パースペクティブ(約3分)

ヨハナ・カークランド:コロナ罹患を経て学んだこと

新型コロナウイルス感染拡大の影響で行動が制限される中、一世一代ともいえるパンデミックのような危機は、我々の生活様式も投資の方法も永久的に変化させてしまうことを再認識しました。

2021年11月12日
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著者

ヨハナ・カークランド
CIO/マルチアセット運用グローバル・ヘッド

英国では新型コロナウイルス感染拡大に伴う行動制限等の規制が緩和され、シュローダーのオフィスにも顧客の来社やカンファレンスの開催が徐々に可能になりつつあり、以前のような活気が戻りつつあります。

このように一見、正常化が進んでいるように見えますが、実際には大きな変化の中で生活をしているように感じられます。

一世一代ともいえるパンデミックのような危機は、我々の生活を根本的に変化させてしまいます。そしてその変化は、特に自宅での隔離を行っている際、従来当たり前であったことに対して疑問を投げかけています。

私自身、(ワクチンを二回接種したのにもかかわらず)新型コロナウイルスに罹患し、経験しました。

今後も続く政府の介入

隔離期間中、史実を背景に物語が繰り広げられるテレビドラマシリーズの「ダウントン・アビー」を全て鑑賞し直しました。メアリーとマシューのラブストーリーが展開する中、第一世界大戦時、多くの女性が、従来は男性の仕事とされていた労働市場に進出したことを再認識するきっかけとなりました。この動きは、女性の平等への不可逆的な最初のステップとなっています。

パンデミックは、テクノロジーや環境、政治の領域において既に存在していたトレンドを加速させたという意味において、その影響は同様に深刻なものであるといえます。

特に、医療崩壊危機への対応は、世界中で各国政府による介入主義的な姿勢を強くさせました。気候変動や所得格差などの課題を考慮すると、今後、従来の姿勢に戻ることができるのかは疑問が残ります。

所得格差に関していえば、中国政府が掲げる「共同富裕」が動因となり、今年の夏頃に規制に関する話題が数多く上りました。

中国の未成年のオンラインゲームの時間を制限する規制(個人的に12歳の息子がいる立場としては、支持します。)はともかく、特に当局の権限が強い中国において、規制強化を巡る一連の出来事は投資家にとって不透明感を強める要因となったことは明確です。

そして中国でみられる所得格差の是正への取り組みが、欧米でもみられていることには注視すべきでしょう。米連邦準備制度理事会(FRB)が掲げる「包括的な成長」は、所得格差の是正への対応を示す兆候といえます。

これらが市場にとって意味するのは?

足元ではサプライチェーンの崩壊が起こっていますが、それを超えて今後はよりインフレが上昇する環境へと向っていると考えます。「包括的な成長」への注力と低い労働参加率は、インフレ上昇圧力を生む可能性が高いといえます。また、中期的には、新しいテクノロジーを適応するに伴い、化石燃料から移行する必要性は、エネルギー価格の上昇をもたらします。

このインフレ・リスクとリターンのサステナビリティを同時に考慮しなければならない状況は新しいといえます。

シュローダーでは、環境破壊が進む環境下、過去数年間でデータや分析にたくさんの投資を行ってきました。

会計データだけでは十分とはいえず、特に、例えば炭素を巡る規制等が今後進んでいく場合、企業が環境や社会に及ぼす影響を幅広く査定する必要があります。そして、各資産クラス間の相関は、投資家がデフレ的な政治体制からインフレ的な政治体制へ調整していく場合、不安定になります。

運用における「アクティブ運用 vs. パッシブ運用」の議論に対して、利害関係もあることから、通常見解を述べることはありません。アクティブ運用が拍車をかけるイノベーションとパッシブ運用がもたらす価格の引き下げ圧力の双方から顧客は恩恵を受けると考えています。しかし、足元での難しい環境下では、アクティブにフォワード・ルッキングのアプローチをとることが必要となります。

構造的なテーマを特定し、自らの価格決定力を維持することが可能な企業を特定することは、リターンを守ることにつながります。

環境、社会、コーポレート・ガバナンス(ESG)の考慮に重点を置くことによって、場合によってはボックス項目にチェックをつけるだけであったり、グリーン銘柄で有名な銘柄だけに投資するような怠慢な投資姿勢を促してしまうリスクがあります。本当に必要なのは、正当に株価に織り込まれていない企業の投資機会に注視し、実際に企業が実行するように企業と連携を取ることであると考えます。

イージーマネー(楽に手に入るお金)はすでに獲得されている

債券の領域では、インフレ・リスクに対して、政府が利回りを抑制するために行う、政府による市場介入の影響を考慮する必要があります。低金利やインフレ圧力が高まっているという理由で債券を切り捨てることは得策とはいえません。債券に求められることは、各資産のバリュエーションが割高となる中でのポートフォリオの分散効果や実質金利がマイナスである世界での安定的な利回りです。

「経済再開トレード」によるイージーマネーはすでに獲得されています。12ヵ月後、我々は流動性縮小や企業業績モメンタムの減速などに直面する可能性があるため、市場はより複雑になると考えます。

我々が想定するシナリオの年初からの主な変化は、ベースシナリオを取り巻くリスクの査定の結果であり、足元での見通しはリフレーションよりもスタグフレーションに傾いています。

硬直的なインフレや経済成長モメンタムの減速については、マルチアセットのポートフォリオに反映されており、足元では景気循環に感応度の高いポジションを削減しています。リターンの生成という観点では、株式は最も大きい投資機会を提供すると考えますが、価格決定力を維持することができる企業を特定することに注視する必要があります。コモディティについては、引き続き分散効果をもたらすと考えます。

投資継続が推奨されますが、今後決して平坦ではない道のりに対して準備する必要がありそうです。

 

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ヨハナ・カークランド
CIO/マルチアセット運用グローバル・ヘッド

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