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追加リターン獲得につながるESGファクターとは?


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今日、投資家の多くはESGポートフォリオからインパクト以上のものを得ようとしています。彼らはリターンも求めているのです。ESGが期待リターンに対してプラスとなるのか、それともマイナスになるのかについて、これまで何千もの論考が発表されてきました。しかしコンセンサスは得られておらず、今後も得られそうにありません。なぜなら、どの会社がESGの観点から「良い」会社であり、どれが「悪い」会社なのかについて、合意がほとんど存在しないからです。さらに根本的な点として、「良い」会社がより大きなリターンを生み出すはずだという明確な根拠も存在しません。結局のところ、資本主義は経済のシステムであり、倫理のシステムではないのです。

本レポートにおいて、私たちは異なるアプローチを採用し、企業活動の中でESG投資に関連性のある特定の活動が期待リターンに対してプラスの効果を与えるのか、そして、もしそうならそれはなぜか、を検証しました。ESGに関して利用できる多くの尺度のうち、私たちはプラスのリターンに関連があると思われる3つ、研究開発(R&D)、炭素強度、労働者安全を選び、詳細に検証しました。通常、期待超過リターンは追加的なリスクや、他の投資家対比での情報の効率的活用に対する対価として認識されますが、今回検証の対象とした3つのファクターもその例外ではないことが示されました。そしてさらに、どのタイプのESGファクターが超過リターンを生み出す可能性が最も高いかについての洞察も得られました。

研究開発

検討する最初の活動は、研究開発(R&D)です。企業のR&DがESGに関連性があるということは、一見、自明ではないかもしれません。しかし、世界の知的蓄積に貢献するR&Dは、企業が行う最も社会的に重要な活動の一つです。科学技術の進歩は経済発展にとって中心的なものであり、企業のR&Dはその中において、公的資金による研究と並んで重要な役割を果たしています¹。

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図表1は、業種毎に最もR&D強度の高い企業をロングし、最も低い企業をショートする、仮想ロングショート・グローバル株式ポートフォリオのリターンを示したものです。企業のR&D強度は、売上高または時価総額に対するR&D支出としています。このポートフォリオでは、世界の大型株式約2,000を構成銘柄とする株価指数である、MSCI ACWIの全銘柄を対象としています。このポートフォリオのリターンは2000年から2010年までの10年間のリターンは全般的に落ち着いた動きだったものの、その後の10年に上昇が加速しています。このポートフォリオでは同業種内での相対比較のため、セクター全体に対しては中立となる計算ではありますが、テクノロジー株が好調な際にはこのファクターも好調であることが見て取れます。

研究開発を重視する企業のパフォーマンスが優れていることが初めて学術文献で論じられたのは1996年で、今日のようなテクノロジー株への関心の高まりや1990年代後半のインターネットブームが到来する以前のことでした²。それ以来、この発見は多くの研究で、米国のみならず世界の株式市場において裏付けられてきました³。そうした研究では、このR&Dが提供するプレミアムについて主に2つの観点から説明しています。1つは、プレミアムをリスクに起因するものとしています。R&Dに対する見返りが、当該企業の他の種類の投資に対する見返りよりも不確実であれば、R&D強度の高い企業は低い企業に比べてバリュエーションおよび利益率の平均成長率が高くなる一方、リターンは企業ごとに大きく差が出るとの考え方です。

もう1つの説明は、様々な市場の不完全性に注目するものです。例えば、R&Dプレミアムは、R&Dの効果の実現は時間がかかるものであることを背景に相対的に短期的な投資家が求める可能性があります。別の例として、会計規則では研究開発費を他の投資のように貸借対照表に資産計上するのではなく、損益計算書に費用計上するよう定めていることから、投資家はR&Dへの支出の効果を過小評価する可能性があります。R&Dの一部が投資とみなされる(ゆえに貸借対照表に資産計上される)べきであれば、この会計慣習によってR&D強度の高い企業の純資産が押し下げられ、同業他社と比較して「割高」に見えることになると言えます。

