局面で、市場ではグロース株が売られ、バリュー株が買われて株価が反転することを示唆しています。
例えば、バリュー株は過去に、EPS成長率が底入れした後に、12か月間で平均6%グロース株をアウトパフォームしました。以下のグラフで示す通りです。

2020年に記録的な下落幅を経験した後、バリュー株は足元で反発しています。
このパターンは、感覚的に理解できます。利益の伸びが十分でない局面では、投資家は高いPER(株価収益率)で急速に成長する企業に投資を続ける傾向があります。
しかしながら、利益の伸び率が相対的に大幅である場合(もしくは少なくとも事前予想を上回っている場合)、投資家は株価バリュエーションで銘柄を選別するため割安な銘柄が選好の対象に戻り、一方グロース株は売られて株価が調整する傾向があります。
ところが景気回復後については、割安企業が見直され、バリュー株ユニバース内にはとどまらず、バリュー株のリターンと利益の底入れ局面との相関は立ち消えになる可能性があります。
結局のところ、バリュー株指数もグロース株指数も各々を構成する銘柄が長期間にわたり固定しているわけではありません。グロース株が成長しきれば、株価バリュエーションは縮小し、グロース株ユニバース内にいられなくなります。
同様に、割安なバリュー企業を投資家が魅力的な投資機会と判断すると、株価バリュエーションが上昇し、バリュー株ユニバースを退場するのです。
これは、シクリカルのエクスポージャーが既に平準化された水準にあった環境において(前出のグラフをご参照ください)、バリュー株のアウトパフォーマンスが2010年と2017年に弱まった原因の1つである可能性があります。
バリュー株の反発は持続するかそれとも短期的なローテーションか?
グロース株が過去10年間にわたりアウトパフォームしたことの結果として、バリュー株に劣後すると予示される水準までグロース株の株価バリュエーションは拡大しました。
例えば、米国グロース株は足元で景気循環調整後のPER(株価収益率)(CAPE)が足元で52倍となっており、一方バリュー株のCAPEは21倍です。グロース株のPERは、2000年のドットコム・バブルが起こった時以来、最も割高な水準です。

5年前や10年前はグロース株のバリュエーションが割高な水準ではなく、その後10年間でアウトパフォームすることを示唆していました。2016年と2011年には、グロース株はバリュー株と比較すると非常に低いプレミアムの乗った株価水準で取引されていたのです。
足元のグロース株のバリュエーションは、今後の株価上昇を示唆していません。つまりバリュー株の反発が持続する可能性は以前より大きいということになります。
バリュー株にとって最悪期を脱した
債券利回りの急上昇と景気回復期待は、足元の市場でバリュー株が買われるローテーションが起こるきっけとなりました。しかしながら、それらの条件とバリュー株のリターンとの相関は必ずしも成り立つわけではないことを過去データが示しています。
長期間においてバリュー株インデックスとグロース株インデックスの構成銘柄の変更や入れ替わりは、金利との関係によっても異なります。
また、バリュー株とグロース株各々のシクリカル性の大きさだけでなく、マクロ経済環境における変化のスピードも株価リターンの重要な要因となる可能性があります。
ここから推測されることは、金利上昇と景気回復は、バリュー株の反発が長期間持続するための必須要件ではないということです。
議論の余地はあるかもしれませんが、将来のリターンを示唆する信頼度の高い指標は、投資家が支払う価格です。グロース株は足元で相対的に大幅なプレミアムが乗った水準で取引されているため、今後10年間は苦戦する状況が続く可能性があると言えるでしょう。
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