フリーランス画家、「銭湯図解」塩谷歩波さんが見つけた自分ペースの働き方と「お金」の話

マルチアセット

早稲田大学大学院修了後、設計事務所、銭湯の番頭兼イラストレーターを経て、画家として独立した塩谷 歩波(えんや ほなみ)さん。キャリアチェンジと試行錯誤の日々から、自分らしい人生の歩み方のヒントを探ります。(聞き手は、シュローダー・インベストメント・マネジメント社員、江森紗希)

自分のこだわりを曲げたくない

――大学院卒業後は、設計事務所へ。

はい。学生時代はデザインだけをやっていれば良かったけれど、働き始めると、想像していたよりも事務作業や交渉ごとが多くて、自分のやりたいことだけができるわけではありませんでした。何よりも、組織の中での振る舞いや、周りの方への気遣いが少し苦手で「私は会社に向いていないんだな」と思っていました。

――私は自分の「コミュ力」が高くないと思っています…知らない人や普段話さない人に話しかけるようなことはできなくて。塩谷さんはどうですか?

道端ですれ違った人に「よっ!」とかやるのは得意です笑。でも、会社で必要とされるコミュニケーションは違いましたね。個人の実力だけでなく組織との調和も重んじられるので、こだわりが強い自分は難しいところでしたね。

――自分のこだわりを曲げなくちゃいけないのが。

昔から苦手ですね。学生の頃にみんなが流行りの音楽で盛り上がっていても、「私は好きじゃないな」って。会社で飲み会に行こうというタイミングでも、「絶対に帰りたい」と思っていました笑。今は、それも大事なのかなと思えるのですが。とにかく「みんなで何かをしよう」が苦手で、一人でやるのが大好き。完全に個人競技派ですね。

絵を描くことは、時代を残すこと

――体調を崩されて休職中に、銭湯と出合い、「銭湯図解」を描いたのですよね。

はい。初めて銭湯を描いた絵は、写真に撮ってTwitterに上げた後に破り捨てちゃいました笑。今は建築図法の「アイソメトリック」を使って身を切るように一枚ずつ描いているので、出来上がったときは毎回感動します。でも、描き始めたばかりの頃は「私の絵なんか見てもらっていいんですか」と。自分に自信がなくて、描いた絵にも愛着が持てなかったです。

――いつ頃から変わりましたか。

本を出したり取材の機会をいただいたりして、「喜ばれている」「客観的に価値がある」と感じ始めてからですね。

――最近の絵は、生き生きと描かれた人物が印象的です。

人との関わりが増えて、以前よりも人に興味が出てきたからかも。描き続けることで、絵はアップデートされていきます。いろいろな題材を描くようになると、今までの描き方では通用しないから試行錯誤する。すると、また通用しないものが出てくる。気づいたら、どんどん描ける幅が広がっている感じです。

――「描きたい」と、心動かされる題材はありますか?

「消えゆくであろう建物」ですね。大学で学んだ考現学(現代に残るものを研究する学問)と繋がっています。時代の流れが速い現代では、良いものでも壊されてしまって新しいものに変わっていきます。絵を描くというのは、その時代の良いものを後世に伝えること。写真もその役割はあるけれど、私は「体験できるような精度」で描いて残したい。高円寺高架下の再開発前の様子を描いてTwitterに上げたとき、「残してくれてありがとう」というコメントをたくさんいただきました。日本はスクラップアンドビルドで文化が培われてきたので、失われる歴史も多い。喜んでもらえる以上の成果があるのかまだ分かりませんが、描いて残すことに価値があると信じています。

仕事が大好きだから、セーブする

――Twitterがきっかけだったんですね。ツイートする時に心がけていることはありますか?

とにかくバズらせたいという時期もあったんです。バズれば仕事に繋がるのが嬉しくて。でも、バズるツイートを追求するほど自分の言いたいことから離れているような気がして…大切なものが消費されているような気持ちになっていきました。それに気づいてからは、バズりを気にせずに自分が届けたいことを素直につぶやいています。

――仕事への取り組み方も変わりましたか?

そうですね。今は16時頃までしか描かないと決めて、「まだやれる」ところで止めています。絵を描くことが大好きだからこそ、セーブするという感じです。そのあと、散歩したり、友達と話したり、自炊したり。以前は頑張りすぎて、「10→6→4→2」と日ごとに体力が失速していく感じでしたが、今は毎日「6」をキープし続ける感覚で、私生活を大事にしながら続けられる働き方をしています。

――私生活を大事にすることで、仕事にも良い影響がありそうですね。

意外でしたが、私生活を大事にすればするほど、仕事も充実する。自分にとって良いバランスを見つけられたのだと思います。

――仕事をセーブすることへの葛藤も?

お金の面では、フリーランスだと入金のタイミングがバラバラなので、はじめのうちは「数ヶ月後がやばい」と思うと焦るし、不安で具合が悪くなることもありました。でも、今は節約もしているし、見通しを立てられるようになりましたね。

――節約はどのようにしていますか?

自炊が大きいですね。近くの八百屋で旬の野菜を選んで、肉屋で安いお肉を買って、「さあ、この食材で何を作ろう」って楽しんでいます。外食が高く感じられて、「家だったらこの値段だと5回作れるかな」って考えることも笑。

――分かります!ただ、私はつい同じ料理ばかり作ってしまうので、塩谷さんのように季節の野菜を中心に考えてみようと思います。塩谷さんのお金の使い道は?