実際に、いずれの説明も実証研究において一定の正しさが示されています。上述のR&Dプレミアムがリスクに起因するという考え方と合致する形で、R&D強度の高い企業はバリュエーションと利益率の平均成長率が相対的に高く、リターンの散らばりは大きくなっています⁴。その一方で、市場の不完全性の理論に合致する形で、より独創的な「研究」を追求する企業と「開発」を模倣する企業とでは、後者の方が見返りに関してリスクが低いにもかかわらず、前者の方が超過リターンが高くなっているようです⁵。同様に、研究での成功を追求する他の企業と技術的に密接なつながりのある企業もアウトパフォームしており、これは投資家がおしなべて技術的進歩のニュースへの反応が不十分である可能性を示唆しています⁶。これらの結果は、プレミアムは主として投資家の限界、すなわち近視眼的であることや、単純に基礎研究の可能性を投資家が十分に評価できないことを反映している可能性があるという見方を支持しています。

上記をまとめると、広範囲に及ぶ研究の結果、R&Dプレミアムは多くの時期や地域において十分確立されています。プレミアムを説明するいずれの理論にも実証的な裏付けがあり、そのことは両方のメカニズムが働いている可能性があることを示唆しています。投資という観点から言えば、もしプレミアムがリスクに対するリターンだとすれば、投資家はこのプレミアムを追求するにあたっては、関連性の低い他の超過リターン源泉にも投資を行い、ポートフォリオの分散を図るべきということになります。このプレミアムが投資家の行動によって生じるとすれば、少なくとも理論上は、いずれ裁定取引により解消される可能性があります。しかし、近年のデータでこのことを示す証拠はないようです。前述したように、実際には、R&D強度の高い企業へのリターンは、過去10年が特に好調となっています。

炭素強度

私たちが検証した第二の活動は炭素強度です。近年、気候変動問題がこれまでになく大きく叫ばれるようになる中で、投資家の関心はますます低炭素経済への移行に対する役割を果たす企業への投資へと向かっています。

企業の気候変動に対する寄与を表す尺度として最も広く用いられているのが炭素排出量ですが、企業の気候変動リスクを表す尺度としての完成度は低く、一部の企業にとってそれは明白です。風力タービンや太陽電池のメーカーは、長期的な排出量削減にとって極めて大きな役割を果たす可能性がありますが、大量のCO2排出の原因ともなっています(その工場が石炭火力発電による電気を使用している場合等)。より広い意味で言えば、カーボンプライシングが国家経済の主要な特性となれば、企業による直接の排出量よりも、製品の需要に対する価格弾力性や炭素削減の限界費用といった要素がより重要となるでしょう。しかし、炭素排出量に関するデータは広く入手でき、かつ比較的信頼性が高いため、企業の炭素リスクを表す重要な指標となっています。

炭素排出量には、スコープ1、2、3の3つの定義があります。スコープ1の排出量は、企業が所有または管理する排出源から生じるため、企業に直接的な責任がある排出量です。例えば、会社の自動車で使用されるガソリンから排出される炭素はスコープ1の排出です。スコープ2の排出量には、購入した電気、熱、蒸気も含まれます。例えば、オフィスビルや鉄精錬所の電源として使用された電気はスコープ2の排出源となる可能性があります。スコープ3の排出量には、出張、従業員の通勤、輸送・配送(上流と下流の両方)、販売した製品の使用など、はるかに幅広い企業活動が含まれます。排出量は、その定義がより幅広いものとなるにつれて会社の活動全体をより詳細に説明するものとなっているのは明らかですが、同時に、推計上の誤りの発生や、複数の会社にわたって排出量を二重に(あるいはそれ以上の回数)カウントしてしまう可能性もはるかに高くなっています。(ビジネスクラスを使用した航空機での移動からは、航空会社によるスコープ1の排出だけでなく、航空券を購入した会社と燃料を供給した石油会社によるスコープ3の排出も同時に生じることになるでしょう。⁷)

