インフォーカス(約6分)

2024年市場の見通し(プライベート・アセット)

プライベートアセットは、激しく変動するグローバルなテーマにけん引され、新たな時代を迎えようとしています。その恩恵を受けるのに最適なプライベートアセットを紹介します。

2023年12月1日
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著者

ニルス・ロード
シュローダー・キャピタル CIO

プライベート市場の流動性は、過去18ヶ月間で劇的に変化しています。地政学的・経済的混乱によって、投資家が多くの戦略的調整を必要としなかった長い局面は終わりました。これまでは金利とインフレ率は低く、流動性も豊富で、バリューチェーンはグローバル化の結果、バリューチェーンは長くなっていました。

しかし、こうした状況は変わり始めています。 長い間成功を収めてきた投資戦略は、新たな逆風に直面するかもしれません。

短期的には、プライベートアセットファンドの資金調達は、特に堅調だった2021年から大幅に減速しています。 借入コストが上昇しているため、投資先に流動性を提供できるファンドマネージャーに有利な環境になっています。

私たちは今、「D」というキーワードに導かれて、新しい時代に転換していると考えています。

「D」とは、市場構造の変化の要因で、 脱炭素化(decarbonisation)・人口動態(demographics)・脱グローバル化(deglobalisation)の3つの「D」が投資環境の形をどのように変えつつあるかを示しています。 これら3つのテーマに、技術の進歩、特に人工知能(AI)革命を加えることができます。 AI革命は、今のところベンチャーキャピタルによって推進されており、将来的に私たちの生活を完全に変えるものになるでしょう。

もっと読む: 脱炭素化・脱グローバル化・人口動態が投資環境をどのように再構築するか

ここでは、これらの各テーマごとに長期的なプライベート・アセットへの影響と投資家がこれらのテーマをどのように成長投資機会の獲得に活用することができるかを解説します。 また、短期的な見通しと、より戦術的なアロケーションにどのような影響を与えるかについても見ていきます。

プライベートアセットの新たな時代を形成する4つのテーマ

1.脱炭素化(Decarbonisation)

脱炭素化のスピードは場所によって異なるはずです。 脱炭素化は、今後数十年にわたり、深遠で豊かな投資機会をもたらすとシュローダーは予想しています。

脱炭素化の最も目に見える兆候の一つは、現内燃エンジン車から電気自動車への転換です。 実、脱炭素化は、明かりをつけた瞬間から周辺の建物の機能まで、私たちの周りで様々な形で日常生活に影響を与えます。 それは、エネルギーがどのように生産され、使用され、保存されるかに帰結します。

エネルギーとその生産は完全に変化しつつあります。 今後何十年にもわたって投資する価値があります。

再生可能エネルギーへの移行は、新たな風力や太陽光発電によって再生可能せねるぎーを生み出すことだけではありません。 「グリッド網の混雑」のような問題を回避するために、エネルギー供給に必要なインフラへの多額の投資も必要です。 オフィス、店舗、家庭暖房、冷房、照明にエネルギーをより効率的に使用するために、建物の改革も必要となります。

脱炭素化の推進はまた、私たちモノの生産・消費方法を根本的に変えることを意味します。つまり、「取って、使って、捨てる」という直線的なモデルから「リサイクル」という循環的な経済モデルへの転換を迫られるのです。 自然資本の価値と、気候変動とそれに伴うコストを阻止する役割もまた、新たな機会をもたらすでしょう。

脱炭素化の恩恵を受ける資産クラスに注目する

インフラストラクチャー投資は、株式とデットの両方で、脱炭素化というテーマに最も直接的な役割を果たします。 これらの投資は、現在の厳しい投資環境にとっても特に重要です。

再生可能エネルギー資産(風力発電、太陽光発電、水力発電、バイオ燃料、バイオマス、地熱)への投資は、契約に基づく確実な収入とインフレ連動のキャッシュフローによって裏付けられています。これらの資産は一般的に規制されているか、電力購入契約(PPA)契約下にあるため、マクロ経済的なショックに対する耐性が高いのが特徴です。

また、水素、ヒートポンプ、バッテリー、電気自動車充電などの隣接技術にも投資機会があると見ています。それらは、輸送、熱、重工業などの産業の脱炭素化を実現するうえで重要な役割を果たします。

さらに、デジタル化やその他の必要不可欠なインフラに関連する他のインフラストラクチャー分野にも、魅力的な投資機会があると考えています。 こうした分野での投資は、インフレに連動した安定的なリターンを生む可能性という点で同様の投資機会を提供します。

