深堀り!ESG

ESGに関するギモンに、日本株式ファンドマネジャーの豊田一弘がお答えします。

なぜ、今、資産運用の世界でESGが注目されてきているのでしょうか?

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将来の勝ち組企業を探すとき、ESGが欠かせない尺度であるからだと考えています。投資先を決めるために企業を評価する材料としては、利益率やキャッシュフロー、バランスシートなど、企業業績を示す財務情報が真っ先に思いつくでしょう。確かに財務分析は重要ですが、過去の実績から予測できるのはせいぜい数年先くらいで、長期投資を行うために10年、20年先の企業の姿を見通すには限界があります。そこで、将来の企業の成長性をはかる尺度として使われるようになってきたのが、「ESG」です。

今、社会や環境はかつてない速さで変化し、気候変動や人口動態の変化、技術革新などが、世界のあり方そのものを変えるような時代にあります。企業が成長を続けるためには、本業で実績を積み上げていくだけでなく、企業を取り巻く環境の変化に対応し、直面する課題を解決していく必要があります。その課題が集約されているのが「ESG」です。今、ESGを考慮せずに、企業の長期的な成長を語ることは難しいといえます。例えば、現在キャッシュフローを生んでいる資産であっても、長期的な需要の減退により、将来は座礁資産となり利益を生み出さなくなる可能性があります。企業がESGの課題にどう向き合っているのかを評価することによって、将来の勝ち組企業を見極めることができる、と考えています。

企業がESGの課題に取り組むことは本当に利益につながりますか?

ESGの課題解決を、企業をとりまく関係者との関係構築、と考えるとスッキリするのではないでしょうか。企業には、株主以外にも、顧客や従業員、地域社会など、多くの「関係者(ステークホルダー)」がいます。今、企業が成長を続けるには、これらのステークホルダーと良好な関係を築くことが不可欠となっています。

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ESGには、ステークホルダーとの間で企業が直面する課題が集約されています。例えば、日本では、労働力不足によって優秀な人材の獲得が企業にとって重要な課題となっています。競争力の高いビジネスモデルや商品を有する企業でも、労働環境が悪く離職率が高いと、優秀な人材の確保が難しくなり、生産性を高めて中長期的に成長を続けることが難しくなると予想されます。これはS(社会)の観点です。また、不祥事によって、築き上げてきた評判を一瞬にして落としてしまった企業の例は最近でも見られますが、それらはG(ガバナンス)に問題があったといえます。最近はプラスチックストロー廃止の動きがありますが、この例はE(環境)ですね。環境への配慮が薄いと、評判を落としたり不買運動に発展したりするなどのリスクがあります。

ESGに関して企業は具体的にどんな取り組みをしているのでしょうか?

面白い「S」の取り組み例では、「ピアボーナス」という仕組みを取り入れている企業があります。従業員に、それぞれ、例えば月間3,000円などの予算が与えられ、「いい仕事」をしたと思う社員に、自分の予算からボーナスを与えるのです。お互いに評価し合うことによって、これまで見えていなかった人の仕事ぶりが「見える化」され、陽が当たらなかった人に陽が当たるなどの効果も出てきます。これが従業員のやる気を高める、というわけです。

企業が新しい取り組みをするとコストがかかります。追加コストは企業にとってマイナスではないでしょうか?

一時的にはそのとおりです。しかし、5年後、社員のやる気を高める取り組みによって優秀な人材を囲い込めた企業と、何もせずに優秀な人材を失ってしまった企業とでは、どちらの企業価値が高いでしょうか?また、低コストでできる取り組みに知恵を絞ることだってできるでしょう。中長期で企業価値を高めるために、重要なのはバランスです。

パイの奪い合いのように、特定のステークホルダーに大きく配慮したことによって他のステークホルダーにしわ寄せがいく場合、その成長は持続的ではないのです。利益ばかりを追求し、従業員への配慮がないブラック企業や、仕入れ先に不当な安値を要求する企業はその一例といえるでしょう。バランスよくステークホルダーに配慮し、上手にウィンウィンの関係を築くことで、中長期的にパイのサイズを大きくできる、つまり、企業が成長できると考えられます。

ESG投資は「エコファンド」と同じようなものですか?

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ESG投資には、いくつかの視点や目標があります。「エコファンド」や「SRIファンド」にあるような「社会や環境にやさしい企業への投資」も一つのタイプと言えます。

しかし、昨今のESG投資の主流は少し異なってきていると考えています。世界的な投資家が重視するESG投資、そして、シュローダーが注力するESG投資では、社会的利益や倫理的な価値観を優先するのではなく、求めるのはあくまでも中長期的な投資収益です。

同じように最近よく取り上げられているSDGsは、企業の経営者の視点からESGに対する取り組みを経営に落とし込んでいく取り組み、プロセスであり、投資家としては、SDGsの視点も含めて、企業の経営、中長期的な戦略などを評価していく必要があります。

シュローダーのESG投資の特長は?

シュローダーが注力するESG投資では、社会的利益や倫理的な価値観を優先するのではなく、求めるのはあくまでも中長期的な投資収益です。企業価値を最大化するために、企業が、企業をとりまくステークホルダー(利害関係者)とのバランス良い関係構築にどのように取り組んでいるかを評価し、将来の勝ち組企業を選別することを目指します。

シュローダーは、国連の責任投資原則(PRI)から責任投資への包括的なアプローチで5年連続最高評価(A+)*を受けた、数少ない運用会社の一つです。1998年からESGに関するさまざまな取り組みを行い、早くからESG要素を運用プロセスに取り込んできました。

ESG投資はシュローダーが目指す長期投資との親和性が高く、アクティブ運用マネジャーとして重要な取り組みであると考えています。最高経営責任者であるピーター・ハリソンのリーダーシップの下、全ての運用チームでESG投資の取り組みが進んでいます。経験豊富で専門性の高い17人*のESG専任担当者は、各運用チーム、拠点と連携し、それぞれの運用プロセスにおけるESG評価の精度を高めることに注力しています。英国などのNPO(非営利団体)やESG関係団体とも意見交換し、情報の厚みを増しています。
*2019年末時点

シュローダーでは、どのようにESG評価を銘柄選択に反映させていますか?

