プロの視点

2つのオフィスの物語:在宅勤務はオフィス不動産への投資をどのように変化させたか?


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ブロードバンドの混雑、子供に邪魔されるZoomコール、ミュート中にされる会話など、ここ数年、在宅勤務(WFH)における試練は話題になってきました。しかしながら、働き方の「ニューノーマル(新常識)」について熱心に議論を交わしているグループは、不動産の投資家を除けばほとんどありません。とりわけ在宅勤務はオフィスの利用や価値にどのような影響を与えるのでしょうか。

昨年私たちは、すべての不動産資産が「運営型資産」となったという記事を書きました。これは、不動産からの収入と長期的なパフォーマンスが、ビルのテナント運営の成功と高い相関関係があることを意味します。リース契約の期間の長さだけではないのです。
同時に、不動産資産はテナントに屋根や机を置く場所を提供しているだけではありません。その運営方法は、テナントのビジネスモデルや成功に大きく関わってきます。

これは、あらゆる不動産に対して言えることではありますが、オフィスには間違いなく当てはまります。パンデミック以前は、テナントの特定ニーズに対応するような、柔軟なオフィスプロバイダーが人気を博していました。
しかし現在、人々がオフィスに出社する回数が減ったことで、オフィス市場は全般的に長期的に衰退していくと考えるべきなのでしょうか?
オフィスにいる時間が短くなったため、オフィス需要が減少した、と考えるのはあまりに単純すぎると思われます。さらに重要なことは、オフィス市場が1つの同質性のある市場と考えるのは、あまりにも単純すぎるでしょう。

全体的なオフィス需要:短期

昨年は、経済がロックダウンの第一波から抜け出し、欧州全域でオフィス需要が力強く回復しました。2021年下半期は2020年の同期比で50%増となりましたが、それでもパンデミック前の平均を20%下回っています。また、企業が転貸を希望する余剰スペース量が安定化したため、オフィスの空室率の上昇は急激に鈍化しました。

欧州の2021年9月の平均オフィス空室率は8.3%で、6月の8.1%よりわずかに高いですが、世界金融危機後の2010年に付けたピーク時の10.9%を大きく下回っています。

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欧州全体では、2022年から2023年にかけて、以下の都市が最も影響を受けると予想されます。

―金融センターであるロンドン、チューリッヒといった都市:パンデミック以前では、金融機関はハイテク企業よりもリモートワークの導入が遅れていたため、金融機関の在宅勤務移行プロセスを一部反映している面もあります。また、政府機関、法律事務所、ライフサイエンスなどの他の事業者は、スタッフの在宅勤務にあまり積極的でない、あるいは不可能であるという当社の見解も反映しています。

―パリ、ローマなどの平均通勤時間が比較的長く、典型的な混雑した大都市

―ブリュッセル、コペンハーゲンなどの古いオフィスストックがあり、労働環境の魅力に乏しい都市

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全体的なオフィス需要:長期

そのため一般的なオフィス需要は、今後数年間で2019年よりも低下する可能性が高いでしょう。ただし長期的には、テクノロジー、メディア、専門サービスなどのセクターでの雇用の伸びにより、回復する可能性があります。

オックスフォード・エコノミックでは、欧州の主要都市におけるオフィスでの雇用は、都市によって大きなばらつきがあるものの、2022年から2027年にかけて年平均1%増加すると予測しています(上図参照)。雇用の伸び率の予測値のばらつきは、ある程度、都市の経済構造を反映しています。

北欧の都市は、テクノロジーへのエクスポージャーが比較的高いですが、マンチェスターでは専門サービスに強みがあります。ブリュッセルとローマは官公庁の入居が多く、マドリードとバルセロナは金融サービス業へのエクスポージャーが低いといった形です。

しかし経済構造だけがすべてではありません。リヨンが突出しているのは、おそらくパリからの企業移転が原因で、専門サービスが他の都市よりも急速に成長しているからです。 同様に、ルクセンブルクも金融の中心地ですが、銀行業よりも資産運用業に偏っているため、金融サービス業の雇用は縮小ではなく、増加することが予測されます。最後に、人口動態も長期的なオフィス需要を予測する一因となります。ベルリンを除くドイツのほとんどの都市では、今後5年間にオフィス関連の雇用はわずかな増加にとどまりますが、これは主に高齢化の進行によるものであり、労働年齢人口は横ばいか、わずかに減少すると予測されています。

また、過去20年間、オフィスでは同じスペースに多くの社員を詰め込むという傾向がありましたが、新型コロナウィルス危機後はこの傾向は反転すると予想します。今後5年から10年の間に、フランス、スペイン、英国などのスペースが逼迫している都市で、従業員一人当たりのスペースが若干改善すると思われます。