スコープ1の排出量は限定的過ぎる一方、スコープ3の排出量は測定誤差が生じるリスクが高く、かつ、あまり広く報告されていないのが現状であるため、今回の検証においてはスコープ2の排出量に着目することとします。全体を通じて、私たちは排出量を売上高により正規化し、その結果得られた測定値をその会社の「カーボンフットプリント」としています。

超過リターンを検証する定量的研究のほとんどが、おしなべて安定した市場環境を想定しています。例えば、他の条件が等しい場合、10年前にR&Dのリターンプレミアムが存在していた場合、現在も、そして今から10年後もリターンプレミアムが存在していると想定します。もちろん、他の条件は等しいとは限りません。まず、投資におけるファクターには流行り廃りがあります。バリュー・ファクターは長期にわたって低迷していましたが、2021年初めになってようやく再びプラスになってきました。そして、発見されたファクターを市場の実務家がアービトラージにより捕捉することで、結果その効果が消え去ってしまう可能性があります。20年前は、主流のファンドが企業のアーニング・サプライズを利用した取引で確実に超過リターンを得ることができました。現在では、市場参加者がアーニング・サプライズを決算発表から数分で完全に価格織り込みます。さらには、事業環境の変化により、適切なファクターも時間の経過とともに変化します。例えば、企業にとってR&Dの重要性は次第に高まってきているように思われますが、それに呼応する形で、リターンの予測指標としての純資産の有効性が低下しています。

炭素強度は、これらのすべてと異なります。気候変動問題は科学者によって数十年にわたり認識されてきましたが、重大な投資リスクとして具体的になったのは2016年のパリ協定以後と見られます⁸。これはおそらく市場は定量化可能なリスクの価格への反映には秀でているものの、認識はされていても定量化されていないリスクに対しては往々にして反応しないという特性によるものでしょう。新型コロナウイルス感染症の拡大が良く知られていたにもかかわらず、中国以外ではまだ拡大していなかった2020年初めはまだ強気相場であったことが典型的な例と言えます。

図表2では炭素強度が相対的に低い企業をロング、相対的に高い企業をショートとする仮想ポートフォリオのパフォーマンスを示しています。R&Dファクターと同様にセクター全体では中立とし、同一セクター内での銘柄比較となっていることから、石油会社が一様にショートとなるわけではありません。パリ協定以前を左側に、以後を真ん中、全期間を右側に示しています。その差は歴然です。パリ協定以前では超過リターンはほぼ確認されないのに対し、協定以後のリターンはプラスとなり、株式投資におけるファクター分解で利用される伝統的なファクターと同様となっています。

炭素強度は、これらのすべてと異なります。気候変動問題は科学者によって数十年にわたり認識されてきましたが、重大な投資リスクとして具体的になったのは2016年のパリ協定以後と見られます⁸。これはおそらく市場は定量化可能なリスクの価格への反映には秀でているものの、認識はされていても定量化されていないリスクに対しては往々にして反応しないという特性によるものでしょう。新型コロナウイルス感染症の拡大が良く知られていたにもかかわらず、中国以外ではまだ拡大していなかった2020年初めはまだ強気相場であったことが典型的な例と言えます。

図表2では炭素強度が相対的に低い企業をロング、相対的に高い企業をショートとする仮想ポートフォリオのパフォーマンスを示しています。R&Dファクターと同様にセクター全体では中立とし、同一セクター内での銘柄比較となっていることから、石油会社が一様にショートとなるわけではありません。パリ協定以前を左側に、以後を真ん中、全期間を右側に示しています。その差は歴然です。パリ協定以前では超過リターンはほぼ確認されないのに対し、協定以後のリターンはプラスとなり、株式投資におけるファクター分解で利用される伝統的なファクターと同様となっています。

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パリ協定後のリターンをより詳細に分析することで、さらなる因果関係を見出すことができるでしょうか。スコープ2のCO2排出量の顕著な特徴の一つは、業種によってその値が大きく異なることです。金融セクターによる排出量は相対的に小幅ですが、ACWI(MSCIが算出する、先進国およびエマージング国を対象とする主要総合株価指数)構成銘柄によるスコープ2の排出量のうち、およそ75%は素材、エネルギー、公益事業によるものである一方、この3つの業種グループの時価総額は合計でも約10%に過ぎません。

