インフォーカス(約6分)

2024年市場の見通し(債券)

約3年間継続した債券の弱気市場により痛手を負った債券投資家が投資を手控え、様子見姿勢を取るのは仕方ないことかもしれません。 しかしながら、その姿勢を転換すべきタイミングが来ていると考えます。

2023年12月1日
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著者

ジュリアン・ホゥダン
グローバル・アンコンストレインド債券チーム・ヘッド
リサ・ホーンビー
米国マルチセクター債券チーム・ヘッド
アブダラ・ゲゾール
エマージング債券・コモディティ運用統括責任者

債券投資家ほど、ここ3年の経済レジーム・シフトを痛感した投資家はいないでしょう。

米国債は、1787年に米国が合衆国憲法を制定して以来の最悪の損失を記録しました。

しかし、このような状況は新たな機会をもたらしています。

インフレ率が過去10年間よりも上昇しているにもかかわらず、質の高い債券の利回りは、実質・名目ともに過去15年で最高水準にあります。債券は過去比で魅力的水準にあるだけでなく、他の資産クラス、特に株式対比でも魅力度が増していると考えます。

さらに、経済成長とインフレが減速し、多くの先進国の中央銀行が利上げサイクルの終了を迎えた、もしくは近づいているタイミングは、歴史的にみて債券への投資が最も利益を生んできた時期でもあります。

3年間にわたった前例のない債券市場の下落は、主に3つの要因によるとみられます。 第一に、利上げ開始時点での利回りが低水準であったため、キャピタル・ロスを相殺するためのインカム・ゲインが不足していたことです。 第二に、主要中央銀行が記録的なペースで利上げを実施したことです。そして最後の要因は、パンデミックの影響により、過去40年で最高のインフレ率を記録したことです。

シュローダーが「「D」が導く新時代」と呼ぶ、人口動態(Demographics)、脱グローバル化(Deglobalisation)、脱炭素化(Decarbonisation)の3つのDに関連する世界的なトレンドが投資環境を変化させる中で、さまざまな課題が依然存在していることは間違いありません。 米国を始めとする先進国の財政は依然として問題を抱えており、高インフレは長期化し、地政学的な緊張は不確実性さらに高めています。

しかし、約3年間続いてきた債券の弱気相場はようやく過去のものになったとみています。市場は新たな段階に入り、この先にある投資機会に焦点を移すべきだと考えます。

バリュエーションについては、絶対的な観点でも他の資産クラスとの相対的な観点でも、債券は過去10年間で最も割安であり、魅力度は過去20年間の中で上位4分の1に入ることが示されています。

このようなデータは、大規模な強気相場が今すぐに始まることを意味するとは必ずしもいえませんが、比較的高い利回り水準は、さらなる利回り上昇が起きた場合であっても、価格下落によるマイナスを相殺する分厚いクッションとしての役割を果たしてくれるでしょう。

グローバル債券: 3つの「D」が財政赤字・債務増加・デフォルトをもたらす

ジュリアン・ホゥダン:

インフレの根強さを背景に、市場は「より高く、より長い(higher-for-longer)」金融引き締めのシナリオを受け入れてきました。

しかし、各国の政策金利がピークに達する中、何が2024年の市場を牽引するのでしょうか?

私たちは、脱炭素化(Decarbonisation)、脱グローバル化(Deglobalisation)、人口動態(Demographics)の3つのDは、債券投資に大きな影響を与える新たなの3つのD、すなわち財政赤字(Deficit)・債務増加(Debt)・デフォルト(Default)につながる可能性が高いと考えています。

新たな3つのDは債券市場にとって好ましいとは言えませんが、今後、債券市場における魅力的な投資機会を生み出すとみています。

「赤字については心配していません。 放っておけば何とかなるのに十分な大きさです。」

このように発言したロナルド・レーガン米大統領(1981年1月~1989年1月在任)と違い、グローバル・アンコンストレインド債券チームは債券投資家として、政府の財政赤字の規模が現在の景気サイクルのステージにしては大きいとみて懸念しています。そして市場もこの点に注目し始めています。

財政赤字がパンデミック以前のどの時代にも見られなかったほど膨らんでいる米国にとっては特に大きな意味を持つ問題と言えます。

心配なのは、財政赤字がすぐに抑制される兆しがほとんどないことです。 パンデミックの支援策はほぼ終了していますが、インフレ抑制法(脱炭素化のための資金援助)を含む長期的な「グリーン」補助金に、財政支出のバトンが引き継がれています。

一方で、国益の保護(より広範な脱グローバル化傾向の一部)を動機とする米国内での半導体生産を支援するCHIPS法に基づき行われるリショアリング(海外に移管・委託した業務の拠点を国内に戻すこと)や、高齢化社会支援の必要性が、財政赤字拡大をさらに助長しています。 問題なのは、この規模の債務を調達するために要求されるコストは上昇するとみられることです。