これらの要素をすべて組み合わせて考えると、2027年までにヨーロッパのオフィス需要は2019年よりも10%減少するものの、増加傾向になると推測します。

ハイブリッドワークへの移行で最も大きな打撃を受けると思われる都市は、ブリュッセル、デュッセルドルフ、ローマです。これらの都市では、雇用の伸びの鈍化、通勤時間の長さ(特にブリュッセルとローマ)、一般的に設備が貧弱な古いオフィスストックの組み合わせが重荷となりそうです。

対照的に、ルクセンブルグ、リヨン、マドリード、マンチェスターは、雇用が堅調に伸びていること、比較的近代的なオフィスストックがあることから、今後5年間で最も強く需要が回復することが期待されます。

立地だけではない

さらに詳しく見ていくと、オフィス市場が1つの同質的なものと考えることができなくなってきていることがよくわかります。

入居者が求めるスペースのタイプを見ると、パンデミック以前から成長していた「プライム」オフィスへの注目度がさらに高まっていることが分かります。 私たちは「プライム」オフィスを、新築、または最近改装された、仕様が良く、エネルギー効率の良い、ビジネスの中心地区(CBD)に位置するオフィスと定義しています。また、これらのオフィスはテナントのビジネスモデルをサポートするための重要な付加サービスを提供しており、資産からの長期にわたる収入とサステナビリティが高まる可能性があります。

アムステルダムでは、比較的低い賃貸価格により、ロックダウン前に需要が大幅に増加していた周辺地域(ArenA、Sloterdijkなど)でオフィス空室率が明らかに高くなっています。これは、テナント向けの付加価値の高いサービスや設備が提供されていないことが原因です。

逆に、オフィス街の中心であるZuidasの空室率は、2020年初頭には上昇しましたが、その後2021年にかけて急速に低下し、2%となりました。Zuidas地区では、サステナブルなオフィスストックの新築や、再整備に多額の投資を行っているほか、テナントへの付加価値の高いサービスを提供するためのアップグレードを実施しています。

同様の傾向は、ロンドン、ミュンヘン、パリのサブマーケットでも明らかです。立地条件に関しては、米国とは異なり、欧州ではパンデミックによって企業が大都市の中心部から郊外のオフィスパークや小規模都市に移転するような兆候はほとんど見られていません。

入居者のオフィスの仕様に対する要求はますます厳しくなっています。これは新型コロナウィルスの影響と、アイデアや情報を共有する文化を育むためにスタッフをオフィスに呼び戻そうとする雇用主の熱意に一部起因している可能性があります。

優秀なスタッフを惹きつけるために高品質のオフィスを整えることは真新しいことではありませんが、最新の空調設備、優れたWi-Fi、ビデオ会議、十分な休憩室、自転車置き場、その他の設備の有無は、過去2年間で非常に重視されるようになりました。

在宅で仕事をすすめる人が増えたため、机の必要性は低下していますが、会議室やコラボレーションに必要なスペースは増加しており、数年前の10~15%に対し、現在はオフィススペースの25~40%を占めています。

より質の高いスペース需要のもう1つの重要な原動力はサステナビリティです。EUと英国は2030年の二酸化炭素排出量を、1990年比でそれぞれ55[(と68) was not found]削減することを約束しています。これを達成するための主な方法の1つが、建物のエネルギー効率の向上です。建物の特別な機能に対して、入居者が高い賃料を支払う用意がないのではないか、という以前にあった疑念はもはや消え去りつつあります。特別な機能とは、例えばソーラーパネル、壁面緑化、暖房・照明・換気を制御するセンサー、スマートガラス、優れた断熱材などです。

昨年の石油とガス価格の高騰は、入居者がエネルギー消費を削減するためのさらなる理由を与えました。ドイツでは、都市中心部の「グリーン」オフィスは、総床面積の9%しか占めていないにもかかわらず、2021年6月までの12ヶ月間で、市内中心部の契約の31%を占めました。ロンドン市では、その割合は70%を超えています。

「持つ者と持たざる者」:オフィス需要をめぐるグローバルな都市の分かれ道

需要の2極化により、プライムオフィスとセカンダリーオフィスの賃料や価値には強い乖離が生じ、そしてその乖離は継続していくと我々は予想しています。

2021年にはアムステルダム、フランクフルト、ロンドン、パリなどいくつかの都市でプライム賃料が上昇したのに対し、セカンダリー賃料は下落か、せいぜい横ばいでした。欧州の多くの都市では最近の開発状況が低水準であり、プライム賃料をさらに下支えしています。