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銀行の評価を行うにおいて、スコープ2の排出量が鉱業企業の評価においてと同程度に重要であるとは想定しにくく、以下の図表4でもそのように示されています。炭素強度の高い業種と低い業種に分け、それぞれに対して同じロングショート仮想ポートフォリオを構築し、仮想ポートフォリオに対するリターン寄与を見てみると、炭素強度の高い業種において、炭素強度が低い企業のアウトパフォーマンスが大きくなる結果となりました。

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地域に関する検証からも同様の結果が得られています。規制およびカーボンプライシングは、欧州大陸が最も進んでおり、主要株式市場の中では、米国とエマージング国が遅れをとっています。図表5は、CO2規制が比較的進んでいない市場に比べて、欧州では炭素強度ファクターのリターンが顕著に高くなっていることを示しています。

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ここまで、2016年のパリ協定締結以降、炭素強度が価格に織り込まれるリスクファクターとなっていることを示してきました。データを業種および地域ごとに分解して得られた結果はこうした解釈を支持しており、リターンはCO2が最も関連性の高い業種と、CO2規制が最も進んでいる地域において最も高くなっています。

しかし、2016年以降における炭素強度の低い企業のリターンは、単に低炭素強度企業がバリュエーション「バブル」を享受しただけであって、将来的にさらなるリスクプレミアムは得られない(あるいはそれより悪いことに、リターンがマイナスになる)のでしょうか。図表5において、米国やエマージング市場など、CO2規制があまり進んでいない市場では、欧州など規制先進地域と比べて、炭素強度の低い企業のリターンが著しく低くなることが示されました。これは上述の、リスクが定量化可能な形に具現化されるまで、市場はそのリスクを価格に織込みにくい傾向にあるという観察と合致します。そのため、逆に規制がより厳格になれば、特にこれまで規制が遅れていた市場において、低炭素強度企業のリターンが増大することになるでしょう。

さらに、炭素強度の高い企業と比較して、低炭素強度企業の業績が高く評価されているかどうか検証することにより、バリュエーションが割高になっているかを確認することができると考えます。図表6は、先ほど検討した炭素ファクターポートフォリオに関して、パリ協定の時点の価値をゼロとし、株価純資産倍率により測定した割安さの尺度を示したものです⁹。より低い、マイナスの値は、炭素強度の低い企業が高い企業よりも高く評価されていることを表しています。相対的バリュエーションは時間の経過と共に変化していますが、その変化は相対的に小さく、地域ごとの体系的バイアスはほとんど確認できません。例えば、このファクターが顕著に機能した日本では2020年を通じて低炭素強度企業の価値が高まったように見えますが、このファクターがあまり機能していないエマージング市場でも同様の傾向を示しています。そのため、今後、低炭素強度企業が割高になる可能性はあるものの、今のところそうした影響を示すデータは確認できません。

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労働安全衛生

私たちが検討する最後のESG関連指標は、労働者安全です。この四半世紀の間に金融関連の文献でこのトピックを扱ったものはなく、世界の政府による検討の中心にもなっていません。企業のESG特性に関するレポートにおいてさえ、傾向としてあまり注目されてはいません。しかし、このように関心が非常に薄いにもかかわらず、労働者安全は極めて重要な事項です。国際労働機関(ILO)の推計によれば、毎年280万人の労働者が業務の結果として死亡しており、さらに3億7,400万人が業務により重傷を負っています¹⁰ 。

図表7は、死亡者数と負傷者数の割合に応じて加重し足し合わせた、独自の労働安全ファクターを用いたポートフォリオのパフォーマンスを示しています。このファクターのパフォーマンスは長期間にわたって一貫性が顕著で、例えばR&Dと比較して、長期的な振れ幅が緩やかです。このような顕著な結果は、労働安全が企業業績のシグナルとしてほとんど注目されてこなかったことを鑑みると、驚きと言えます。