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シュローダーでは企業のESG課題に対する取り組み姿勢を定性評価として取り入れています。株式運用では、業績予想や企業評価を反映して投資先企業の「適正株価」を算出し、投資判断にいかしています。ESG評価は、この「適正株価」を引き上げたり引き下げたりする材料になります。例えば、業界平均よりも離職率が高い企業は、今後、日本の人口が一段と減少した時に必要な人材を確保できるのか、という疑問が出てきます。そのようなケースでは、将来の人手不足などのリスクを考慮して、「適正株価」を一定程度引き下げることが必要だと考えます。

豊富な経験と高い専門性を持つESG専任チームのノウハウを各運用チームのパフォーマンス向上にいかす、それが、シュローダーならではのESGの取り組みです。

シュローダーでは、ESG課題の評価・分析内容は、グローバルに共有され、運用担当者、アナリスト、ESG専任チームの3者が常にレビューしています。情報共有とレビュー、フィードバックが双方向で繰り返されることで、運用プロセスにおけるESG評価・分析の精度を高め、中長期的な投資リスクの低減と投資収益の増大を目指します。

なぜアジアや日本でESG投資が重要なのでしょうか?

投資においては、「水準」と「変化」の両方を考えることが大切です。まず、「水準」についていえば、アジアにおいてはまだガバナンスのレベルなどが欧米に比べて劣っている場合が多く、ESGの観点で適切に経営のかじ取りが行われている「経営の質が高い」企業へ投資することが重要です。ESGに関連するリスクが顕在化した場合、企業価値が大きく損なわれることになるからです。

次に「変化」についてですが、もともとよい企業がさらに良くなった場合に比べ、何らかの課題をもつ企業がその課題を解決した場合のほうが、株価の上昇率は非常に高くなります。このように「変化」は投資にとって大切な視点で、私が銘柄選定において重視しているポイントです。

日本はアジアに比べて変化率が低いイメージがあると思いますが、必ずしもそうとは言えません。例えば、欧米の企業と日本の企業を比較すると、もう少し情報開示を強化すれば、もう少しガバナンスに配慮すれば、投資家の懸念がなくなるのに、と思うことが結構あるのです。

日本ではガバナンスや情報開示は改善されてきているという印象がありますが、実態はどうでしょうか?

形や平均をみると良くなっているのですが、実態は二極化しています。進んでいる企業は、ESGを、企業価値を中長期で高めるための有効な手段として活用しているのに対し、もう一方は、同業他社に劣後しない程度に形を整えているだけに見えます。

ガバナンスはしっかりしている企業とされていたのに、ある日突然、不祥事が表面化するという例が後を絶たないのが日本です。ですから、形式だけなのか、実態が良くなっているのか、見極める必要があります。グローバルな同業他社と比較してみると、ESGへの取り組み姿勢が分かります。

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私は「ガバナンス改革1.0」は終わったと思っています。例えば、社外取締役についていうと、人数を増やしましょう、という段階は終わりました。明らかに社外取締役の数は増えています。

「ガバナンス改革2.0」では、本当に社外取締役が少数株主の利益の代弁者として取締役会で機能しているのか、本当にその企業に相応しい手腕を持っている社外取締役が選ばれているのか、など実態を見極める時期にきていると思います。そういった点では、日本のガバナンス改革は始まったばかりと考えています。

エンゲージメントとは何ですか?

私たちは投資を決めた企業は、5年、10年と長期に保有したいと思っています。そのために、対話を行って一緒に課題を解決していく仕組みがエンゲージメントです。完璧な企業はなく、どんな企業も変われます。投資家は、企業に対し、もっとこうしたら良くなるのでは?という提案ができると考えています。エンゲージメントはそれをもう少し強化したものです。

企業が課題を抱えている場合、その分、株価は割安になっていることが多くあります。そうした企業に投資し一緒に課題を解決した場合、常に質の高い経営を行っている企業に投資した場合と比べて、株価はより大きく上昇すると考えられます。このように、中長期投資において、エンゲージメントは投資収益を高める重要な要素です。エンゲージメントによって企業の課題解決が進むことで、ひいては日本株式全体のリターンを高めることにもつながると考えています。

ファンドマネジャーとして、ESGをどうとらえていますか?

四半期決算が取り入れられた影響で、日本株式市場でも「短期志向」が広がっています。四半期ごとに決算によって振れる株価にどう向き合うかは、長期投資家にとっては大きなチャレンジです。

一方で、長期投資家としては、短期の株価のブレを上手に使って投資機会にしたいとも思っています。中長期的な成長力はあるものの短期的に株価が下がっているのであれば、それは投資機会となります。ただし、そこで自信をもって買い向かうためには、ESGの視点が重要になります

ESGを企業評価に加えることは、企業の中長期的な成長、企業価値の拡大に主眼をおくものです。短期的な利益を求める投資とは対局にあると考えています。将来の勝ち組企業への選別投資を目指すという点で、ESGは長期投資に欠かせないと考えられます。資産形成を目指すみなさまにぜひ注目いただきたいと考えています。