不動産では、持続可能性と影響への配慮から、進化する規制やテナント要件の変化に対応するために資本支出も増加する必要があります。 テナントや所有者が独自の炭素削減目標を掲げているため、持続可能なビルに対する需要が高まり、資本ニーズが高まります。 従来は、銀行が不動産融資に果たしてきた役割を考えると、銀行がより高い資本要件を満たさなければならないのと同時に、資本ニーズが高まることは、プライベート市場が持続可能な資金調達手段を提供する絶好の機会を意味します。

2.人口動態(Demographics)

人口動態の変化と投資機会への予想される影響は、地域によって大きく異なります。

インドを筆頭に、人口が増加している一部の新興国では、今後20年間で若年層の人口が力強い経済成長に貢献するでしょう。 インドは世界で最も人口の多い国で、14億人以上の人口を抱え、その年齢の中央値は29歳です。 良好な人口動態と急成長する中所得者層により、今後10年以上、国内消費と成長は後押しされるでしょう。

この若さは、他のほとんどの先進国の人口動態、すなわち高齢化と全く対照的です。多くの先進国では出生率が低下し、平均寿命が伸び、中高齢者に偏った年齢分布になっています。 その結果、労働人口は減少し、経済生産の低下を引き起こす可能性があります。 とはいえ、人工知能(AI)によって、近い将来、生産性が大きく向上することが予想されており、こういった人口動態の変化からの影響は軽減されるかもしれません。

人口動態の変化に恩恵を受ける資産クラスに注目する

不動産:急速に変化する人口動態に対応するためには、ライフステージに応じた、多様な居住形態に対応することが必要となります。

高齢化が進展している先進国市場の場合、必要なアメニティや設備を提供するケアハウスのニーズが高まっています。

ライフサイクルの初期段階では、学生向け住宅、寮に引き続き需要がある地域もあります。 また、手頃な価格帯の賃貸住宅や中級市場向けの賃貸住宅は、特に欧州で広く供給不足が続いています。

こうした住宅部門では、インフレの影響を緩和する契約に基づくキャッシュフローを享受できるため、持続可能な中長期的な収益と価値を生み出す運用スキルを活用することが可能です。

人口の平均年齢が上昇している国では、医療負担の増加も予想されます。 その結果、プライベートアセット全体でヘルスケア関連の投資機会が創出されます。

3.脱グローバル化(Deglobalisation)

新型コロナのパンデミックと最近の地政学的緊張の高まりは、サプライチェーンの弾力性と安全性の課題を浮き彫りにしました。 半導体セクターを中心に、サプライチェーンを自国に近づける「ニアショアリング」の取り組みを推進している産業もあります。 世界がますます「多極化」していく中で、この傾向は続くと考えられます。

GDPから世界の経済規模を見ると、これまで50年以上にわたって米国が圧倒的な強さを誇ってきました、そこに、中国が追いかけてきています。 インドもこれに続いて、もう一つの経済大国になることが予想されます。インドはすでに世界第5位の経済大国に成長しており、2030年には世界第3位の経済大国になると予想されています。

脱グローバル化の恩恵を受ける資産クラスに注目する

インドのプライベート・エクイティ: インドのプライベート・エクイティ市場は、現地のファンド・マネージャーのエコシステムが拡大し、急速に成熟しつつあります。 インドでは、消費財、金融サービス、ITなどの業界で、スタートアップ企業が産業を再構築する変革の最前線で活躍しています。 非テクノロジー企業もeコマースの普及や中所得者層の増加、中国からのビジネスの分散の恩恵を得ることが予想されます。

インドでは、評価額10億ドル以上の未上場新興企業であるユニコーンが100社以上誕生しています。ユニコーンの誕生に関しては、インドは米国と中国に次ぐ世界第3位の国になっています。 そうしたユニコーンの出現に重要な役割を果たしたのが、インド国内のデジタル革命です。 ユニコーンは、消費財・小売業(39%)、金融サービス(22%)、工業(16%)、エンタープライズ・テクノロジー(12%)、メディアおよびエンターテイメント(9%)、医療・ライフサイエンス(3%)と幅広いセクターに存在しておりますが、このことがインドにおけるプライベート・エクイティへの投資機会の拡がりを物語っています。

不動産デット: リショアリング、ニアショアリングが行われるにつれ、新たな工場や施設の建設に特化した財政支出があります。 米国のCHIPS法がその一例です。 同法の成立により、工業用不動産などの施設のニーズが生まれました。 特に商業用不動産向へのデットファイナンスによる資金調達は容易でなくなっている今、この分野はファンダメンタル面で強力にサポートされています。 さらに、脱グローバル化はインフレを引き起こす可能性があるため、不動産資産がインフレから保護されることに加え、変動金利債務に関連する高いローン金利は魅力的です。