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超過リターンの予測可能な源泉は、システマティック・リスクか若しくは他の投資家に対する情報優位性によってもたらされるはずだ、という私たちの枠組みで考えれば、労働者安全が後者のカテゴリーに属することは明白なように見受けられます。安全な労働環境の提供において特に優れた実績を挙げている企業にリスク・プレミアムが存在すべきだとする理由を思い付くのは困難です。一方、労働者にとって安全な企業は投資家にとっても(ボラティリティが小さいという意味で)「安全」な傾向があることを示すデータがあります。過去10年間で、労働者にとって「最も安全な」企業上位25%のポートフォリオのボラティリティは15.9%であるのに対し、下位25%では17.3%でした。

そのため、私たちは、このファクターのリターンは投資家の関心の低さによるものであるとのもう一つの仮説を支持します。投資家(と研究者)がこうしたシグナルに関心を払わないかもしれない理由は容易に想像できます。理由の一つは、労働者安全が実際に重大な懸念事項となるような職場環境を直接経験したことのある投資家は非常に少なく、そのためESG関連事項として、あるいはリターンのドライバーとして、労働者安全に関心を持つということに思い至らない可能性があるということです。

より深い理由としては、企業にとっての直接的な労働安全コストが、財務パフォーマンスに重大な影響を与えるには少額すぎる可能性が考えられます。シュローダー独自のサステナビリティ評価ツールであるSustainExは、労働安全に対する年間合計コストが時価総額全体の0.05%未満であることを示唆しています。これに対して、R&Dプロジェクトの成功が将来の企業収益を大きく伸ばすことになることは(投資家にとっても)見えやすいと言えます。

では、労働者安全はなぜ、直接的なコスト削減によって得られるリターンを上回るプラスのリターンをもたらすドライバーとなり得るのでしょうか。市場でのパフォーマンスと労働安全衛生を関連付けた少数の研究文献では、いくつかのメカニズムが指摘されています11。世界最大の株式市場である米国における最も明白なメカニズムは、労働安全衛生上の不備が健康保険コスト増(自家保険によるものかどうかを問わず)を通じてのものです。しかし、企業がより優れた労働安全衛生をどのように実現するか、ということの方がより重要だと考えます。危険な職場において、将来を見据えたマネジメントは、従来のテーラー主義的管理法よりも、高度なパフォーマンス達成に重きを置く業務システムを重視します12。高度なパフォーマンス達成に重きを置く業務システムは、従業員の能力拡充と意思決定の委譲に依拠しており、献身的で高度な技能を持つ労働者の育成に注力します。多くの企業は自社のマネジメントのアプローチをそうした表現で説明していますが、危険な業界において、労働安全は成功を測る具体的な尺度となります。

この理論に合致する例として、次の図表8は、職場の安全度によって企業を4つに分け(業種毎に中立化)、左から下位25%、下位25~50%、上位25~50%、上位25%に並べ、それぞれの四分位の平均収益成長率から従業員数の伸び率を差し引いたものを示しています。安全度が高まるにつれて過去3年間の収益成長率が高くなることが見て取れます。

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まとめ

近年、「ESGはより優れたパフォーマンスにつながる」かどうかについての論考が非常に多くなされています。実際に、Google Scholarで「ESG stock performance」(ESG株式のパフォーマンス)を検索すると、2万4,400件ものヒットがあり、その1万5,000件近くが2017年以降に発表されたものです。

しかし、「優れたESG」が株式パフォーマンスの向上につながるかという問いは、「優れた会計」が優れた株式パフォーマンスの向上につながるかどうかを問うことと同じくらい結論を導き出すことが難しい問いであると考えます。会計情報の中には将来の財務パフォーマンスに関連性の高いものも、そうでないものもあるのと同じように、ESG情報のすべてが将来の株式リターンを予想する上で等しく関連性があるわけではないのです。