仕事で使うものにはお金をかけています。特に画材は、絵の仕上がりが変わるので、できるだけ良いものを買うようにしています。あとは、スキルアップ。今は英会話教室に週2回通っています。

――海外の仕事をしたい気持ちが?

すごくあります。海外で個展をしたいし、絵の仕事も受けたいですね。先日、海外メディアから取材依頼があって全て英語で応対しました。実はそこまで上達していないのですが、取材前に「喋れます!」って言い切りました笑。貪欲さは昔から変わらないですね。

――ほかにもやってみたいことが?

絵画教室です。私自身、絵を描くことでチャンスに恵まれたというのもあるし、絵を見ることで心救われることもありました。今度は私が寄りどころになるような場を作って、今苦しんでいる人たちに何かの一歩となるような機会を作れたらと思います。

――学びを活かしながら、大好きな絵で、塩谷さんのペースを保ちつつ道を切り拓いているのですね。キャリアを築くために大切なことはなんだと思いますか?

自分にとって大事なものを明らかにしておくと良いかなと思います。それがぐちゃぐちゃになると、不安な気持ちが大きくなるし判断ができなくなる。私は友達に話を聞いてもらうことで自分の芯が見えてきて、朗らかに生きるための選択ができるようになりました。

――目の前のタスクに集中し過ぎるのではなく、友達や家族、自分を見つめる時間も大切にして、心の余裕を持ちながら自分の芯を見つけられると良いですね。

安定した不労所得がほしい!投資で実現できる?

――収入のバラツキや節約のお話がありましたが、フリーランスのみなさんとお金の話をしたりしますか?

「毎月いくらかでも不労所得があると良いよね」って話すことはあります。少しでもゆとりを持って仕事をしたりスキルアップしたりするために、月に5万円でも定期的に入ってくるお金があると嬉しいなって。

――月5万円…!年間60万円を投資で受け取るには、例えば年率5%の利回りだったとしても1,200万円の元手が必要です。まとまった金額を一度にポンっと出すのはなかなか難しいですよね。売買のタイミングを見極める難しさもありますし。

投資信託であれば、収益を再投資して得られる複利効果を活用しながら、10年後20年後といった将来に向けてお金の準備がしやすい、といったことが期待できます。また、プロに任せることによる安心感も期待できます。積立投資を利用すれば、毎月少しずつ積み立てていくこともできますよ。

なるほど。私は毎月の貯金額は決めずに支出の目安だけ決めていますが、細かく管理していないのでいつの間にか減っていることも。毎月、貯金に回すような感覚で積み立てるものだと、やりやすそうですね。フリーランスの友達とは、投資の話をしたことはなかったです。投資と聞くだけで、眠くなってしまうかも!?

――ハードルが高いと思われがちですよね。でも、投資信託の積み立ては、例えば100円といったワンコインからできます。無理のない範囲で始められると良いですね。お金のことをプロに任せている安心感から、より仕事に集中できるかもしれません。

不労所得がほしいというのは、漠然とした不安からくると思うので、将来のことを考えて自分の収入を見極めながら投資するのは良いかもしれないですね。ちゃんと考えてみます!

銭湯後の美味しいものは、番頭さんに聞くべし!

――今から銭湯を楽しみたい人へのアドバイスはありますか?

昔ながらの銭湯、最先端の銭湯、いろいろな銭湯に行って違いを楽しんでほしいですね。昔と違って家にお風呂がないから行く場所ということではなく、小さなエンターテイメントの場かもしれません。積極的に情報発信している銭湯は綺麗なところが多いので、初心者の方も行きやすいかも。仕事に熱中しすぎて、頭がスパークしているときに銭湯にふらっと行くと良いですよ。

――私も深夜まで働くような仕事をしていたときに、家族に銭湯に連れて行かれて。「仕事しなくちゃいけないのに!」って思いながら渋々サウナに入ったら、頭がスッカラカ〜ンになって、すごくリフレッシュできました笑。

息抜きにすごく良いですよね!カフェに行く感じに近いかもしれないです。女湯は、知り合いや友達とずっと喋りながら出たり入ったりしている人が多い!ご近所のうわさ話とか恋バナとか笑。入浴後は牛乳を飲んで…というお金のかからない楽しみですね。

――最近のおすすめ銭湯はありますか?

西荻窪の『天狗湯』。猫が2匹いて、たまに番台でゴローンと横になっています。ジェットバスもあるし、女湯には小部屋になっているスチームバスもありますよ。

――銭湯はどうやって見つけていますか?

銭湯好きの友達からの情報だったり、口コミだったり。調べずにふらっと行くことも。自分で発見したときは、テンションの高まりが違います。このタカラ湯さんも詳しく調べずに来たら、女湯にフィンランド式のサウナがあって「えっ、すごい!」って。記憶に残るし、人に教えたくなります。

――銭湯後に行くごはん屋さんは決まっていますか?

決めていないので「この辺りで一番美味しいところは?」って番頭さんに聞いて、初めてのお店に行ったりしています。ちなみにタカラ湯さんに来たら、小さいけれど愛情がこもっていて本当に素敵なお店の『コーヒーワークショップ・シャンティ』さんがおススメです!

塩谷 歩波(えんや ほなみ)さん

画家。設計事務所を休職中に銭湯に出合い、イラスト「銭湯図解」を発表。銭湯の番頭兼イラストレーターを経て、20216月に画家として独立。著書に『銭湯図解』『湯あがりみたいに、ホッとして』がある

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