資金調達コスト上昇で膨らむ米国政府債務

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これらのことは、債券利回りの構造的な上昇の可能性と同時に、地域によって財政動向が異なるため、市場間の乖離が大きくなることを示唆しています。 よって、国・地域別に興味深い投資機会をもたらすでしょう。 たとえば、ユーロ圏は 米国とは異なり、財政健全化に向けた動きがみられています。

「債権者の方が債務者よりも記憶力がいい」

財政運営は、2つ目の「D」、すなわち債務動向に本質的に関連しています。 資金調達コストが高くなる新時代への移行は、悪循環を長期化させ、今後数年間で債務残高が増加する可能性が高いとみられます。

価格に敏感でない買い手である中央銀行が長期にわたって国債に対する需要の大部分を占めてきましたが、現在は量的引き締めに転換しています。よって、今後は長期間債券を保有するリスクに対してより大きな対価(より高い「タームプレミアム」)を要求する、価格に敏感な買い手への依存度が高まることになると考えられます。

その結果、イールドカーブのスティープ化、すなわち長期債と短期債の利回り格差が拡大するとみています。複数の国においてイールドカーブのスティープ化が予想されます。

また、高水準の利回りは、債券価格の下落に対するクッションの役割を果たすだけでなく、インカムを創出する他の資産クラス(株式を含む)対比での債券の相対的な魅力度を数年ぶりの水準まで向上させています。

大きな「D」:デフォルト

デフォルトは債券投資家にとって最も回避したいリスクです。 景気に敏感な資産にとってはマクロ経済環境が重要となります。 現時点では、経済の「ソフト・ランディング」の可能性が高いとみていますが、金融引き締めの影響を受けて、「ハード・ランディング」の可能性を示す警戒すべき兆候にも注意を払う必要があると考えます。

各国の中央銀行による利上げはほぼ終了の段階に近づき、2024年に利下げサイクルが開始すれば、債券にとって相当な追い風になるでしょう。 企業のデフォルト率は上昇が見込まれますが、バランスシートは比較的堅固であるため、大幅に跳ね上がることはないと予想しています。

なお、資金調達コスト上昇環境への移行は、国や地域によって異なるでしょう。 米国では資本市場での資金調達が選好される一方で、欧州では銀行融資がより普及していることから、高金利の影響がより早く感じられると想定されます。

また、地域・国別のみならず、企業間でも乖離が発生すると予想しています。これは、投資家が負債の多い企業への投資に対して、リスクの対価としてより高いリターンを要求するようになると見込まれることが理由となります。よって、債券の銘柄選択から収益を得る機会も高まると考えます。

一部の景気敏感セクターが提供する高いインカムは、価格下落に対するクッションとなると言えるものの、急激な景気減速のリスクが存在していることを考慮すると、保守的な姿勢が望ましいと考えます。ハイイールド債券対比で投資適格債券を選好するほか、カバードボンド、政府関連債および証券化商品は、高品質かつ低ベータながら利回りの上乗せが期待できるとみています。

米国:債券にインカムを取り戻す

リサ・ホーンビー:

米国経済は、数々の逆風にもかかわらず、過去1年半の間驚異的な底堅さを示してきました。 そして、市場は非常に急速な利上げサイクルに直面したほか、地方銀行の危機、エネルギーコストの高騰、継続的なドル高、地政学的不確実性にも対処してきました。

この経済の強さの背景には、主に二つの要因があると考えます。 一つは、パンデミックの間に蓄積された消費者の過剰貯蓄が消費を支えたことです。過剰貯蓄は、ピーク時の2兆ドルから急速に減少しました。 そして二つ目は、2022年の連邦政府の投資プログラム、CHIPS法(約2,800億ドル)とインフレ抑制法(7,810億ドル)の実施です。

過去1年半に生じたこのような追い風を今後数四半期にも期待することは難しいでしょう。 さらに、金融政策の効果は「長期的かつ振れの大きな遅れ」をもって波及していくと、米連邦準備制度理事会(FRB)が認識しているように、利上げの影響はまだ十分に実体経済に行きわたっていないと考えられます。2022年初からの利上げ幅は5%を超え、債券利回りは3倍超の水準まで上昇しました。 多額の債務を抱える経済において、意図しない結果は生じないと想定するのは楽観的ではないでしょうか。

既に金利上昇の影響の一部が見え始めています。 企業の資金調達コストは、政策金利の引き上げを受けて上昇を続けています。 また、これまで景気をけん引し、力強さをみせていた消費者に対しても影響が見え始めました。 パンデミックで積み上げられた貯蓄はほとんど底をつき、貯蓄率は1960年以来最低水準である4%を割り込んでおり、消費者の債務依存が高まっています。 クレジットカードの残高は、最近、過去最高の1兆ドルを超え、延滞率は低水準ながらも上昇傾向となっています。 労働市場は引き続き堅調ですが、減速の兆しがみられます。 2024年は、投資家の懸念は、金利上昇からファンダメンタルズや信用リスクの悪化に移っていくと考えられます。

よって、米国債券市場では、より選別的かつ機動的なアプローチでセクター配分を行うことが望ましいと考えます。

図: 記録的な低リターンの後、債券は魅力的な投資機会を提供

市場見通し2024

米国マルチセクター債券チームでは引き続き、国債やエージェンシー・モーゲージ債(MBS)、短中期の投資適格社債など、質および流動性が高いセクターに焦点を当てています。

今後に関しては、金利上昇が経済減速につながり、企業収益に重くのしかかる局面で、 市場の混乱が生じる可能性があると考えます。市場の混乱に伴い、流動性の高いセクターからリスクの高いセクターへとシフトする投資機会が提供されるとみています。


エマージング債券・通貨およびコモディティ:資本流出の終焉?