本レポートではこの見方を、ESGの一部の特性に限定して詳細な検証を行い、それらがパフォーマンスの向上に関連するのか、その理由は何かを探るという形で適用しました。その答えは、それぞれのケースで若干異なります。企業のR&Dとアウトパフォーマンスの関連については、それを裏付ける相当程度の研究上の蓄積があります。R&Dはもともとリスクを伴う活動のため、R&D強度の高い企業に対するリターンが真の意味の「リスクプレミアム」を表す可能性があるのは当然です。しかし、それと同程度に、投資家の限られた理解と会計規則の予測できない変化も、R&D強度の高い企業のアウトパフォーマンスにつながる可能性があります。これとは対照的に、炭素強度の高い企業は数年前までは株式市場において地球温暖化への影響の代償をほとんど若しくは全く支払ってきませんでした。しかしながら、近年における規制上の圧力が、特に炭素強度の相対的に高い業種において、そうした企業が「よりグリーンな」競合他社に対してアンダーパフォームすることにつながる可能性があることを示すデータが出てきています。最後に、労働者に対して安全な職場を提供する企業がアウトパフォームする可能性があることも示されました。ビジネスの観点から言えば、これはそうした企業が質の高い労働者と先を見据えたマネジメントを行っている可能性が相対的に高いためです。財務の観点からは、あまり馴染みのない指標に対する投資家の無関心のためである可能性が高いと考えられます。

最終投資家にとっては、ESG投資を追求する様々な理由があるかもしれません。多くの投資家にとっては、投資が自分の価値観に合致していることを確認できるだけでも十分かもしれません。しかし、リターン源泉としてESGに関心を抱く投資家は、1つで全てを満たす万能なESG指標を見つけようと模索することや、「パッシブな」ESG投資が長期的にアウトパフォームするという考え方は諦めるべきです。市場を上回るリターンを獲得することは、簡単なことではありません。ESGを活用して市場を上回るリターンを獲得することも同じく困難であり、綿密な考察と分析が求められるのです。

 

¹ 特許および関連知的財産の保護は、企業がR&Dを行う動機付けとなっています。こうした保護によって社会的利益がある程度相殺されるものの、企業によるイノベーションは経済成長の中心であり続けています。これに関しては膨大な関連文献が存在しますが、主要な研究者による最近の優れた議論として、Aghion (アギオン)氏らが2021年に発表した論文、The Power of Creative Destruction: Economic Upheaval and the Wealth of Nations”が挙げられます。

² Lev and Sougiannis (1996) “The Capitalisation, amortisation and value-relevance of R&D”, Journal of Accounting and Economics, 21(1) 107-138.

³ Hou et al (2016) “Corporate R&D and Stock Returns: International Evidence”.

⁴ Ibid.

⁵Hirshleifer, Hsu and Li (2017) “Innovative Originality, Profitability and Stock Returns”, NBER WP23432.

⁶Lee, Teng Sun, Wang and Zhang (2017) “Technological Links and Predictable Returns”.

⁷気候変動対策の一環として、経済学者がほぼ一様に何らかの形のカーボンプライシングを推奨しているのは、こうした複雑さが理由となっています。スコープ1の排出者が炭素価格を「支払う」、というのが管理上実現可能な唯一の方式ですが、カーボンプライシングの市場経済によって炭素使用の責任があるすべての主体に対するコストの効率的な配分を保証されることになるでしょう。自発的な非市場メカニズム(ESG投資など)に依拠して、効果的なカーボンプライシング制度の支援なしに気候変動問題を解決しようとすることは、パリ協定の目標達成までの時間が限られていることを考えた場合、非効率的であり、成功する見込みは低いと考えられます。

⁸パリ協定は現在191カ国が署名している法的な合意であり、署名国が世界の気温上昇を2℃未満に抑えることをコミットしています。

⁹ この尺度は、地域毎ロングショート炭素強度仮想ポートフォリオの加重株価純資産倍率です。

¹⁰業務上の死亡者の圧倒的大多数は疾病によるもので、負傷による死亡者数は年間でおよそ35万人となっています。重傷とは、4日を超える休業につながる負傷と定義されています。

11 See Fabius et.al. (2016) “Tracking the market performance of companies that integrate a culture of health and safety”, JOEM 58(1) and associated references.

12Zacharatos et.al. (2005) “High performance work systems and occupational safety” Journal of Applied Psychology 90(1).

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