当然のことながら、このような質の違いによる乖離は、投資市場においても同様にみられます。投資家の間で収益が確保できるオフィスを求める競争が激しく、ほとんどの都市で2021年のプライム利回りは0.1~0.25%低下しました。一方、平均的なグレードのオフィスの利回りは上昇し、資本価値を押し下げました。

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もちろん、不確実性の高い時期に質への逃避が起こるのは、真新しいことではありません。2000年のインターネットバブル崩壊後、また世界金融危機の際にも、欧州のオフィス市場では同様の二極化が見られました。

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ここで、低い等価利回り(=キャップレート)がプライムオフィス、高い等価利回りがセカンダリーオフィスの代替イールドであると仮定します。そうすると、MSCI UKのデータによれば、ロンドンのプライムオフィスは2008年から2009年にかけてセカンダリーオフィスを大きくアウトパフォームしましたが、その後2010年から2015年にかけて投資家のリスク選考度が高まり、セカンダリーオフィスの賃料は低い水準からではありますが回復し始めました。このパターンはロンドン以外のオフィス市場でも見られましたが、需要とセカンダリー賃料の回復はゆっくりであり、遅れが生じています。

欧州のオフィス市場の二極化は続くのか?

過去の歴史を踏まえると、パンデミックが終われば、プライムオフィスのアウトパフォームはなくなると考えるのが妥当かもしれません。しかし、この見解はプライムオフィスとセカンダリーオフィスの相対的なパフォーマンスを決定する構造要因が変化した事実を見落としていると思われます。

過去を振り返ると、主なパフォーマンスの推進要因は景気循環であり、需要が回復し始め、プライム賃料が上昇すると、入居者は妥協して、より低い価格でセカンダリースペースを利用しました。同様に、空室率が低下し始めると、投資家は未経過リース期間が短いオフィスや改装の機会があるオフィスを積極的に購入しました。

こうした循環的な要因が消えたわけではありませんが、セカンダリーオフィスに不利に働く、長期的な構造要因が取って代わるものと思われます。

第一に、二酸化炭素排出量の削減と気候変動に対する建物の耐久力を高める(水のリサイクルや洪水防止など)ために、入居者や政府からの圧力は強まる一方です。暖房用燃料にかかる炭素税は着実に増加し、今のところオランダと英国だけがエネルギー格付の低い建物の賃貸を禁止していますが、他の欧州政府もこれに追随すると思われます。さらに、最近の建築コストの高騰は、周辺地域の一部オフィスで改修が不可能となった物件もあり、座礁資産となる危険性があります。

第二に、ハイブリッドワークへの移行は、セカンダリーオフィス市場にとってより大きな問題です。

セカンダリーオフィスは、コスト意識の高い入居者が多く、社員に在宅勤務を依頼するなどして、オフィススペースを節約しようとする傾向が高いです。このような入居者は、オフィスを持たないか、同じコストでより狭い質の高いオフィスにアップグレードすることを決断するかもしれませんが、スペースをより柔軟に使用し、ビジネスモデルに合わせた様々なビル設備(柔軟なオフィススペース、共有コンシェルジュなど)を利用するでしょう。

第三に、ロボティック・プロセス・オートメーション(事業プロセス自動化)、ブロックチェーン、音声認識などの新しいソフトウェアが、コールセンターやバックオフィスの需要を削減するでしょう。

オフィス不要説は過度な誇張である

もはやオフィス市場が同質性の高い1つのものと語ることはできません。私たちが知っているオフィス市場は移行期にあり、オフィス市場全体で構造的に衰退しているわけではありません。

一部のコメンテーターは小売市場との類似性を指摘していますが、オフィスの雇用は引き続き増加し、在宅勤務はトップラインの収益成長を促進するものではないため、これは誤った類推であると考えています。

インターネットが小売業者のコスト削減と新規顧客の開拓を可能にしたのに対し、在宅勤務はオフィス入居者の収益を改善させるだけです。実際、在宅勤務の長期化によって技術革新や生産性が低下すれば、長期的な収益成長が危ぶまれる可能性もあります。

オフィス需要は今後も二極化し、現在のセカンダリーオフィスの利回りは、サステナビリティ、ハイブリッドワーク、新技術による陳腐化リスクの増大をまだ適切に反映していないと考えています。 従って、次の10年の内、最初の約5年は、欧州のほとんどの都市で、プライムオフィスがセカンダリーオフィスを上回るパフォーマンスを発揮すると思われます。

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