アブダラ・ゲゾール:

2022年のエマージング債券からの投資家の資本流出は、2023年も継続しました。 記録的な資本流出と低水準の新規発行により、グローバル投資家のポートフォリオに占めるエマージング債券の比率は著しく低下しています。

このような困難な資金動向の環境にもかかわらず、エマージング債券および通貨は、良好なパフォーマンスを上げ始めています。 世界的な金融流動性の引き締め、米国発の債券のボラティリティ上昇、米ドル高、期待外れの中国の経済回復、直近の地政学的混乱等、多くの課題をエマージング債券の各セクターは上手く乗り切ってきました。

2023年は、米ドル建て投資適格エマージング債券のスプレッドは前年末比でほぼ変わらずの状況となっていますが、米ドル建てハイイールドエマージング債券と現地通貨建てエマージング債券のリターンはプラスとなっています。 2024年はこのパフォーマンス回復の勢いが増すと予想しています。 多くの米ドル建ておよび現地通貨建てエマージング債券が魅力的な水準の利回りを提供しているのみならず、規律ある金融政策の枠組みによってエマージング国のインフレが抑制されてきているほか、経常収支の改善や短期的な外国資本への依存度低下も支援材料となると考えます。 こうしたマクロ・ファンダメンタルズの改善を受けて、エマージング経済が先進国経済を成長面で上回る可能性が高いと見込まれます。

先進国に先んじて進められた積極的な利上げにより、実質政策金利は平均で7%にまで達し、一部エマージング国の中央銀行は金融緩和が可能な環境を取り戻しつつあります。 ただし、金融引き締め姿勢を維持するとみられるFRBとの乖離が大きくなるリスクがあることから、多くのエマージング国の利下げは緩やかなものになると予想されます。

図: エマージング国のインフレは抑制されており、主要エマージング中銀は金融緩和が可能な環境に



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こうした主要エマージング中銀による慎重な金融緩和は、信頼性の強化につながるほか、貿易収支の改善によって支えられているエマージング通貨の安定の維持にも寄与し、現地通貨建てエマージング債券市場への資本回帰につながる可能性が高いでしょう。

ブラジル、メキシコ、コロンビア、南アフリカ、インドネシア等主要エマージング国の長期債利回りは魅力的な水準にあり、2024年には良好なリターンが期待されます。

また、米ドル建てエマージング債券も、特に高利回りのソブリン債が魅力的だと考えます。 スプレッドは歴史的に高い水準で推移していますが、このサブセクターに対しては慎重かつ選別的なアプローチが重要です。 ナイジェリアは改革のモメンタムが力強く、償還スケジュールも緩やかで、経常収支が黒字でありながら、二桁の利回りを提供しています。 米ドル建て投資適格エマージング債券指数のスプレッドは、歴史的にみて非常にタイトな水準にありますが、AA格およびA格の高格付け湾岸諸国が指数のおよそ20%を構成しているという点は重要です。

これまでの説明の通り、エマージング債券への投資により魅力的なリターン獲得が期待されると考えますが、長期に及んだ米ドルの上昇トレンドの終了が確認できれば、エマージング債券にとってさらなる強い支援材料となるでしょう。米ドルは極めて過大評価されているとみており、持続不可能な水準の米国の双子の赤字は、米ドルに対する大きな逆風となり始めています。

エマージング債券・コモディティチームは、パンデミック後のコモディティの長期的な強気サイクルはまだ継続しており、複数のエマージング債券・通貨にとって追い風になる可能性があると考えています。

コモディティ市場は力強い上昇の後、投資家が世界的な需要見通しに対して慎重な姿勢を強めたことから、2022年の高値から調整が入りました。

しかしながら、今後を見通す上で、さらなるインフレの波やますます深まる地政学的な紛争のリスクが増加する新時代に突入している、ということを理解することが重要です。底堅い需要と、供給における制約を背景に、エネルギー転換の投資ブームに関連するコモディティを中心に、長期的な価格上昇が見込まれます。 よって、投資家ポートフォリオの戦略的ヘッジとして、コモディティへの積極的な資産配分が有効だと考えます。

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著者

ジュリアン・ホゥダン
グローバル・アンコンストレインド債券チーム・ヘッド
リサ・ホーンビー
米国マルチセクター債券チーム・ヘッド
アブダラ・ゲゾール
エマージング債券・コモディティ運用統括責任者

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