4.テクノロジー

人工知能(AI)は概念的なものから実用的なものに移行し、医療における診断から不正防止やデータ分析まで、多くの価値ある方法で活用されています。 私たちは今、第五次産業革命の入口に立っていると考えています。 しかし、この第五次産業革命は、機械の使い方や技術進歩のスピードにおいて、それ以前の革命とは異なっています。

これまでの4つの産業革命は、機械は人間の「肉体労働」を助けることのが特徴だったのに対し、AI主導の第五の波は、機械が人間の「認知的」労働を助けることができるようになった、初めての革命です。

また、これまでの産業革命は大きなインパクトを生み出すまでに数十年を要したのに対し、AI企業は数ヶ月でそのインパクトを実証しています。 たとえば、Uberの利用者が1億人に達するには5年かかりましたが、ChatGPTが同じ規模に到達したのはわずか2ヶ月でした。 このペースでイノベーションが進めば、AIは2040年から50年までには人間の知能を超える「技術的特異点」に達し、スマートフォンは地球上のすべての人間を合わせたものと同程度の認知処理能力を持つようになるとの見方もあります。

テクノロジーに恩恵を受ける資産クラスに注目する

現在のAIブームを牽引する新しいフロンティア技術は、「生成AI」です。 OpenAIやCohereのような企業が基盤技術を生み出していますが、より多くのスタートアップ企業や大企業も、その基盤技術をベースにイノベーションを起こしています。

AIは当初、ベンチャーキャピタルグロースキャピタルのトピックでしたが、プライベート・エクイティの分野でも、今後はAIを応用してビジネスモデルの変革や強化を目指す成熟企業やバイアウト投資のトピックになりそうです。

生成AIは、既存のテクノロジーやソフトウェアを「よりスマートに」し、あらゆる産業に影響を与える恒久的なトレンドを生み出すと考えています。 当社では、AIの影響が不動産インフラストラクチャー市場にも二次的な影響を与えるものと予想しています。

たとえば、シリコンバレーのようなテックハブでAIに特化したスタートアップ・ブームが起きれば、トロントやパリなど新しいテクノロジーハブになる可能性のある他の場所で、オフィススペース需要を生まれるかもしれません。 それと同時に、時間の経過とともに、他の場所ではオフィススペースの需要を減少するかもしれません。

また、膨大なデータ処理要件はデータセンター需要を再び活性化させ、この分野での追い風を生み出しています。 さらに、AIが必要とする膨大な計算量は、相当なエネルギー資源を必要とするため、インフラ投資、特に再生可能エネルギーへの投資の好機と考えられます。

プライベート市場の原則

長期的なトレンドがプライベート・マーケットに追い風をもたらしているにもかかわらず、現在、プライベート・マーケットは資金調達、投資活動、そして戦略によってはバリュエーションの面で減速が見られます。この減速は、すべてのプライベート・アセットの資産クラスで一様というわけではなく、他の分野よりも大幅な調整が見られる分野もあります。 こうした状況は、2020年と2021年のパンデミック期におけるプライベートアセット市場の好調期の後に生じたもので、大部分はパンデミック前の水準に戻っています。 しかし、現在のような高金利の状態が続いているため、一部のプライベート市場は行き過ぎて調整しており、ここに新たな投資機会が生じています。

こうした長期的なトレンドと短期的な課題を考慮し、シュローダーでは以下の3点を推奨しています。

長期的なトレンドに注目

長期的視野に立った投資は、脱炭素化、脱グローバル化、人口動態の変化、AI革命という長期的なトレンドを前提として行うべきです。 これらのトレンドは、有望なプライベートアセット投資の追い風となるでしょう。

分散投資

世界がパンデミック後の減速を乗り越え、新しい時代に移行していく中、プライベートアセットによるポートフォリオの分散は特に重要になります。保険リンク証券やマイクロファイナンスなど、相関性の低い資産を加えることで、より安定した運用が可能になります。 住宅、建物、保険、設備などの資産を担保とするファイナンスは、地域やファンダメンタルな要因を超えた分散化をもたらします。 一方、インフラ・デットは、良好なインフレ対策手段として、リターンの安定性と資産価値の保全を提供します。

過去の戦略を再考

投資家は、過去にうまくいったことを自動的に続けるべきではありません。 それよりも、戦略や投資がこれから到来する新時代に適しているかどうかを評価すべきです。

つまり、今は未来を見据え、思慮深くあるべきです。3つの「D」、AI革命、プライベート市場の減速、そして世界各地での金利上昇は、プライベートアセットの新時代を象徴しています。 長期的なトレンドに注目し、ポートフォリオを多様化し、過去の戦略を見直すことで、投資家はこの新時代をうまく乗り切ることができるのです。



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